噂と、「存在」の消失③
しかしGは私の葛藤(喋らせるべきか、黙らせるべきか)を露ほども察することができず、本当に純粋に心から、私が奴に「喋ってよい」とのお墨付きを与えたのだと勘違いしたらしかった。
「X? ああ、アヤカのことね、アヤカ今日休みなんだ、へえ、全然気づかなかったわ、あの子、存在感ないもんねえ、アハハ、アハハハハハハハ」
このあたりでいっぺん締めておくかと考えた私は、素早くしゃがみ込み、床を拳で三十回近く殴りつけた後、もう一度立ち上がって低めの声で尋ねた。
「お前……、いったい何様のつもりだ?」
「……はい、すみません」
「いいか、俺は、『赤子』の話が、知りたいと言ったんだ、だから余計なことは言わずに、ただそのことについてだけ、喋れ」
「はい、わかりました、わかりましたよ……」
Gがその後神妙に語ったところによれば、「赤ん坊が出没し、泣いて何事かを訴えてくる」というのは、この街に昔から伝わる、ある種の「都市伝説」のようなものであるらしかった。「赤子」の人形が夜な夜な出没し、泣き声を響かせ、それを耳にした者の心を奪ってしまうのだそうだ。
「『赤ん坊』の泣き声を耳にしたとしても、決して立ち止まってはならない、誤って応対などしようものなら、それ以来二度と、『赤ん坊』の傍を離れることができなくなるだろう、まあ自分一人では何もできず無力で、ただひたすら泣き喚いて周囲に助けを求めることしかできないのが『赤ん坊』という存在であり、そんな『赤ん坊』を世話することが、まさしく『親』としての務めなのだから、仕方ないと言えば仕方ないわけだが……」
そこまで聞いたところで、私が不覚にも大きな衝撃を受けたことは想像に難くない。なぜならGの語る怪談話は、まさしく前日に私が経験した出来事そのものだったからだ。
しかしそれでも「講師」と「生徒」という関係上、戸惑いを気取られるわけにはいかず、私はすぐさま一計を案じた。
黒板代わりのホワイトボードに裏拳を十数回、洗練されたきれいなフォームでかました後、改めて話の腰を折ってやったのだ。
「あいかわらず、よく喋るなあ、オマエは」
「え……っと、まあ、興味あるんでこういう話、もちろんあくまで噂ですけど……」
途端にGが勢いを失い、私は自分の目論見が早速達せられたことを理解した。
しかしそこで手を緩めてしまうわけにはいかない。




