「仕事」について③
恐らく五十歳を超えているにも拘らず、金縁の眼鏡をかけ、やけに毛量の多い髪を整髪料でテカらせながら逆立て、さらに体臭を防ぐためなのか知らぬがキツい臭いの香水を身体中に振りまいており、要するに大層な若作りに励む人物が初めて目の前に登場してきた時点で、冗談もほどほどにしておけ、と私は吐き捨ててやりたくなった。
「若作り」が悪いというのではない。
年老いていくのが怖いという心境は私にも理解できるし、その流れに逆らおうとするのは、生き物として普遍的な欲求とも言える。
だがそれでもせめて、時と場所を選んでやっていただきたいとだけ、私は言い添えたい。
例えば新しく採用する有能な人材の面接に、七五三もびっくりのおめかしをして登場するのはいかがなものなのか。半ズボンなのは百歩譲って許してやってもよいが、むき出しになった脛毛を掌で丸めて「蟻」を作ろうとするのはさすがにやめてくれ……。
しかし「塾長」を自称するそのクソ野郎、いや、正真正銘筋金入りの糞(以下、「K」と記載)が本領を発揮し始めたのはその先だった。●
面接の場でKはこちらにほとんど視線をくれることなく、手元の履歴書にばかり目を落としながら、それでいて執拗に詰問することを続けた。
「タナカ、ユウイチ……くんで、いいのかな? ん? タナカユウイチ? どこかで聞いたことあるような……」
「……」それは「田中●二」だろ、そもそも俺の名字はナカムラだ、と私は思ったが、黙っていた。
「24歳で、大卒3年目ねえ……、あれ? キミ、もともと学校に勤めてたんだ、しかもA県で? 全然違う場所じゃん、しかも年度の初めの方で退職してるし……、どうしたの? 何があったの?」
「……えっと、まあちょっと体調不良で」
「あ、そうなあんだ、メンタルやられちゃったってこと? 最近増えてるらしいよねえ、そういう先生、……でも大丈夫かなあ、けっこうキツイよこの仕事も、アハッ、アハッ、アハハハハハハ」
その発言に対しては、恐らくブチ切れて息の根をとめてやるというのが反応として正当だっただろう。たとえ後から罪に問われようとも、Kのようなクズ中のクズを、そのままノサばらせておくのは世のためにならない。
だがもちろん、TPOを考慮することなく、ただひたすら正当な「展開」のみを求めて邁進し、その代わりに全てをぶち壊しにしてしまうほど、私は子供ではない。
いかなる理想や好悪の情を心の中に抱いていようとも、金を稼がなくては生きていけないというシンプルかつシビアな黄金律から人は決して逃れることができない。
そしてこれまた当たり前のことだが、金を稼ぐためにはまず、雇われるところから始めなければならない。
だから私はKからいかなる恥辱を味わわされようとも、「ハハハ」とあいまいに作り笑いを浮かべることに最後まで徹し続けた。
そして結果、見事(?)採用され、アルバイトとして働き始めた。
去年の梅雨時のことである。




