第45話 出品
「――な、なんでぇ!?」
僕の思惑を超え、勢いを増していく〈初級スキルポーション〉の予約カウンターの伸び。
それに対してあげた僕の悲鳴に反応して、すぐにコメント欄が答えを返してくれる。
:なんでって言われても……
:そりゃあ、ね
:一つだと思ったのに三つも出るならみんな飛びつくよ!
:3個も出品されるなら遠慮しなくていいかなって
:一生ついていきますライ様!
「それは……」
確かに言われてみれば、僕の方が動揺していたかもしれない。
ただ、
「だけど、三つあったとしても、すでに当選確率数千分の一なんだよ!?」
現時点でもう予約数は三千を優に超え、ますます増えていっている。
つまり、仮に三つ投入したとしても、当たる確率は0.1%以下ということ。
この数字をちゃんと意識してもらって、彼らには冷静になってもらいたかったんだけど……。
:数千分の一でも十分高いのよ
:宝くじで一等を狙うよりは当たる(確信)
:0.1%以下? ……できらぁ!
:やってやろうじゃないの!
なぜかその事実に戦意をみなぎらせるコメント欄。
僕は頭が痛くなってきた。
:それより四つ出たとかやばい……やばくない?
:やばすぎですわよ! やばすぎですわよ!!!
:出品用3つに自分用合わせて4つだっけ?
:ガチなら世界最高記録じゃないの?
:これは例の説が有力になってきたか?
:さすがに4個はウソでしょ?
:むしろ話盛ったって言われた方が安心するまである
:信じて……いいんですよね?
さらには再燃するウソ疑惑と、てんやわんやだ。
ただまあ、これについては本当の意味で解決する方法は一つだけだ。
「信じてくれて大丈夫! 四つもスキルポーションを手に入れられたことにはもちろん理由があるけど、そんな説明より――」
言いながら、僕は特別マーケットの画面を操作して、
「――実際に出品しちゃった方が、早いよね?」
そこで〈初級スキルポーション〉三つを選んで、出品ボタンに触れた。
画面には「本当に出品しますか?」のダイアログ。
これにOKを押せば、すぐにマーケットの抽選が始まるはずだ。
ちら、と横を見ると、マーケットの画面は配信には載らないが、僕が何をしているのか察したのだろう。
コメント欄の動きが、さらに激しくなる。
:出品が何よりの証明なのは間違いない!
:ライ様かっこE!!
:惚れた!
:わたしもライ様大好きだからぜひポーションを!
:せこいアピールやめてね!
私なんて第一回配信の時から好きでした!
:いやしか女たちばい!
:いやいや待って!
そんな自信満々ってことはガチなの?
:特別マーケットの表記は操作できないからね
:ダンジョンの歴史変わるよこれは!
:わたくしは入手理由の方も聞きたいですけれど!
:お姉ちゃんはまだDM待ってるよ!
:おねえちゃんはさっさと諦めてもろて
:そもそもアイテムって他人に渡せるの?
そういえば、直接取引をほのめかしている人はいるが、実際そんなことが可能なのだろうか。
僕が首をかしげていると、同じことを考えていた人が多かったのだろう。
すかさず補足が入る。
:マーケットを介さずにアイテムの所有権は移りません
合意の上でアイテムを渡しても、渡された相手が
アイテムを使ったり、装備することは不可能です
:長文ネキ!
:やっぱりダメなんじゃん
:ただし、ポーション類には例外の事例もあります
スキルポーションでの例はないので未確定ですが
ポーションを「自分の手でパーティメンバーに飲ませた」場合は
「自分のアイテムを所有したまま仲間に使った」判定となり
他人に効果を及ぼすことが出来る可能性は言及されています
:はえー
:実例はなしかぁ
:まあ失敗してスキルポーション無駄にしたら大炎上だろうし
:試せないよねぇ……
:待って! つまりスキルポーション譲渡を口実にしたら
ライ様に手ずからポーションを飲ませてもらえるってコト!?
:天才かよ……!
:閃いた!
:閃かないで!
:ライきゅん! お姉ちゃんだよミ☆
授乳赤ちゃんプレイオプションつけてくれるなら
知り合いに借金してでも3億そろえるよ!!!!
よろしくお願いします!!
:ひえっ
:これが"ホンモノ"……
:おねえちゃんがますますおかしくなっちゃった!
:私たちのお姉ちゃんが帰ってきたな
:ああ、ようやく調子が出てきたな
:おかしくなったのか正常になったのか
もうこれ分かんねえな
「え、ええっと……。あ、会わなきゃいけないのは身バレのリスクがあるので、すみません」
お姉ちゃん……についてはノーコメントとして、スキルポーションを他人に使う方法論はゲームではなかったものなので知見にはなったが、身バレの危険を冒す訳にはいかない。
とりあえず変な空気になってしまった場を戻すためにも、僕は売買を強行してしまうことにした。
「それじゃあ、早速出品しちゃいたいと思います! 欲しいなって思った人は、予約は済んでますか? あ、でも、低倍率なので、当たらなくてもガッカリしないでくださいね!」
僕が状況を進めようとすると、またコメントが波のように動き出す。
:ついに!
:ドキドキしてきた!
:待って手汗やばい
:私なんか全身から液体という液体垂れ流してるよ!
:運を天に任せるのみ!
:待って待って待って!予約まだ予約まだ!
:お金が120マナ足りないぃぃぃぃいいいい!!
どうして昨日武器買っちゃったのバカバカバカ!
:探索者勢は大変そう
:非探索者の私、低みの見物
:今回ばかりは私も蚊帳の外だな
:みんながんばえー
まだ準備が出来ていない人もいるようだけれど、あまり引き延ばしてもしょうがない。
「それじゃ、カウントゼロで三つ一気に出品します。十、九、八……」
:判断が早い!
:お願いしますお願いします!本当にほしいんです!
:わたしも!あと1ポイントあれば最強の
殴り僧侶ビルドが完成するんです!
:じゃ、じゃあわたしは病気の妹が……
:わ、私は主人がオオアリクイに殺されて……
:嘘松多すぎィ!
:殴り僧侶はガチで弱いし
邪魔だからやめて・・・やめろ
:何かトラウマ持ちいて草
:そこまでしてスキルポーションがほしいの?
:ほしいに決まってるでしょ!!
:ならアンタは入札やめなさいよ!
:みんな、喧嘩しないで!
間を取ってわたしにポーションを……
:間とは……
:うーんこの・・・
:人とはみにくい生き物……
止まらないコメントの流れが、カウントダウンに従っていや増していく。
一切熱量が落ちないままに、カウントは進んで……。
「……二、一、ゼロ! 出品します!!」
僕はカウントゼロと同時に、出品確認のボタンを押し込んだ。
同時に、初級スキルポーションの項目が、「抽選中」の表示に変わる。
:来た来た来た来た来た!
:ガチだああああああああ!!!
:嘘でしょ!?嘘でしょ!?
:わたしわたしわたしわたし!!
:たのむぅううううう!!
:もうこれで終わってもいい!
ありったけの運を!
:神様神様神様神様神様神様!!
もはや、目で追いきれないほどのコメントが視界を流れていく。
……そして、ついに。
「……あ」
「ピコーン」という軽快な音と共に、「〈初級スキルポーション〉の取引が成立しました」というメッセージが表示される。
三つのポーションは一体誰の手に渡ったのかと、反射的にコメント欄に視線を向けた僕の目に、飛び込んできたものは……。
:やったあああああああああああああ!!!
姉弟の絆が勝ったあああああああああ!!!
ライきゅん好きいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!
数千分の一の確率を勝ち抜いた一人の女性の、勝利宣言だった。
豪運おねえちゃん!!




