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乙女ゲームの世界に転移したOLが、陰ながら悪役令嬢を救う話  作者: 楊楊
第二章 カトレアの誕生会

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19 幕間 変わりゆく貧民街

 ~マリア・アローカ視点~


 私の暮らす貧民街はここ最近、大きく様変わりした。

 ゴーレム工場や魔道具工場が建設され、防護柵を作る公共事業が始まったことで、街は活気に溢れている。それまでは住人の半分以上が職にあぶれ、犯罪組織の構成員が大きな顔をして闊歩しいたのが遠い昔の出来事のように思えてくる。

 少し前までは、路上で寝ている人が多くいたのだけど、今ではそんな人はまず見ない。まあ、酔っぱらって寝ている人は偶にいるけどね。


 孤児院や教会の経営も上手くいっている。

 寄付に来る人は増えたし、無料で読み書きを教える教室には子供たちだけでなく、大人も多く参加するようになった。読み書きができるだけで、それなりの仕事に就くことができると、みんなが思うようになったからだ。

 司祭様も喜んでいる。


「司祭様。本当によかったですね」

「ええ。マリアさんもありがとうございます。学園の勉強も大変でしょうに、こちらの教室を手伝ってもらって・・・」

「気にしないでください。私もできることはしたいですからね」

「ありがとうございます。でも、無理はしないでくださいね。マリアさんは治療院の手伝いもしてくれていますし、ちょっと心配になります」

「大丈夫ですよ。最近は魔力切れも起こさなくなりましたしね」


 仕事をする人が増えれば、治療院も忙しくなる。どんなに気をつけていても、工事現場に怪我は付き物だからね。

 でも不思議なことに何度も回復魔法を使ったことで、回復魔法の効果が上がったように思う。それに魔力切れも起こさなくなった。多分、これは頑張っている私に神様がご褒美をくれたのだと思っている。だから私も、もっと頑張らないとね。


「贅沢な悩みですが、教師陣の人材が不足していましてね。経営が楽になったとはいえ、高額な給料は払えませんから、好き好んでここに教えに来てくれるような方はいませんから・・・」

「だったら学園で、ボランティアを募ってみます。ダメモトですけど」

「感謝します。ただ、無理はしないでくださいね」

「はい」


 そんな話をしていたところ、レジーナさんが訪ねて来た。

 レジーナさんは犯罪組織「赤い狼団」の親分だ。ただ、最近は自警団のようなことをしている。何でも神の御使い様によって改心したらしい。

 まあ、元々がやむにやまれぬ事情で犯罪組織の親分になった人だからね。昔から他の犯罪組織に比べて、住民の評判はよかった。


「レジーナさん、お久しぶりです。何かありましたか?」

「マリア、久しぶりだね。ちょっと子分たちが真面目にやっているか見に来ただけだよ」


 レジーナさんの子分たちは、教会や孤児院の改修工事に従事したり、無料教室の授業を受けたりもしている。

 私はレジーナさんにお世話になったあの人について聞いてみた。最近、あの人のことが気になって仕方がない。


「あの方たちは、どういった方なのでしょうか?不思議なことに顔が全く思い出せないんです」

「多分、「認識阻害」のスキルを使っているんだろう。私もこの稼業は長いから、そういう奴を多く知っている。盗賊やスパイがよく使うスキルだよ」

「それって、どういうことでしょうか?」

「あまり深く関わらないほうがいいってことだよ」


「認識阻害」のスキル持ちで、盗賊かスパイ?


「まあ、獣人の私からすれば、いくらそのスキルを使っていようが匂いで分かるんだけどね。ここの住人は神の御使い様だと言っているけど、私はそうじゃないと睨んでいる。多分、高貴な方の関係者だな。なぜ、こんな慈善活動をしているか分からないけどね」

「もっと詳しく聞かせてください」

「あまり詮索しないほうがいいと思うよ。危険な奴らには違いはないからね。ただ、助言くらいはしてやるよ。後は自分で調べな」

「ありがとうございます」


 レジーナさんの助言とは、出会った時のことを詳しく思い出し、色んな人に話を聞けということだった。



 ★★★


 その日から私は、あの人のことを調査するようになった。

 そんなある日、パトロールをしている顔見知りの子ケットシー2匹に声を掛けてみた。


「いつもパトロール、ご苦労様。お礼にクッキーを持って来たわよ」

『ありがとう、マリア』

「ところで、貴方たちは誰に頼まれてやっているの?」

『それは言えないんだ。秘密の組織だからね』

『そうだよ。いくらマリアでも、カトレア親衛隊の活動は教えられないんだ』


 あれ?カトレア親衛隊って・・・

 思い出してみると、あの人はお付きの女性を「留学生」と呼んでいた。噂によると、極秘でシャイターン学園には留学生が何人か通っているというし、もしかして学校関係者?


 そんなことを思っていたら、けたたましい警告音が鳴り響いた。


『マリア、ごめん!!出動だ!!』

『また今度ね』


 私も子ケットシーたちを追いかけた。

 現場に着くと、人相の悪い男が10歳くらいの女の子を脇に抱え、ナイフを女の子の喉元に突き付けていた。そして、対峙しているのは孤児院で暮らすトム君だった。けたたましい警告音はトム君が右手に持っている魔道具から発せられていた。

 その警告音で、多くの住民がこの場に集まって来た。


「ジュリーを放せ!!」

「おい!!小僧。その音を止めろ。そうしないとこの子の命はないぞ」

「やめろ!!止めたいけど、止め方が分からないんだ」


 周囲の住民たちは、どうしていいか分からず、男を取り囲んでいるだけだった。


 多分、最近王都で流行っている小さな女の子を狙った人攫いだ。ここは私が行くしかない。これでも学園での戦闘実習の成績は良いほうだからね。

 私は一度深呼吸して、男の隙をうかがっていた。


 そんな時だ。どこからともなく、円形の見たこともないような鉄板が飛んできて、男のナイフを持っている手に突き刺さった。男は悲鳴を上げてナイフを取り落とした。


 チャンスだ!!


 私がその男に飛び掛かろうとしたところ、その男はどこからともなく表れたあの人に殴り倒された。そして、遅れてやって来た自警団にその男はすぐに拘束された。顔はよく認識できないけど、間違いなくあの人だった。

 あの人はトム君とも知り合いだったようで、トム君を叱りつけていた。


「あれほど、もう騒ぎを起こすなと言っただろ!!理解できないのか?これだから平民は・・・」

「だって仕方ないだろ?ジュリーがピンチだったんだ」

「うるさい!!口答えするな!!」


 そこへお付きの少女も現れた。


「よくやったわね。これは新しい魔道具よ。またピンチになったら使ってね。でも、いたずらで使ったら駄目よ」

「う、うん・・・」


 褒められ、更に魔道具を交換してもらったトム君は嬉しそうだ。

 私は勇気を出してその人に声を掛けた。


「トム君とその友だちを助けていただき、本当にありがとうございます。できればお礼を・・・」


 言い掛けたところで、遮られた。


「礼などいらん!!それよりもこのガキどもをしっかり指導しろ」

「は、はい・・・」


 この人は本当に口が悪い。でも絶対、優しい人だ。


 それと間近でその人を見たけど、顔はよく分からなかった。

 私は心に強く願った。この人の顔を見させてくださいと・・・


 すると頭の中に「スキルキャンセル」という言葉が浮かんだ。後で調べて分かったのだけど、これはスキルを無効にする光魔法だった。

 偶然とはいえ、その魔法が一瞬発動し、その人の顔を見ることができた。その人は銀色の髪をした・・・


「カイン王子?」


 私がそうつぶやく頃には、その人は消えていた。

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