24 カトレアの誕生会 7
貴族街に魔物の襲撃なんて、全くの想定外だ。
カトレアとの打ち合わせでは、誕生会がある程度進行したところで、公務を理由に退席する予定だったけど、この状況では無理だろう。
しばらくして、詳しい報告を受けたカトレアが宣言する。
「緊急事態です。この付近に魔物が迫っています。申し訳ありませんが、誕生会はこれにてお開きとさせていただきます」
出席者がざわつく。
「ですので、これからは貴族の義務を果たしましょう。戦える者は武器を取り、私に続いてください。戦えない者は屋敷内に避難して下さい」
アベル王子が私に尋ねてくる。
「この後、どうするのだ?」
「えっと・・・カトレア様の護衛をしてはどうでしょうか?」
「そうしよう」
リチャードも声を上げる。
「野郎ども!!俺たちの出番だ。行くぞ!!」
「「「へい!!」」」
そう言うと、リチャードたちは屋敷を出て行ってしまった。
残された出席者は混乱状態だ。
「と、とにかく逃げるぞ!!」
「そうよ。まずは私たちの命が大事だわ」
「おい、お前たち。命を懸けて私を守れ」
出席者のほとんどが貴族だが、こんな貴族ばかりだと、この国が心配になってくる。
そんな貴族を無視し、戦闘服に着替えたカトレアは、私兵を率いて魔物が暴れている現場まで向かった。私たちもカトレアに同行する。しばらくして、リチャードたちと合流した。
「叔父様、どんな状況ですか?」
「数は多いが、大した魔物はいない。だが、これじゃあ俺たちも実力が出せんな。それにしても嘆かわしい。ここまで貴族どもが腐っているとは思わなかった」
「叔父様も私も、貴族ですわよ」
「そりゃそうだ」
リチャードが言うには、貴族街に住む貴族たちの戦力を結集して対応に当たれば、難なく撃退できるという。ただ、貴族たちは自分の身を守ることを最優先に行動しており、全く統率の取れた行動ができていないようだ。
「屋敷に籠城を決め込む奴、我先に逃げ出す奴・・・みんな腐ってやがる」
リチャードが吐き捨てるのも分かる。
「せめて、非戦闘員の避難誘導だけでもやってくれればいんだが・・・流石に混乱している民衆を守りながらは戦えないぞ」
ここでアベル王子が驚きの発言をする。
「それなら俺がやろう。そういうのは得意だからな」
私はこっそり、アベル王子に近づき、苦言を呈した。
「本当にできるんですか?やっぱりできませんでしたじゃ、大変なことになりますよ」
「それは大丈夫だ。最近、「扇動」というスキルが身についた。この愚民どもを扇動すればいいのだろ?」
「守るべき民を愚民と呼ぶのはどうかと思いますが、やれるならやってください」
すると、アベル王子はマジックバックから拡声の魔道具を取り出した。
「皆の者よく聞け!!私は第一王子のカインだ。まずは落ち着け。非戦闘員は速やかにマクダーモット侯爵家の別邸に避難しろ。そして戦える者はここに集え。そして貴族としての義務を果たすことを期待している」
スキルの影響だろうか、タネが分かっている私でも何か勇気づけられたように思える。
するとすぐに完全武装した貴族とその私兵たちがどんどんと集まってきた。それぞれが自分をアピールするようにアベル王子の前に来て挨拶をしている。本当に現金な奴らだ。
ある程度、戦力が集まったところで、アベル王子が言葉を発する。
「この戦力なら負けることはない。それにここには優秀な冒険者も揃っている。リチャード・ドレイク子爵。前へ」
リチャードがアベル王子の前に歩み出る。
「貴殿はA級冒険者でもある。よって、指揮権を貴殿に委譲する。存分にやるがよい」
「やるじゃねえか、王子様!!後は任せてくれ。じゃあ、早速指示をするぞ。バンデル家は東の通路を!!ソーマラン家は遊撃運用・・・」
リチャードが指示を出し、それに従って貴族たちの私兵が動き出した。
こうなれば、どうということはない。どんどんと魔物は討伐されていく。
ある程度、落ち着いたところで、カトレアが言う。
「殿下、そろそろ王城に帰還されたほうがよろしいかと存じます。ここは私が責任を持って処理致します」
「う、うむ・・・後は頼んだぞ」
これ以上ここにいると、ボロが出てはいけないとカトレアが判断したのだろう。
私とアベル王子は逃げるようにその場を去った。
★★★
その後の話をする。
今回の件で、多数の負傷者を出したものの、奇跡的に死者は出なかった。商業地区も同じく、カイン王子に率いられた近衛隊の活躍によって最悪の事態は免れたようだ。そして貧民街は事前の対策と戦力を集中させたことが功を奏して、一番被害が少なかった。
このことは国王陛下も大変喜ばれており、多くの者が勲章を授与されることになる。
近衛隊やリチャードが率いる冒険者クランはもちろん、学生にも勲章が授与された。その中にはマリアやゴードン、クレバスなどのゲームに登場する主要なキャラも含まれていた。
最後にカイン王子についてのおかしな噂が流れたことに触れておく。
あるの者は「商業地区で近衛隊を率いて勇敢に戦った」と言い、ある者は「貴族街で貴族を指揮して鎮圧に貢献した」と言う。
また、「カイン王子は複数の影武者がいる」といったものや、「カイン王子は予言者で、以前から襲撃を予言していた」という荒唐無稽な噂も流れた。
そのような噂について王家は、噂を訂正することはしなかった。これには政治的な理由がある。
というのも、カイン王子がどこで戦ったかによって意味合いが変わってくるからだ。真実である商業地区で戦ったことを正式に発表すれば、貴族よりも商人を重視していると捉えられ、貴族の反感を買ってしまうし、その逆もまた然りだ。
なので、真実をうやむやにしたほうが都合がいいと判断したのだろう。
そのお陰で、私たちのことは正式に捜査されることがなかった。
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