第49話 立つ鳥跡を濁さず
「――あれ? セシル様から反応ないな」
購入希望者が二人になっていたため、僕が念のため自分用にキープしていた〈スキルリセットポーション〉を放出したあと……。
〈スキルリセットポーション〉の購入者の一人であり、律儀そうに見えたセシル様から反応が返ってこないことに、ちょっと首をかしげてしまう。
(もう一人の方はコメントしてくれているから、システムの不具合とかはないと思うんだけど……)
有名配信者らしいセシル様なら、空気を読んで真っ先に買えました報告をしてくれそうだから、少し心配になる。
コメント欄を見ていると……。
:買えなかったのかな?
:報告のタイミングを見計らってるとか?
:今リセットしてスキル調整中なのかもしれない
:おそらく感極まってるだけと思われ
:それだ!
:めちゃくちゃありそう
:ずっと探してたからなぁ
:一本目が外れてガーンとなってるとこに
二本目来て思考停止してると見た!
:ありえる
:あのタイミングでの2本目投入はねw
:あんなん脳がやけてまう
:おいたわしやセシル様
:ライ様、やはり魔性の男よ……
「いやいやいや……」
勝手に僕が女心をもてあそぶ悪い奴みたいな扱いになっているが、あれは焦らしたとかではなく、純粋に最後まで二本目を出すかどうか迷っていただけだ。
(それに、Sランク探索者なら、こんなレアアイテムの取引、いくらでも経験しているだろうし……)
そう考えると、やっぱり何かしらの演出をしてくれているのだろうか。
そんな風に僕が思い始めた時だった。
セシル:す、すまない!
長年の念願だったアイテムが手に入って
私としたことが少し放心してしまった!
コメント欄がピコンとスクロールして、セシル様からのコメントが届いたことを報せてくれる。
どうやら事故などはなかったらしい。
僕がホッと息をついたところで、さらに新着。
セシル:購入は、無事に出来た!
ありがとう、ライ様!
本当にありがとう!
今はもう、それしか言葉がない……!
流石は配信者と思わせる情感のこもったコメントが投下されたことで、ほかのコメントもにわかに活気づいた。
:よかったなぁセシル様
:そりゃ嬉しいでしょ
:前から長いこと悩んでたからね
:泣けるぜ
:おめでとうございます!
:拙者、もらい泣きよろしいか?
:セシル様男泣きしてそう
:おいwww
:ごめんだけど目に浮かぶ
:セシル様のリスナーの私からも
ありがとうを言わせてください
:おめでとうセシル様!
ありがとうライ様!
:セシル様ファンとしては嬉しいけど
自分用まで売っちゃって大丈夫?
「あはは、ビルドはちゃんと考えているので大丈夫ですよ。それより、皆さんが喜んでくれたなら嬉しいです」
前世ではお目にかかれないほどに純粋な善性に満ち溢れたコメント欄に、僕も自然と笑顔で言葉を返す。
……正味な話、ビルド自体はかなり定まっているから失敗することはほぼないはずではあるのだ。
(まあ、序盤にだけ役に立つスキルとか、逆にスキルレベルが上がらないと取る意味の薄いスキルはあるから、ガチで理論上の最適ビルドを突き詰めるならこまめにコンバートしていくのが強いっちゃ強いけど……)
戦闘がリアルになったこの世界では、スキル構成を変えて感覚がおかしくなる方が命取りになり得る。
素直に最終形を見据えて、一本道でスキルを伸ばしていく方がむしろ無難だろう。
(あとは一応オマケ程度だけど、リセット系や蘇生系を使わない状態でしか装備出来ないアイテムとかあるしね)
ちなみに、そういったフラグも課金アイテムでリセット出来ていたのだけれど、残念ながらこの世界に課金要素は実装されていないらしい。
(でもまあ、一番でかいのは……)
僕はこれからも〈スキルリセットポーション〉は手に入れられると踏んでいること。
――〈スキルリセットポーション〉がこの世界でほとんど出回っていないのは、十中八九、「〈スキルポーション〉よりもさらに不人気なダンジョンでしか出現しない」というゲーム設定のためだ。
ゲームでは探せば必ず見つかる不人気ダンジョンがこの世界にはほとんどないため、〈スキルポーション〉以上に入手が困難になっているのは理解出来る。
ただ、今僕が潜っている魔王城……〈東京ダンジョン00〉は、数十年誰も潜っていなかった筋金入りの不人気ダンジョン。
おまけに現在もダンジョン探索人数一人で、幸か不幸かしばらく不人気判定は覆りそうもない。
入手機会なんてこれからいくらでもあるのだ!
セシル:本当に、どれだけ感謝しても足りないほどだ!
このセシルの名に懸けて、このポーションは
決して無駄にはしないと約束しよう!
……ということを知らないセシル様から、タイミングよく熱のこもったコメントが届いて、むしろ罪悪感を刺激されてしまうが、まあここはウィンウィンだと捉えておこう。
そんな風に自分を納得させて、そろそろ〆に入るべく、口を開く。
「それでは、これで特別オークションについては終わりです! ここまでのお付き合い、ありがとうございました」
:お疲れ様でした!
:充実すぎる配信だった
:ほんそれ
:ただのプレゼント配信かと思ったら
とんでもない伝説回になってしまったな
:さすが伝説しか作れない男
:ファンサってレベルじゃねーぞ
:わたくしは驚きすぎて疲れましたわ……
:実はさっき戻ってきた離脱組なんだけど
ここまでの流れ見返して愕然としてる
:あっ
:戻ってきてしまったのか
:またガチ勢が一人流れ星にwww
:さすがにスキルリセットポーションは遠慮したとしても
スキルポーションの方だけでも参加したかった(泣)
:泣くな泣くなw
:同志よ!
:しゃーなし!誰もこんなの読めないって!
:プレゼント配信より買い物優先させたのは偉いよ、うん!
:お姉ちゃんはガチ勢なのにライきゅんの配信に留まって
ちゃんと愛のスキルポーション当てたけどね☆
:おいお姉ちゃんwwww
:うわ、うわああぁあああああああああああああ!!!!
:ガチ勢さん発狂しちゃったじゃん
:あーあ
:トドメ刺すなトドメを……
:お姉ちゃん無敵すぎるw
あいかわらずカオスなコメント欄に唇の端を歪めてから、少しだけ考える。
(……プレゼント配信、かぁ)
こうやって特別オークションで配信者がアイテム放出をする回は、ファンサービスの一環として、「プレゼント配信」なんて呼ばれるらしい。
だとしたら……。
(――最後にもう一個、探索者の人たちに「プレゼント」をしてみても、いいよね)
正直に言えば、これを「ここ」で出すかどうかは、ギリギリまで迷ってはいた。
ただ、ここまで配信を盛り上げて、スパチャによって僕の探索を支えてくれているリスナーのみんなに恩返しをしたいという想いが、僕を決断させてくれた。
「これで配信は終わりですが、最後に皆さんにささやかなプレゼントがあります。とは言っても、誰でも使えるものなので、皆さんにも出来るだけたくさんの人に広めてほしいんですが……」
そう言って僕が配信画面に浮かび上がらせたのは、たった16個の文字列。
2.5A-NNIV-CHLG-WIN!
この世界の誰もがまだ見たことのない「コード」を前に、徐々にコメント欄がざわついていく。
:ファッ?
:なんそれ
:暗号?
:暗号じゃない、これは……
:見覚えしかないレイアウトなんだけど!
:オイオイオイオイ
:待ってくださいまし!待ってくださいまし!
わたくしすでに残業確定レベルなんですわよ!
それがこんな……冗談ですわよね!!?
:えっなにこわい
:探索者の人は分かってるっぽい?
:そりゃこの並びはもうあれしかない
:ライ様、君はどこまで……
探索者の大半が辿り着いたであろうその正体。
それを肯定するように、僕はピコンと不器用にウインクすると、
「――僕が偶然見つけた、新しい〈シリアルコード〉です」
ワッとコメント欄が更新されていくのを確認すると同時に、逃げるように配信終了ボタンを押したのだった。
言い捨てダイナミック!!
次回はたぶんセシル様視点でエピローグやって章終わりです!
まだまだ(セシル様で)遊べるドン!




