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第48話 やさしいせかい

セシル様視点、続きです!


:スキルリセットポーションってなんぞ?

:聞いたことない

:同じく

:右に同じ

:右ってどこよ

:そりゃ……スキルをリセットするポーションでしょ

:ほーん……えっ!?

:わたしは聞いたことあります!

:それやばない?

:やべーですわよ! もう激やっべーですわよ!!

:似非お嬢様も荒ぶるやばさwww



 ピコンピコンと更新を続ける配信のコメント欄が、私を正気に戻してくれた。

 どうやらコメントでも、目ざとい者はその特殊性に気付き始めたようだった。



:スキルリセットポーションは、その名の通りに

 振り分けたスキルをリセットするポーションです

 これまで使用したスキルポイントが全て戻ってきて

 0からポイントの振り直しが出来るとされています

:長文ネキ!

:ありがとう長文ネキ!

:説明パスカル

:効果やっばぁ・・・

:それもうスキルポーション超えてない?

:待て待て待て!

 なんでそんなアイテムが知られてないんだよ!

:あまり知名度がないのも無理はありません

 このアイテムがマーケットに出品されたことは最低でも

 ここ数十年間一度もなく、幻のアイテムとされています

:ひえっ!?

:ほんとの激レアアイテムやんけ!



 いよいよ騒然としてくるコメント欄を、ざわつく気持ちで眺める。

 そんなことは不可能だとは知りながらも、スキルリセットポーションの有用性がバレないでほしいと、あさましく願わずにはいられなかった。



:ガチで歴史が変わるんじゃ……

:それよりスキル振り直せるのすごくない?

:そりゃすげえでしょ

:聞けてよかった

:ビルド失敗した人がやり直せるのか

:そんなのもう人生やり直しポーションじゃん!

:探索者限定だけど、そう鴨

:しれな稲!

:言うて現代にそこまでビルド失敗する人いる?

:まあ大抵型は決まってるからね

:お姉ちゃんはスキルポーションあれば満足だよっ☆

:そりゃあなたはそうでしょうねえ!

:両方競り落とされたらもう戦争なんよ

:いや待って!いるやん!

:若手の最有望株だったのに突然に大幅ビルド転換して

 Sランクになったやべー人がいましたねぇ!

:あー(察し)

:セシル様!!



 どうやら、私がビルドを失敗していることは、こういう一般層にまで広がっているらしい。

 知名度の高さを喜べばいいのか、恥じればいいのか、複雑なところだ。


 ……ただ、そこでふと、思いついた。

 思いついて、しまった。


(もし……。もし、私がここで、「そのリセットポーションを私に譲ってほしい」とコメントで頼み込んだら……)


 私の掲げている「Sランク」という看板は安くない。

 特に、探索者界隈なら、そうだ。


 強制力のない「お願い」でも、Sランク冒険者の意に反したというだけで、探索者業界での風当たりは強くなる。

 そうなれば入札を躊躇う者が増えて、私があのポーションを手にする確率は劇的に上がるはずだ。


(そして、それは別に間違ったことじゃない)


 この〈スキルリセットポーション〉は、ここ数十年発見報告のなかったアイテムだ。

 私も散々に調べたが、入手法や入手先の手がかりすら全くつかめなかった。


 あの〈初級スキルポーション〉を四本も手に入れたライ様ですら、一本しか手に入れられなかったのがその希少さを物語っている。

 ……いや、ライ様なら、いつか二本目を見つけてしまうのでは、という期待はあるが、普通に考えればもう二度と手に入らないものだと思った方がいいだろう。


 ――そんな貴重なアイテムなら、「ふさわしい人間に渡す」ことがもっとも「正しい」のではないだろうか?


 あるいは、私以上に切羽詰まった事情を持つ人間は、この中にはいるかもしれない。

 だが、Sランクである私以上に、スキルリセットを行った影響の大きい者はいないだろう。


 Sランク冒険者が国にもたらす利益は、ほかとは一線を画す。

 誇張抜きで私がスキルリセットを行うことは、国益と直結するのだ。


 そう、つまりは、私が〈スキルリセットポーション〉を手に入れることは「正しい」ことだと言える。


 だから……。

 だから………………。



(――バカバカしい!)



 だが、脳裏によぎった悪魔の誘惑に、私は首を振って追い出した。


(視聴者に根回しして、入札を思い留まらせる? それが、私の憧れた『冒険者』か?)


 私がここまで戦ってこれたのは、単に配信が楽しかったからとか、冒険者が性に合っていたからだけじゃない。


 自分が、日の当たる場所を、胸を張って歩ける道を歩んでいるという自覚があったから。

 子供の頃に漠然と憧れた冒険者の一人に、今自分が成っているのだという自負があったからだ。


 それがどんなに「正しい」ことでも、自分の魂は売れない。

 幼い頃の自分を裏切るような行為だけは、絶対に出来なかった。


 ……であれば、私がするべきは、冷たい態度でほかを牽制することではない。


 私は音声認識をオンにして、カードの前で口を開いた。



セシル:ふふ、よく知っているな

    もちろんリセットポーションは私も狙っていくつもりだ!

    Sランクの豪運というものをお前たちに見せてやる!

    いざ、尋常に勝負だ!!



 明るい態度で配信を盛り上げ、あくまで対等な入札者として戦う姿勢を見せること。

 これ以外にはない!



:うおおおおおおこれは熱い!

:セシル様参戦だー!

:前もライ様に刀を落札してもらってたし

 セシル様ワンチャンある?

:むしろそこで運を使い果たしてる可能性……

:お姉ちゃんと違って札束ビンタで直接取引とか

 言い出さないとこに人徳を感じる

:セシル様は神的にいい人だから

:でも不憫なんだよなぁ・・・

:外れてハンカチ噛んでるとこしか想像できないwww

:これは応援せざるを得ない

:セシル様がんばってください!!



 思いがけない温かい言葉に、胸が熱くなる。


(……これで、よかったんだ)


 この選択に、全く後悔がないかと言えば嘘になる。

 けれど、別に私もスキルリセットを諦めた訳じゃない。


(なぁに、当ててしまえばいいんだ)


 需要が限られている分、スキルポーションほどの倍率にはならないだろうから、倍率は数百分の一程度になるだろうか。

 1%以下なんて言えば絶望的な数値にも見えてくるが、そのくらいの鉄火場を何度も乗り越えてきた。


「じゃあ、三十秒待つので、その間に希望者は予約を入れてください」


 ライ様の言葉に、私は深呼吸をして、祈りと共にスキルリセットポーションに買い注文を出す。

 一番乗りだったのか、〈スキルリセットポーション〉の予約数が0から1になったのを確認して、私は目をつぶった。


 精神統一……なんてかっこいい理由じゃない。

 ただ、予約者の数が増えていくのを見てしまえば、一度決まったはずの心が、また揺れ動いてしまいそうだったからだ。


 だから、三十秒後。


「3、2、1……はい! お、これは意外ですね」


 ライ様のカウントが終わったのを聞いて目を開いた時、私は思わず声をあげてしまった。


「な……」


 目の前に表示されていたのは、想像とはかけ離れた数字、「2」という数字、一つだけだったのだ。


「どう、して……」


 思わずつぶやいた疑問に、図らずもコメントが答えるように流れる。



:予約入れようか迷ったけど、さすがに貴重すぎて……

:スキルポーションならまだ宝くじ感覚でいけたけどこれはね

:Sランク様と競うのはいやーきついっす

:セシル様の配信いつも見てます!ぜひ取ってください!

:私も実はビルド失敗組だけど、そのまま引退しちゃったし

:ビルド大幅に失敗してまだ現役って人少ないのよね

:まあミスってはいるけど2ポイントくらいだし……

:リセットはもっとふさわしい人に使ってほしいよね!



「みんな……」


 想像もしていなかったコメントの数々に、胸が詰まる。

 同時に、自分が後ろ暗い手段で強引に入札者を減らさなくてよかったのだと、心の底から思うことが出来た。


 そして、そんな温かなコメントたちの中に一つだけ、不意に異質なコメントが混じる。



:ごめんなさい

 セシル様ほどの活躍は保証出来ないけど

 退けない

 私の人生が懸かっているから



 そのコメントは、おそらく私以外の入札者のもの。


(……やるじゃないか)


 見覚えのない名前。

 だが、カードのシステム上、名前からリンクを辿れば個人の特定すら可能だ。


 それでもあえてコメントを残したということは、尋常ではない覚悟を持って臨んでいる、ということ。

 私もその心意気に応えるように、カードに言葉を吹き込む。



セシル:必要もないのに名乗り出てくれた勇気に感謝を

    みんな!

    もし私が抽選に外れて彼女がポーションを取った時も

    私が当たった時と同じように祝福してくれると嬉しい!

    ……もちろん、譲るつもりはないがね!



:了解でっす!

:すごい勇気だ

:そりゃ人生変わるもんなぁ・・・

:個人的にはセシル様に当たってほしいけど

 でもこの人の気持ちも分かる!

:二人とも応援してます!

:うわああ何も関係ないのに手汗出てきた

:ドキドキ、ドキドキ……

:どうなるんだこれ!



 コメントの流れが、一気に加速する。

 それに伴って、私の心臓がバクバクと脈を打っているのが分かる。



「――では、出品します!」



 ある意味で死刑宣告にも似た、ライ様の声。

 同時に画面の表示が「抽選中」に変わる。



(――頼む! 頼む! 頼む! 頼む! 頼む!)



 事ここに至っては、相手への気遣いも、冒険者としての矜持も、全てが頭の中から消えた。

 ただ最良の未来だけを願って、一心に祈る。


 予約数たったの二。

 正真正銘、当たるか外れるかの二分の一。


 あまりにも現実的で、だが、だからこそ残酷な数値。


(お願いだ! 私、は……!!)


 そうして、ひときわ強く拳を握った瞬間、表示が、変わる。


 その、結果は。

 結果、は………………。



(…………あ、れ?)



 画面は、巻き戻ったかのように、静かだった。


 抽選中だったはずの〈スキルリセットポーション〉の項目には、ただ一つの予約が……。

 ただ一つ、「私の」予約だけがぽつんと取り残されていた。


(はず、れた……?)


 ぐにゃり、と視界が歪む。

 歪んだ視界の中で、なぜだろう。



:あ、当たり、ました……!

 わ、わたしが……ああ、当たりました!!



「彼女」が打ち込んだであろうコメントだけが、妙に鮮明に見えた。



:ええええええ!

:おめでとう、でいいのかな?

:セシルさま・・・

:うーん、二分の一とはいえこれは

:そういうもんだと分かってるけど、けど……



 コメント欄が不穏な空気を帯びる。


(……まずい)


 この流れは、よくない。

 私の代わりにリセットポーションを手に入れた「彼女」が、責められてしまう流れになりかねない。


(私が、介入しないと……)


 この空気を変えられるのは、私だけだ。

 だから、私は音声認識をオンにして、カードを口に近付けて……。



「…………っ」



 声が、出ない。

 言葉が喉に張り付いたみたいになって、口から出て行ってくれない。


(ああ、クソ……!)


 情けない。

 これで憧れだなんて笑わせる、そう思っても、視界がぼやける。


 ――本当は、私が一番納得なんて出来ていなかった。


 だって、人生が変わると思ったんだ。


 それでも、それでも……!



(――私は、冒険者のセシル、だろうが!!)



 動かない口に、にじむ視界に活を入れ、もう一度言葉を紡ごうとした、その時、



「んー。入札者二人だけだと外れた方が可哀そうなので、自分用の予備も出品しちゃいますね。……ほいっと」



 そんな軽い、あまりにも無造作な言葉が鼓膜を揺らして、




《スキルリセットポーション × 1 を購入しました!》




 突然出てきたメッセージに私の脳はオーバーヒートして、そのままその場に倒れたのだった。

情緒のジェットコースター!!

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― 新着の感想 ―
セシル様おめ
そら気絶するよな 俺だってする。知らんけど
何度見てもセシル様マジ格好いい そして『自分用』の『予備』なのでライくんが3本入手可能性に震える
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