隣人との交流④
もちろん「若者」であるとの感は、私のイラつきを増させこそすれ、それを和らげるのには何ら役割を果たしはしない。そいつが眉根を寄せて明らかに不機嫌そうな表情を浮かべながら、開口一番次のように言い放ってきたとあってはなおさらだ。
「……うるせえな、警察呼ぶぞ」
頼んでもないのに毎晩熱唱をお届けしてくれるお前だけは絶対にその文句を口にしてはならないと、私はまず思ったが、本来の目的のためにかろうじて自分を抑え、表札の名前を見ながら言った。
「あのお、タカハシさんで、よろしいですか? 私、隣のナカムラっていいます、こんにちは、早速なんですけど、ちょっと相談したいことがあるんですけど」
「おれにはない」
「え?」
「俺には相談したいことなどない、じゃあ、そういうことだから」
「隣人」改め、タカハシが即座に扉を閉めようとする。焦っている感じもなく、それがごく自然で普通の流れだとでも言いたげな、極めて滑らかな動作だった。
気づいた時、私は右手に持っていた包丁を突き出し、扉の隙間に見える相手の喉元に刃先を近づけていた。
種々の言動から間違いなくイカレていることの明らかなタカハシも、急に飛び出した刃物には虚を突かれざるを得なかったようで、所謂「ギョっとした表情」で包丁を盗み見るようにしながら、一瞬ではあるが確かに硬直した。
その隙を逃さず、私は畳みかけた。
「死ヌカ?」
「……」
返事がない、恐怖で声も出ないようだ……。
そう考えた私は、少し余裕を取り戻し、もう一度繰り返した。
「オ前、死ヌカ?」
しかし私はすぐさま自らの誤解に気づくこととなる。
タカハシは全く包丁を怖れてなどいなかった。
二度目の問いかけに対し、ようやく返ってきた反応から、私はそのことを否応なしに理解させられた。
「へえ、面白いもの持ってますね」
先ほどとは異なり、親しみすら感じさせる口調に変わっていた。
「え?」
「その人形すよ、最近どうも妙な気配がすると思ったら、それが原因だったのか……」
「え?」
タカハシの視線は私の腰のあたりに向けられていた。
釣られて視線をやると、そこには「赤子」がいた。短い両手両足を伸ばしてコアラのようにしがみついている。開いた瞼の内側の大きな瞳で、私を見つめ返してきた。
舌の根のあたりに妙な感覚が兆し、かと思うと次の瞬間、唾液が大量に漏出して口の中を満たし始める。
……なぜ、こいつがここにいるのか? 便器の中に放り込み、水の中に沈め直しておいたはずじゃなかったか?




