22 カトレアの誕生会 5
誕生会が始まった。
無駄にスペックの高いアベル王子は、カトレアとのオープンニングダンスもそつなくこなし、出席者の挨拶を受けている。
こちらも、ほぼ完璧に受け答えをしているし、答えにくい質問は上手くカトレアがサポートしていた。
これなら、もう大丈夫だ。
この挨拶タイムが終れば、基本的に後は歓談の時間が続く。合間合間にダンスをすることはあるみたいだけど、それもアベル王子ならそつなくこなすだろう。
まだ挨拶を待つ出席者の列は長く、まだまだ時間は掛かりそうだけどね。
なので私はこの隙に料理を堪能することにした。私は「隠密」と「認識阻害」のスキルを発動させた。
パーティーは立食形式で、目につく料理をどんどんと口に入れていく。マグダーモット侯爵家の威信を懸けた誕生会の料理だけあって、かなり美味しい。
もう私は食べ放題のレストランに来た気分だった。
そんな中、異質な集団を発見する。
カトレアとカイン王子擬き(本当はアベル王子)への挨拶の列に並ばず、ぐびぐびと酒を飲み、塊肉にかぶりつく集団がいた。
何の集団?
そんなことより、挨拶に行けよ!!流石に失礼だろ?
それにアンタらがそこにいたら、私がその肉を食べられないでしょ!!
怒鳴ろうかと思ったけど、そんなことは口に出せない。
なので、こっそり塊肉を取ることにした。まあ、私は「隠密」と「認識阻害」のスキルを使っているから、バレることはないだろう。
そう思って、こっそりと塊肉に手を伸ばしたところ、いきなり肩を後ろから掴まれた。
慌てて振り返ると、頬に十字の傷がある怖そうな壮年の男が、私を睨みつけていた。
「おい、お前。何でスキルなんて使ってるんだ?怪しいな?」
ば、バレた!?
優秀な「忍者」であるこの私のスキルを見破るとは何奴だ!?
しかし、冷静に考えてみると、優秀な「忍者」なら塊肉を食べるために危険は冒さない。
私はスキルを解除して、正直に言った。
「そ、その・・・お腹が空いて・・・お肉が食べたくて・・・」
「うん?まだ子供じゃないか?」
「こ、子供じゃないです・・・」
この男はかなり迫力がある。目力も凄い。
そんな時、男の部下と思われる男たちが声を掛けてきた。
「リチャードの叔父貴。子供をビビらせたらいけませんぜ」
「本当ですぜ。このお嬢ちゃんも、つまみ食いに来ただけでしょうしね」
「お嬢ちゃん、大丈夫だよ。取って食いはしないからな」
「俺はこの子がスキルを使っていたから、声を掛けただけだ。子供だと知っていたら、こんなことはしてないぞ。それにお前たちも全く気づかなかっただろ?」
「そう言われればそうですね。お嬢ちゃん、なかなか見どころがあるな」
「どうだい?今の職場で満足に食べさせてもらっていないなら、ウチに来るかい?」
「まあ、とりあえずは、この肉でも食いな。旨いぞ」
「あ、ありがとうございます」
それから男たちは、私に優しかった。頼んでもないのに、どんどんと料理を持ってきてくれた。
「ところでお嬢ちゃんは、何でそんな恰好をしてるんだ?」
早く解放してほしかった私は、虎の威を借ることにした。壇上のアベル王子を見ながら言う。
「あそこにいらっしゃる方のお付きをしています」
その男の表情が変わる。
「いい奴だとは聞いていたが、こんな可愛い子を碌に食べさせてやらないなんて、許せんな。ちょっと文句を言ってやらんとな。そんな奴がカトレアを大切するとは思えん」
すると男に率いられた集団は、挨拶に並ぶ他の出席者を押しのけて、カトレアとカイン王子擬き(本当はアベル王子)の前に立った。
「おい、王子様。流石に酷いんじゃないか?」
「誰だ、お前は?」
カトレアが間に入る。
「リチャード叔父様・・・もう酔っていらっしゃるのですか?」
「酔ってない。お前が心配になっただけだ。こんな小さな子に酷い仕打ちをしやがって・・・」
事情の分からないカトレアに私は小声で説明をした。
カトレアはため息をついた。
「本当に申し訳ありません」
「貴方だけの所為ではありません。こちらの落ち度でもあるのです。リチャード叔父様を出席させた時点で、多少のトラブルは覚悟していたのですから・・・」
詳しく聞くと、目の前でアベル王子と口論している男はカトレアの伯父で、名前はリチャード・ドレイク。一応、子爵位を持っている貴族だが本業は冒険者で、それも最上級のA級冒険者らしい。それほどの実力者なら、私のスキルを見破ったとしても不思議ではない。
「叔父様は、幼い頃から私を可愛がってくれました。悪い人ではないのですが、酒癖が悪く、飲むと誰彼構わずに絡んでいくのです。根は優しくて、いい人なのですが・・・」
それをいい人とは、普通は言わない。
「運が悪いことに叔父様が率いる冒険者クランが遠征で王都に滞在しており、どうしても私の誕生会に出席すると言い出したのです。こちらとしては断ることはできないので、叔父様たちが迷惑を掛けないように叔父様たちが気に入るお酒や料理を別に準備して、やんわりと隔離措置を取っていたのです。トラブルを起こす前に酔いつぶれてくれたらよかったのですが・・・」
それで、あのテーブルだけお酒が大量にあって、塊肉が置いてあったのか・・・
今思えば、他の料理と全く違っていたと思う。
「叔父様は常々、『カトレアの結婚相手は、俺が選ぶ』と言っておられました。多分、殿下に難癖をつけたかっただけだと思います。理由なんて何でもよかったのでしょう」
私だけの所為じゃなくてよかった。
でもこの後、どうすればいいんだ?
ゲームではカトレアの誕生会の描写はなかったしね。ゲームのカトレアの剣幕から考えて、地獄絵図だったことは想像に難くない。
そんなことを思っていると、口論はますます激しくなった。
「メイドの一人も碌に食べさせられない奴に、カトレアを幸せにできんと言っているんだ」
「メイドがどうなろうと、俺の知った事ではない。メイドとカトレアを一緒にするな」
「この野郎!!表に出ろ」
「カトレア。この場合は表に出たほうがいいのか?そういう段取りだったか?」
常識知らずのアベル王子には、リチャードの言っている意味が分からないようだった。
私とカトレアは、頭を抱えた。
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