第47話 ターニングポイント
まさかな人の視点でスタート!
配信画面に映った毒々しい色のポーションに、私は思わず立ち上がった。
「まさか! まさかまさかまさか……!」
網膜に映されたそのアイテムの存在が信じられず、意識せずに言葉が漏れる。
触れられないと分かっていても、無意識のうちに配信画面に手が伸びた。
(もしも、もしもアレが私の想像通りのものなら……!)
ここから巻き起こる衝撃は、スキルポーションの比ではない。
だってそれは、私が長年にわたってずっと探し続けていたアイテムで……。
そして同時に、絶対に手に入れられるはずがないと諦めていた、この世に二つとない貴重品なのだから。
※ ※ ※
――私、世良 静流の人生には「ターニングポイント」と呼ぶべき瞬間が、二つあった。
一つ目は、ごくごく単純。
誰にとっても一生に一度の「ジョブ判定」の日。
私はそこで〈クイーンズ・ガード〉という戦闘職を授かって、探索者としての道を歩み始めた。
保有魔力の影響で男性とは接触出来ないことが決まったし、生活環境も当然激変。
同情されることも多かったが、私自身はこのスリリングな探索者としての生活を思いのほか気に入っていた。
それは、自分の実力次第でどこまでも自由にやれるダンジョン攻略が性に合っていたというのもあるし、探索者として本格始動した時に、本名をもじった「セシル」という名前で始めたダンジョン配信が意外にも好評で、それが楽しかったというのもある。
ただ、そんな風に楽しむことが出来た理由は、やはり覚醒したジョブによるものが大きい。
――イレギュラージョブ〈クイーンズ・ガード〉。
現代のダンジョンシステムの基となった〈アドラステア・サーガ〉における、NPC専用職業。
私が授かったのは、たまに何かのバグのように人々の中に現れる、そんなイレギュラーな職業の一つだった。
とはいえ、イレギュラージョブにもあまりにも性能がピーキーすぎるものや、基本ジョブよりも弱いもの、それからジョブのコンセプトが全く読み取れないものや、ビルドコンセプトを実現するためのパーツが明らかに足りていないものなど、扱いにくいものも多い。
その中で〈クイーンズ・ガード〉はどうかと言えば、タンク職というコンセプトが分かりやすく、当時から優秀と言われた騎士とスキル構造がほぼ共通していたことから当たり職だという評価だった。
(……まあ、今にして思えば、そこに落とし穴があったのだが、な)
私たちのパーティは結成から快進撃を続け、同期に圧倒的な差をつけ、最速で二十層を突破したが、そこから急速にその足を鈍らせてしまった。
理由は、ひとえに私の能力不足。
手前味噌にはなるが、私たちのパーティの戦術は、イレギュラー職である私の突出した能力を軸に組み立てられていたもの。
事実、〈クイーンズ・ガード〉の基礎クラスと比べてはるかに恵まれた基礎ステータスは、私に同レベル帯ではありえない力を与えてくれていた。
(だが……)
メンバーのレベルが二十を超え、スキルの重要性が高まっていくにつれ、その基礎ステータス頼りの強さは徐々に通用しなくなっていく。
確かに〈クイーンズ・ガード〉の基礎力は優秀だが、取っているスキルはあくまで槍と大盾で堅実に防御を固める騎士と同じ、言ってしまえば平凡なもの。
基礎ステの暴力でゴリ押し出来た序盤と違い、徐々に私の被弾が増え、攻略が安定しなくなっていく。
このままでは崩壊は時間の問題。
かといって、私を中核としすぎたパーティ構成を、今さら変えることも現実的ではなかった。
(ただ、希望はあった)
それが、タンク職では絶対に出てこないはずの、「小剣」スキルツリー。
あまりにも役割とミスマッチすぎて、最初のスキル振りで真っ先に候補から外したその選択肢。
だがそれが異質だからこそ、そこに〈クイーンズ・ガード〉としての特徴があるのではと、私は考えるようになっていたのだ。
……しかし、それを言い出すには、あまりにも私たちのパーティには遊びがなさすぎた。
ただでさえ私のタンク能力の不足でパーティが瓦解しかかっているのに、たとえ一ポイントといえど、役に立つか分からない項目に振ることは出来ない。
そう考え、それでも未練を振り切ることも出来ず、槍関連スキルの習得を後回しにして決断を先延ばしにしていた、その時。
――私は、二つ目の人生の転換点に遭遇する。
行き詰まった私たちは閉塞した雰囲気を変えるため、ダンジョン省からとある依頼を受けた。
それは、とある僻地にあるダンジョンのモンスターの掃討。
放置されたダンジョンは、最悪の場合は地上にモンスターを溢れさせ、ダンジョンスタンピードと呼ばれる惨事を引き起こすことになる。
そこは、全十階層という短いダンジョンであるが、同レベル帯のダンジョンと比べて難易度が高いため、放置気味になっているとのことだった。
もちろん、最深部が十階層のダンジョンでは報酬面でうまみはない。
それでも社会貢献と気分転換を兼ねてその依頼を受けたのは、結果から言えば大正解と言うしかない選択だった。
「ま、さか。これは……!」
そのダンジョンで偶然出会った変異モンスターを倒した時に私が手に入れたのは、まるで想像もしていなかった貴重アイテム〈初級スキルポーション〉だったのだ。
――そのポーションから得られたたった一つのスキルポイントで、私の人生は変わった。
小剣ツリーを解放して出てきたのは、〈クイーンズ・ガード〉独自のパリィやカウンターの技の数々。
それは、遥か格上すら技術次第で捌ける驚異の技や、攻撃力を防御力に転化する革新的なビルドが詰まった、宝石箱のような技能たちだった。
(あの時の興奮は、今でも昨日のことのように思い出せる)
すぐさま私は、大胆なビルドの方針転換を決意。
パーティメンバーも攻略が滞るのを承知で、そのビルド転換を支持してくれた。
今までのスタイルを完全に捨て去ったため、一時的に攻略速度は落ちたものの、小剣ビルドが形になってからは今までを超える速度でダンジョンを驀進。
そのまま仲間たちと一心不乱に進むうち、ついにはSランクにまで上り詰めることが出来た。
(回り道も、悩んだ時間も含めて私の道。あの時の苦悩を、仲間と乗り越えた苦難を、否定するつもりはない。ただ……)
一度振ってしまったスキルポイントは、取り返しがつかない。
小剣ビルドにしてから、槍や大盾のスキルは全く活用出来ていない。
探索者として高みに登れば登るほど、最初のビルドミスが大きな負債となって、私の肩にのしかかってくる。
後ろを振り向くのは好きではない。
常に前だけを見ていようと、そう思うようにはしている。
しかし……。
もしも最初から、槍や盾ではなく小剣にポイントを振っていたら、とは、どうしても考えずにはいられなかった。
(それでも、人は時間を巻き戻すことは出来ない。だから仕方ないのだと、受け入れるしかないのだと、ずっと諦めていた。のに……)
そんな奇跡を可能にするアイテムが、この世界にはたった一つだけ存在する。
――それこそが、〈スキルリセットポーション〉。
時間の流れに逆らい、その人が今まで使ったスキルポイントを全て戻し、人生をやり直す機会を与える、規格外のアイテム。
しかし、その効果の大きさゆえか、私が生まれて以来、発見報告すら一度もないという幻のアイテム。
そうして、私は、
「――〈スキルリセットポーション〉、と言います」
画面越しに聞こえたさわやかな声に、自身に「人生三度目のターニングポイント」が到来したことを知るのだった。
セシル様、参戦!!




