第46話 理由
僕が特別マーケットに出品した三本の〈初級スキルポーション〉。
それは、例の「お姉ちゃん」以外の購入者の下にも無事に送られたようで……。
:ほ、ほんとに届きました!
うわあああ! うわああああ!
嬉しい嬉しい!!
ありがとうございます!
:おめでとう!
:初々しい・・・よかったなぁ
:うぐぐぐ!悔しいけどおめでとう!
:こんな喜んでるのを見るとこっちも嬉しくなるね!
:こんなんもらって嬉しくないはずないんだよなぁ
:ほんそれすぎる
:私が当てたら今頃家宝にしてるよ!
:いや使いなさいよwww
:お姉ちゃんだよっ☆おめでとうミ♡
:あんたはその人のお姉ちゃんではないだろwww
:そもそも誰のお姉ちゃんでもない定期
:おねえちゃんウキウキで草
:そりゃスキルポーション当たったら誰でもそうなる
:羨ましさと妬ましさで吐きそう!!でもおめでとう!!
:週末探索者やけど嫉妬しちゃう気持ち分かるわ
:羨ましいけどまあ殴り僧侶に渡ってなきゃええか
:殴りヒラにどれだけトラウマあるのよ……
:いやー蓋を開けてみれば三本全部ここの視聴者だったね
結果として、落札者は全員、この配信を見ていた人たちになったようだ。
(前の世界のネットだったら、落札してないのに落札したって嘘をつく人もいそうだけど……)
この世界では全ての発言がステータスカードと紐づいているから、悪質なことをしたら一生ついてまわる。
そんな無駄にリスキーなことをする人はいないだろう。
:まあそらそうよ
:購入予約できるの一つだけだからなぁ
:普通は一本も出てこないからね
:ガチ勢ほど絶対狙わない罠
:この配信見てなかったら絶対入札しなかったです
まあ結局当たらなかったですけどね!
:それもまあそうよ
:競争率数千倍じゃしゃーない
:いい夢見させてもらったよ・・・
:むしろ競争率数千倍程度でチャレンジできたのがすごい
:これ別の買うために配信離れてたガチ勢泣いてるんじゃ
:たしかにwww
:まさか楽しむ目的の配信でトンデモ貴重アイテムの
放流予告が来るとはこの私の目をもってしても
:読めてたら怖いわ笑
:まさに自分の買い物のために配信離れてたガチ勢ですけど
今もどってきて泣きそうです
:あっ……
:合掌
:ま、まあ、ゆうて普通は当たらんから
とまあ、コメント欄は悲喜こもごも。
流した〈スキルポーション〉はたったの三本だったのに、ここにいる人たちはみんな心を動かされているのを見ると、なんだか不思議な気持ちになる。
:それより!!ですわ!!!
:うわっ
:文字なのに圧強くて草
:クソデカお声お嬢様
:おはしたないですわよ
:ええい、だまらっしゃい!!
これでスキルポーション獲得が事実だと確定しましたが
どうしてこんな貴重品を四本も手に入れられたのか
まだ教えてもらっていませんわ!!!
:そういえば理由はあるって言ってたね
:普通に考えたらありえないもんなぁ・・・
:私、気になりますっ!
「あー……」
思わぬタイミングで質問が飛んできて戸惑ってしまったが、これについては一応説明はしておかなければならないと思っていたことだ。
何しろ、〈初級スキルポーション〉はゲームでもほどほどにレアだったアイテム。
それを一度の攻略で四つも手に入れられたのは、スキルポーションが手に入りにくいこの世界どころか、前世のアドサガでもほぼありえない事態だ。
ただ、もちろん原因はリアルラックなんかではなく、ちゃんとした理由がある。
まず……。
「理由の一つは、こっちの幸運がめちゃくちゃ高いので、シンプルにレアドロップ率がよくなっているってことですね」
:身もふたもなくて草w
:盗賊の泥補正みたいなものか
:サムライってあんなに強い上に運までいいの!?
:幸運高いと泥率上がるの都市伝説だと思ってた
:運補正はあるよ、ある
:パーティでやってると盗賊だけ運よくても……
ってなるから実感されないんだよね
:そうかソロだから
:最強すぎでしょサムライ!!
:チート職業すぎるッピ!
「あ、あははは」
前世のゲームの職業を手に入れられたことについては、自分でも完全にチートとしか言えないので、これには反論出来ない。
ただ、今回重要なのはむしろ残り二つの理由だ。
「次に、変異モンスターがレアなアイテムを落としやすいこと。あいつらはなかなか出てこない上に強いけど、必ずアイテムを落とす上に、貴重なアイテムを落としやすいんです」
:なるほど分かる
:必ずアイテム落とすっていうのは初耳
:変異モンスターはほぼ配信で見ないもんなぁ
:リスク避けるなら戦わないしね
:そりゃ情報ない初見の敵と戦いたくはねーのよ
:うちも一度だけ変異モンスター倒したことあるけど
その時は一体からドロップが三つ出たよ!
:ハイリスクハイリターンな相手だったワケか
:変異種があれだけいたらレアアイテムも出る、かぁ
:そもそも変異モンスターが複数出る時点で
異常も異常なんですけれども……
:それはたし蟹
:一般探索者なら100パー全滅ルートだからなぁ
:すごいです!
概ね納得をもらえたところで、僕はさらに畳みかける。
「それから、最後の、そして一番大きな理由は、このダンジョンにあります。実は、この〈バーチャル魔王城〉は……」
そこで言葉を切って、タメを作る。
焦らしているように見せて、実は本当に少し、ためらって、
「――敵がやたら多い代わりに、レアアイテムが出やすいダンジョンなんです!」
自信満々に、そんな理由を提示した。
:な、なんだそれー!
:そもそもバーチャル魔王城とは?
:だからバーチャルってなんなのさ!
:なんでもありすぎるwww
:でも確かに異様に敵が多いよね
:リスクが高い代わりにリターンも大きいってことか
:本人もダンジョンも規格外すぎるよぉ
:やっぱり本当に一号案件なんですの!?
:すごいのは分かるけどすごすぎて参考にならなすぎる
:頭がフットーしそうだよおっっ!
:考えるな、感じろ!
いい感じに混沌としたコメント欄を眺めながら、僕は完璧な笑みを浮かべ続ける。
僕が口にしたことは、まるっきりの嘘じゃない。
……でも、皆が求める「真実」でもない。
僕がスキルポーションを大量に手に入れられた最大の理由は、確かにダンジョンにある。
だが、その本当の理由は……。
――スキルポーションを始めとした一部の貴重アイテムは、「不人気ダンジョンであればあるほどドロップ率が上がる」からだ。
これは、一部の人気のないダンジョンに人を呼び込むために運営が設定した「仕様」だ。
しかしこれがおそらく、現実化されたことで足を引っ張った。
ゲームならば行きたい場所にだけ行けばいいが、現実となった今はそうもいかない。
安全の観点からすると、面倒だったり経験値がまずい敵が多いからと言って、ダンジョンを放置出来ないからだ。
その結果、システム的な「不人気ダンジョン」がなくなったことが、〈スキルポーション〉不足の原因の一つになっているのではないかというのが、今の予想だ。
翻って、あの不可侵領域にある「男性専用ダンジョン」がどうかというと、ダンジョンシステム的にこれ以上ないほどに不人気。
何しろ数十年、下手をすると百年近く、誰も訪れず、まともに探索されていないダンジョンなのだ。
その不人気度を考えれば、このくらい大量にスキルポーションが落ちたのもおかしくはないな、というところ。
(本当は、それを素直に伝えられたらよかったんだけど……)
ここが放置ダンジョンだとバレるのはよくないし、それをきっかけに「もしかして不可侵領域のダンジョンに潜っているのでは?」と推理する人が出てきてしまったりしても困る。
コメント欄が混乱しているうちに、ごまかすように僕は話を強引に先に進めることにした。
「それじゃあ理由も話したところで、次の出品ですが……」
露骨な話題転換。
だが、配信を見ているみんなは、幸いにも食いついてくれた。
:忘れてた!
:そうかまだ終わってないんだ!
:待ってました!
:まだ落札のチャンスある!?
:第二幕が来る!
:でもスキルポーション以上とかある?
:エリクサー、とか?
:そんなもんが二階で出てたまるかwww
:なんだろう気になる
:期待してます!
たちまちスキルポーションの出所など忘れた様子で、次の出品に夢中になるコメントたち。
その単純さに色んな意味で救われながらも、僕はちょっと言いよどんだ。
「……そう、ですね。次の品は、なんというかちょっと、万人受けするものではないんですよね。出品するのも一つだけですし、本当にほしい人だけが予約してくれたら、って思ってます」
:はーい!
:万人受けしない?なんだろう?
:刀みたいなレア装備かな?
:気になる気になる!
:期待!
:次は私も参加出来るものだと良いな
:とにかくこれ以上とんでもないものを
出さないでほしいですわ!
:焦らさないで教えて!
コメントの要望に応じるようにインベントリを開くと、中からもう一つの「ポーション」を取り出した。
身体に悪そうなケミカル色のポーションを見て、コメント欄がまた加速する。
:またポーションか!
:まさか中級スキルポーション!?
:いや色が違うんじゃないかな
:あんなの一度も見たことないけど・・・
:スキルポーションよりレアなポーションとかあるの?
:ウソですわよね?ウソですわよね!!??
:一度だけ何かで見たような
:あれってまさか
:まさか! まさかまさかまさか……!
:セシル様? 知ってるんですか?
どうやら、コメント欄にはもう分かった人もいるようだ。
僕はそれに応えるようにうなずくと、そのポーションをしっかりと前に掲げた。
「これが、次に出品する予定のアイテム。その名も……」
この、飲んだだけで頭がポカンと爆発しそうな、毒々しい色のポーションは……。
「――〈スキルリセットポーション〉、と言います」
第二の爆弾、投下!!




