7 王子と一緒にストーカー 2
ストーカー、否、カトレア親衛隊の朝は早い。
私とアベル王子はカトレア親衛隊を結成し、活動を開始したのだけど、活動内容は過酷だった。前日、カトレアのことを話せることが嬉しかったらしく、夜遅くまで如何にカトレアが素晴らしいかという話を延々と聞かされた。
やっと解放されたと思ったのもつかの間、翌朝5時に私の部屋の扉が激しくノックされた。
「おい!!留学生!!時間だ。出発するぞ」
「こ、こんな時間にですか?」
「当たり前だろ!!」
慌てて身支度を整え、学園の敷地からこっそりと外に出る。
向かう先は・・・
「マクダーモット侯爵家の王都別邸に向かう。まずは今日のカトレアをチェックする」
「は、はあ・・・」
移動しながら話を聞くと、一度カトレアが体調を崩した時があったらしく、その時はそんな事情を知らないアベル王子は校門で何時間も待ち続けたそうだ。
「それ以後、心配で心配で堪らなくなって、朝起きたら本日のカトレアの体調を確認に向かうようにしている」
「そ、そうなんですね・・・」
ガチでヤバいタイプのストーカーだな・・・
顔も整っているし、王子だけど、色々と拗らせている。まあ、真面目なのは分かるけど。
マクダーモット侯爵家の王都別邸に到着すると、アベル王子は慣れた様子で付近の大きな木に登り始めた。私も後を追う。
木登りなんて、子供の頃以来だけど「忍者」のジョブの影響からか、苦も無く登ることができた。
「ここからは別邸の食堂がよく見える。これでお前も確認してみろ」
「は、はい・・・」
アベル王子に双眼鏡のような魔道具を手渡された。
「本当によく見えますね。それにしてもこの魔道具は?」
「へルローダに依頼して作ってもらった物だ。ドワーフ製なだけあって、性能はかなりいい。こっちのボタンを押すと、夜間でもよく見える」
双眼鏡みたいな魔道具には、暗視スコープの機能も搭載されているようだ。
しばらくすると、食堂にカトレアが現れた。
アベル王子がつぶやく。
「今日もカトレアは奇麗だ」
カトレアはきっちりとトレードマークの金髪縦ロールが既にセットされていて、制服を身につけていた。
アベル王子によると、自宅の食堂でも王族や上級貴族の場合、公の場所扱いになるそうだ。
「俺も王宮に住んでいた頃はよく指導された。私室を一歩出れば、そこはもう王族としての振る舞いを求められるとな」
「そうなんですね・・・」
ギリギリまで寝て、寝ぼけたままボサボサの頭で母が作った朝食を毎朝食べている実家暮らしの庶民の私には、遠い世界の出来事のように思われた。
「ベーコンエッグにスープにサラダ。いつもと変わらないメニューだな。カトレアも美味しそうに食べている。今日も体調は良いようだ」
しばらくカトレアの食事風景を観察していたところで、グー!!っと私のお腹が盛大に鳴った。
恥ずかしいけど、あんなに美味しそうな料理を見せつけられたら、そうなっても仕方ないと思う。ここまで何も食べず、ずっと動き続けてきたからね。
「ふっ・・・おい、留学生。これを食え」
「ありがとうございます」
手渡されたのはカチカチの乾パンのようなものだった。
「いつでも動けるように腹に入れておけ。俺も毎朝、ここでカトレアと一緒に食べているんだ」
それって、一緒に食べていることになるのか?
そう思ったけど、空腹に耐えきれず、カチカチの乾パンのような物をかじる。まあ、予想通り美味しくはなかった。
カトレアの食事が8割方終了したところで、アベル王子から指示があった。
「よし、出発するぞ」
「えっと・・・これから何を?」
「通学路のチェックだ。通学中にカトレアに何かあったら困るだろ?」
それはそうだけど・・・
まずカトレアが通学に使う馬車をチェックしに向かった。
「馬の調子も良さそうだ。御者もいつも通り馬車をしっかり点検しているな。流石はマクダーモット侯爵家の使用人だ。仕事に真剣に取り組んでいる」
「そうですね・・・」
その後、通学路を歩きながら危険な箇所や暴漢が潜んでいないかをチェックしながら学園までの道を進む。
この世界にSPやシークレットサービスがあったなら、アベル王子は重宝されるだろうけど、この世界にそんなものはないし、アベル王子は王族だし、宝の持ち腐れだね。まあ、やってることはヤバいストーカだけどね。
マクダーモット侯爵家の別邸から学園までの丁度中間地点付近で、倒れた猫を必死で介抱している女学生を見つけた。
あれ?主人公のマリアじゃない?
「アベル王子、どうされますか?」
「放っておけ。庶民のやることは分からん。それよりも急ぐぞ。点呼までに帰らないと大変なことになるからな」
アベル王子が言うには、ベファーナから口では言い表せないくらい酷い罰を受けるそうだ。
「噂だが・・・点呼に間に合わなかったら、命はないかもしれないらしい」
だったら急ぐしかないな・・・
しかし、マリアのことも気になる。
これもイベントにあったような・・・
「おい、留学生。行くぞ」
「は、はい・・・でも、少し心配なので声だけでも掛けませんか?」
「そんな必要なないと思うが、なぜだ?」
「例えばですが、猫を介抱しているように見せかけた暴漢かもしれませんよ。お優しいカトレア様なら、そんな状況を見たらお声掛けするでしょうしね」
「そ、それは大変だ。助言感謝する。声を掛けるぞ」
なぜ私がそんなことを進言したかというと、これには訳がある。
マリアが介抱しているのはただの猫ではなくケットシーで、この治療行為が元でマリアの才能が開花する。
そしてその場に偶々通り掛かった攻略対象のカイン王子がマリアの姿勢に感動し、自分の馬車に乗せる。
その後、学校に到着したところで、何の事情も知らないカトレアがマリアを罵倒するのだ。
「何を考えているのですか!!どんな事情があろうとも、王族の馬車に平民が同乗するなど不敬です。立場を弁えなさい!!」
このようなことが積み重なり、カイン王子はカトレアに不信感をもつようになり、カトレアはカイン王子との婚約を破棄される。
小さなことだけど、私たちがこの運命を変えたらどうなるんだろう?
やってみる価値はあると思う。
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