隣人との交流⑤
当然のように動揺した私だったが、包丁の刃先を首にあてがわれていながら、それでも冷静に指摘を行えるタカハシを前にして、内なる混乱を気取られるわけにはいかないと判断できるぐらいには冷静だった。
脳内のイメージの領域で自らを白い壁に擬し、極力平生の態度を崩さないよう気をつけながら、低い声音を保って私は尋ねた。
「……わかるのか?」
「え?」
「この人形が何か、知ってるのか?」
「……ええ、まあそれが仕事みたいなもんすからねえ」
タカハシの口から予想外のフレーズが繰り出される。
「シゴト?」
「あ、はい、ちょっと待ってくださいよ」
一瞬家の中に引っ込み、すぐに顔を出したタカハシの手には……、赤子?
「え? なんで?」
そう、タカハシは私が持っているものを瓜二つの「赤子」の人形を取り出してきたのだ。
早くも隠し切れなくなった私の当惑に頓着することなく、タカハシが続ける。
「なんで……って、だから仕事なんですよ、というよりもこっちがききたいんすけど、いったいどこでそれを、見つけたんすか」
「え……っと、ついこの間ゴミ捨て場で」
「あ? もしかして俺がせっかく施した封印を破ったの、もしかしてあんたすか?」
「え? 封印……ですか? でも、ただゴミ袋が積み重なってただけのような」
「ちょっと待て、黙れ」
「え?」
いきなりの横柄な口調にますます面食らわされた。
「時間切れだ、ちょっと今から、どうしても外せない用事があるんすよ、申し訳ないすけど、一緒についてきてもらえますか」
タカハシはそう言うと、また家の中へと引っ込んでいった。
「ついてきてもらえますか」などと尋ねておきながら、全く返答を待つことをせず、さらに「家の中へと引っ込んでい」くという流れの意味不明さには、もはや脱帽するほかない。要するに、理解しようとするだけ無駄ということなのだろう……。
私は小さくため息をつき、とりあえず頭を空っぽにした状態のまま外廊下の手すりに背中から寄りかかり、「赤子」と包丁の柄とを合わせて搔き抱くようにしながらじっとしていた。
だいたい五分後、再び現れたタカハシは、妙な服装に着替えを済ませていた。




