噂と、「存在」の消失②
その日は季節が夏ということで、連中は怪談を話題にして会話に花を咲かせていたようであった。
そしてその最中、クソガキの一人で、私がひそかに「巌窟王」と名付けた巨漢の女生徒(以下、Gと記載)がいきなり次のように言い放ったのである。
「お化けと言えば、そうだ、最近また出るらしいよ」
「出る? 何がですか?」これは「童貞(講師B)」のセリフである。
通常の授業はだいたい二人で受け持つことになっており、この日はこいつと組まされていたわけだが、年端もいかないクソガキにわざわざ敬語を使うというのがBの特徴だった。
過去にどんなことがあったのかは知らないし知る気もないが、恐らくこれまでの成育歴から、「奴隷根性」が拭い去りがたい程度に身に沁みついてしまっているのだろう。だからいつまで経っても童貞臭いままなのだ。かわいそうに……。
「赤ん坊の幽霊だよ、このあたりに出るらしいんだ、目撃情報も結構あるらしい、歩いてると泣き声が聞こえるとか何とか」
周囲の耳目を独占できたことに興奮したのか、Gの舌はさらに澱みなく回転していく。昨今のコンプライアンス的に容姿についてこれ以上立ち入った記述を行うのは差し控えるが、それでも体躯に比例するようにして態度があまりにデカすぎることは看過できない。……こいつはいったいなぜ、これほどまでに偉そうなのか? なぜ偉そうにできるのか?
「その話、前にもしてましたよねえ、本当なんですか?」
……Bよ、少し黙れ、お前のその慇懃な物言いがガキどもを調子に乗らせているのがわからねえのか?
私は心の底からそう言ってやりたかったが、実際には黙って腕組みをしたまま立ち続けていた。
もちろん日和ったのではない。
クズどもの見るからに臭そうな口に偶然上った話題に、少なからず興味をそそられていたためである。
「本当だって、昔からこのあたりに伝わってる実話なんだよ、あたしぐらいの年齢の人間はみんな知ってる」
「確かに、俺も小学生ぐらいの頃、聞いたことある気がする」
私がひそかに「ヒキガエル」と名付けた(口元がそっくり)クソガキの一人(以下、Hと記載)が、誰の許可も得ずにいきなり会話に参戦して同調を開始する。それに勢いを得たかのようにBが後に続いたところで、好奇心が抑えきれなくなった。
「えー、僕はないですけどね、もう少し詳しく教えてくださいよ」というBの発言を遮るように、口を挟んだ。「俺も知りたい」
その一言で一瞬にして場の空気が張り詰めるのを私は敏感に感じ取った。どいつもこいつもが揃って顔をしかめ、互いに目くばせを交わし合っている。
意図した結果ではなかったが、こいつらは緊張しているぐらいがちょうどよいのだと考え、もう一度繰り返す。
「赤子について、俺も詳しく知りたい」
「……え、っと、そうですね、あなたは……、確かナカジマ? さんでしたっけ? うーんと、ナカジマさんの頼みとあれば、教えないわけにはいかないですねえ、ハハハ……、でも、いいんですかねえ、今授業中なんですけど、あたし、このまま喋り続けて大丈夫ですか?」
この期に及んでようやく自らがくっちゃべっていることのおかしさに気がついたのか、Gは私に「確認」をとろうとした。本当は今すぐにでも黙ってほしかったが、情報を求める気持ちには抗えず、仕方なく許可を与えてやることにした。
「大丈夫だ続けろ、今日はXがいないから問題なし」




