表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
31/41

第31話 彼らは話し合う


 作戦会議。

 なんだかいよいよ戦いに行くんだなという気がして、私はぎゅっと眉間に力を入れた。


「さて、作戦会議にあたって、一つ重要なことを琥珀こはくくんに聞いておく必要がある」

「は、はい! なんですか!?」

「待ってひびきさん、なんかすごく嫌な予感がする。何聞こうとしてる?」


 古海こかいくんがこわばった声で制止する。

 ひびきさんは何故か重々しく頷いた。


「そうだな、ニコくんに後で一発、イサーンに後で三発ほど殴られるのは覚悟の上で聞こうと思っている」

「本当に待って」


 古海こかいくんが食い気味に待ったをかける。表情はあまり変わっていないけど、顔がちょっと青い。

 古海こかいくんは珍しく少し言いよどんで、けど最終的に、意を決したようにひびきさんに向かって言った。


「自覚がないときのひびきさんもヤバいけど、自覚があるときのひびきさんはなおヤバい。本当にやめて。僕を通して」

「だが、手間だろう」

「手間をかけるのがコミュニケーションなんだってニコねえが言ってたでしょ! いいからチャットか何かで僕に教えて!」


 すごい剣幕けんまくだ。口を挟めない。

 私が唖然としている間に、ひびきさんは少し唸りながら片手でスマホを操作した。ややあって古海こかいくんが自分のスマホを見て、黙り込む。


「こ、古海こかいくん……?」


 確実に五秒は黙った後で、古海こかいくんは額に手を当て、天を仰いだ。スーーーーーーーッ……と深く息を吐いたかと思うと、そのまま動かなくなってしまう。


「えっと、あの?」

「おい、この沈黙はなんだ、れん

ひびきさんは本当に黙ってて。ああもう……助けて、ニコねえ……!」


 あの古海こかいくんが誰かに助けを求めている……!

 静かに衝撃を受けながら、平然としているひびきさんを見る。この人、本当にすごい人かもしれない。


 その後、きっかり十秒経ってから、古海こかいくんはものすごい勢いでスマホを操作し始めた。フリック入力、上手だね……

 どうやらひびきさんに何か送ったらしく、軽やかな通知音の後に、ひびきさんが自分のスマホを見て怪訝けげんそうな顔をした。


ひびきさん、こうやって聞いて」

「は……? いや、だが……」

「いいから、こうやって、聞いて」


 いつの間にか古海こかいくんは目をかっぴらいていた。瞳孔どうこうの開ききった目で、射殺しそうなほど強くひびきさんを見ている。

 バックミラー越しでもその圧が伝わったのか、ひびきさんは押されるように頷いた。


「……分かった。なら、琥珀こはくくん、改めて聞いてもいいだろうか」

「は、はいっ」


 私は姿勢を正した。なんだかよくわからないけど、とんでもないことを聞かれるのは分かっている。古海こかいくんが幽霊以外にあんなに圧を出すことなんてない。

 果たして、ひびきさんは口を開いた。


「君は、既に第二次だいにじ性徴せいちょうが来ているか?」

「………………はい?」


 素っ頓狂な声が出た。

 第二次だいにじ性徴せいちょう……第二次だいにじ性徴せいちょう

 それって、なんだっけ?


 咄嗟に古海こかいくんを見ると、彼は自分の太ももに両肘をついた状態で指を組み、手の甲をひたいに当てて沈黙していた。本当に言った……という声が聞こえてきそうだ。

 私はというと、単純に混乱していた。第二次だいにじ性徴せいちょうってなんだっけ? 聞いたことはあるような気がする。


 でも、あんまりにも見たことない様子の古海こかいくんに聞くのは躊躇ためらわれて、私はスマホで検索をかけた。

 そして、古海こかいくんがどうしてそこまで慌てていたのかを知った。


「っ、もしかして生理のこと聞いてますか!?」

「言っちゃうんだ、神崎かんざきさん……」

「濁した意味がなくなってしまったが、まあ、そうだな」


 流石のひびきさんもちょっと気まずそうだけど、私の気まずさはその比じゃない。だって隣に好きな男の子がいるんだよ!? ていうかその情報、本当に必要!?


 でも、ひびきさんはずっと真剣な顔をしている。私も、ふざけてこんなことを聞くとは思えなかった。

 ちらりと古海こかいくんを見て、まだうつむいているのを確認する。これはもしかして古海こかいくんの気遣いかもしれない。

 私はバックミラーを見つめながら、顔から火が出そうなほど恥ずかしいのをこらえて、ふるふると首を横に振った。


 瞬間、ひびきさんが心底安心したように息を吐く。


「そうか。であれば、懸念けねん要素ようそは減るだろう。君は、初声はつせけんとやらには積極的に狙われない」

「え?」

「おぞましいことを言うが、君には当然、君の母親の血が流れている。なら、かの男が神降ろしの『母体』として……つまり、近親相姦きんしんそうかんの対象として見なしてもおかしくない。俺はそれを心配していた」


 瞬間的に、ぞわっと全身に鳥肌が立った。そうだ、お母さんが「そういう意味」で狙われているのなら、私も狙われなくちゃおかしいのだ。

 つまり、古海こかいくんのお母さんを犯して、殺して、私のお母さんを攫った人と……


「いい加減にしてひびきさん」


 そのとき、古海こかいくんがドスッとひびきさんの脇腹を指で突いた。明らかに肋骨ろっこつの間にねじ込むような動きだ。私はぎょっとする。


「デリカシーってものを投げ捨てないでもらえる? 必要だったらなんでも聞いていいと思ってるでしょ」

「運転中だぞ……だから最初に謝っただろう。俺とて必要でなければこんなことは聞かない。緊急事態だからだ」

「ニコねえに聞いてもらうとかいう手があったでしょ!」

「昨日のニコくんに言って、聞いてもらえると思うか?」

「知らないよ!」


 ここまで古海こかいくんが声を荒らげるのも珍しいけれど、私はそれどころではなかった。古海こかいくんの手をガシッと掴む。


古海こかいくん! 古海こかいくんそれ痛い! 見てるだけで痛いよそれ! やめよう! 暴力良くないって言ったよね!?」

「大丈夫だよ、ひびきさんは痛くないから」


 え、とバックミラーを見ると、涼しげな顔をしているひびきさんと目が合った。肉をえぐるような動きで指がめりこんでいるのに、ひびきさんは自分の脇腹をちらりと見ただけで運転に集中している。


「まあ、そういうことだ。作戦を立てるためにも現状確認は必須とはいえ、悪いことを聞いたな、琥珀こはくくん。代わりに俺のことも教えよう」


 ひびきさんは淡々と言った。


「俺は先天性せんてんせい無痛症むつうしょうだ。簡単に言うと、体に痛覚つうかくが存在しない。痛みを一切感じることがなく、そのせいで生傷も耐えないし、身体感覚が曖昧だ。力加減も未だに分からないが、そのぶん、死ぬ直前まで動くことができる」

 

 私はぽかんと口を開けた。ひびきさんが苦笑する。


「もちろん、本当に死ぬ直前まで動いたりはしない。流石に今までの人生で、自分がどれだけ血を流したら危ないかくらいは学んでいるし、痛みを感じなくても違和感で怪我には気づけるようになった」


 片手をひらりとかざす。そこには無数の傷跡が刻まれている。


「これらはほとんど、加減を覚えていなかった頃についたものだ。まあ、いくつかは最近のものもあるが……それは仕方がない。痛みを感じる者よりも前に出るのは当然のことだし、それゆえに傷がつくこともままある」

「それは……大丈夫なんですか……?」

「幸運なことに俺はだいぶ丈夫でな。死にかけたことは……ないではないが、ほとんどない」


 本当かな……?

 私はじとっとひびきさんを見た。この人、骨が折れても「まあ命に別状はない」とか言ってそうなんだよね。


「待て、琥珀こはくくん。なぜそんな目をする」

「まあ、ひびきさんの日頃の行いのせいだよね」

琥珀こはくくんとは会ってまだ二週間も経っていないが!?」

「会って二週間の人にも分かるくらいの異常性ってことだよ」


 古海こかいくんが急に饒舌じょうぜつになった。やっぱり、ひびきさんのこと突っついてるときは生き生きしてるなあ。


「ともかく、単純な身体能力なら俺は結構強いし、丈夫だ。とりあえずは盾役タンクとして努めよう」

「なら、僕は攻撃手アタッカーってことだね」


 古海こかいくんはうっすらと笑って、手をぐぱぐぱと握った。


「昨日、コツを掴んだから、いけると思うよ。自分を台風の目にすればいいって分かったからね」

「感情の制御をおこたるな、れん。二年前に比べたらお前はずいぶん落ち着いたが、天候を自由自在というわけにはいかないだろう」

「大丈夫。神崎かんざきさんがいるから」


 えっ、と声が出た。私?

 古海こかいくんは私を真っ直ぐに見て、手を差し出してくる。


神崎かんざきさん、手を握ってみてもらえる?」


 言われるがまま、私は古海こかいくんの手を握る。すると、古海こかいくんはどうしてか、心底嬉しそうに笑うのだった。


「うん、大丈夫そう。神崎かんざきさんがいると、自分の輪郭が分かるから」

「そうなんだ……?」


 なんだかよく分からないけれど、これくらいで古海こかいくんの助けになれるなら、私は全然構わない。

 いや、ごめん、嘘。めっちゃ心臓バクバク言ってる。どうしよう。私もしかしてずっとこうしてなきゃダメ?


「なら、あとは君の立ち位置だな、琥珀こはくくん」


 私の心なんていざ知らず。バックミラー越しに、ひびきさんが私を見た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ