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第43話 特別マーケット


(――シリアルコードは、思わぬ収穫だったなぁ)


 まずスキルポイント、これは純粋に嬉しい。

 なぜなら、アドサガのシステムでは基本的に、「スキルポイントが足りる」ということがないからだ。


 一つの方向性を極めるビルドをしていても、別ビルドの要素をつまみ食いして強くなる要素は多々あるし、何より武器修練の項目は重複する。


 例えば、僕は刀全般の攻撃力が上がる〈刀修練〉にスキルを振っているが、刃がある武器全般の攻撃力を上げる〈刃物修練〉にもポイントを振れば、刀は全て刃物なので、刀全般の攻撃力がさらに上がる。


 あるいは、これからのメインのダメージソースは大型の刀になると思うなら、太刀の攻撃力のみを大きく上げる〈太刀修練〉を積んでもいいし、今の主力である〈風絶ち〉をさらに強くしたいなら、〈小太刀修練〉のスキルを上げるのもありだ。


 とにかくスキルポイントなんてなんぼあってもいいものだし、これが一番の収穫だったのは間違いない。


(それだけでも嬉しかったんだけど……)


 くわえて、「2.5A-NNIV-CHLG-WIN!」の方でもらえた〈ブーストチケット〉も、この世界基準で言えばかなり良いものだった。


 その効果はMMOなどをやっている人にはおなじみのもので、使用すると一定時間、入手経験値量やドロップ率がブースト……倍増されるというもの。


 こういったブースト系アイテムがどのくらい貴重かはゲームによって異なるが、アドサガではイベントごとでの配布か、課金でしか手に入らなかったため、かなり貴重な方だと言えるだろう。


 この世界にイベントや課金手段などがない現状、下手をするとこのコードでしか入手出来ない可能性すらある。


 今回もらえたのは、そのブーストチケットの中でも特にブースト倍率が高い〈経験値ブーストチケット(2ndアニバーサリー)〉と〈ドロップブーストチケット(2ndアニバーサリー)〉が五枚ずつ。


 ……まあ、「2.5周年の生配信報酬なのに二周年のアイテム使いまわしてんじゃないよ!」と言いたい気持ちもあるけれど、突発的に決まったものだからしょうがない。


 この二周年ブーストチケットは、普通のチケットの効果時間が一時間なのに対し、効果時間がたったの十分しかないが、その代わりに倍率は二十倍とぶっ壊れている。


 一周年の時に十倍のチケットを出していたので、「二周年では二十倍だぁ!」という安易な発想でやっただけだと思うが、その効果はすさまじいの一言。


 たった十分の狩りで二百分の成果……つまりは三時間の狩りと同等以上の成果が出ると言えばすごさが分かるだろうか。

 正直これ使っている間はめちゃくちゃ脳汁出て、笑いながら狩りしていたのを覚えている。


 ちなみに効果時間が短いので、ボスやレアモブとの戦いで使うのが基本になるのだが、この十分という時間がなかなか曲者。

 ボス戦前に颯爽と使用して、ボスとの戦闘が長引いてブースト効果が切れて膝を折るのは、もはやアドサガプレイヤーあるあるだ(一敗)。


(でも、今の僕とは相性がいいんだよね)


 あの大部屋のような魔物がひしめいている部屋を攻略する前に使えば、二十倍の恩恵をフルに受けられる。

 こっちも思わぬ収穫だったと言えよう。



 ――ピピピピ、ピピピピ。



 なんてことを振り返っていると、仕掛けておいたアラームが鳴る。


「……おっと。そろそろか」


 今日はかねてから予告していた配信の日だ。

 戦う予定はないが、ダンジョンからしか配信は出来ないので、魔王城一階のエントランスから配信することになる。


(あいかわらず、すごい待機人数)


 だいぶ前から予告していたからだろうか。

 前回をさらに上回る人数に怖気づきながらも、僕は配信開始のボタンを押した。


「魔王城からこんにちは! バーチャルダンチューバーのライです!」


 そうして、いい加減言い慣れてきたあいさつを放った瞬間、



:待ってた!!

:うわあああああ新鮮なライ様だあああああああ!

:hshshshshshshshshs

:ライきゅん!! お姉ちゃんだよッ☆

:ハイレタハイレタハイレタハイレタハイレタ

:M5000 お通し

:ありがたやーありがたやー

:M5000 ひゃっはー!配信だぁ!!

:今日までライ様不足で死ぬかと思った

:前回の配信百回見直してました!

:M5000 こちらも投げねば不作法と言うもの

:M5000 支援です!

:作法とは・・・

:M5000 どうかお納めください

:M5000 満額飛びすぎィ!

:コメント欄カラフルだぁ・・・

:M4999 満額は無理ですがこれで……

:M4545 純粋な応援の気持ちです!

:おいwwww

:スパチャ芸やめてねwww

:誰でも一ヶ月で200万円稼げる方法載せてます

 addps://sirosagijyouhoukyoku/nezumikou.com

:M5000 会いたかったよお兄ちゃん!

:生ライくんが染みる……染みる……

:あー好き!好きすぎてつらい!

:今度は妹を名乗る不審者まで……

:M5000 仕事中だけど支援ですわ!

:初見です!結婚してください!

:ずるい! じゃあわたしが結婚する!

:M5000 これ結納金です

:謹んでお断り申し上げます。

:わたしは恋人でいいよ(謙虚)

:強欲なんだよなぁ・・・

:私は足置きマットでいいよ(謙虚)

:謙虚通り越しちゃった

:逆にこわいよ!!

:ええい! ここには変態しかおらんのか!

:そうだよ(迫真)



 瞬く間に、その数倍の数と熱量の文字たちが押し寄せてくる。


「あ、あははは……。みんな、元気そうだね」


 この情報量でぶん殴られる感じも、もはやおなじみの感覚だ。

 いやまあ、これが一般的な配信の標準かは分からないけど。


 ……と、圧倒されてばかりもいられない。

 今日はこれから動かせない予定があるのだ。


「コメントとスパチャありがとう! もっと話をしたいところだけど、今日は予告通り、前回のドロップ品のお披露目と、特別マーケットに参加したいと思います!」



:変異種のドロップたのしみー!

:何落ちたんですか?

:変異種はレア泥確定なんですわよね

:期待age

:特別マーケットis何?

:スーパーマーケットだ!

:オークションみたいなもんだよ

:探索者なら全員知ってるけど説明難しい

:特別マーケットとは、毎月一日に開催される

 手数料の低いマーケットのことです

 手数料以外にも、特別マーケットは独自の入札

 システムが採用され、複数予約が出来ません

 リアルタイムで張り付く必要があるため

 配信者が視聴者にプレゼントする用途にも

 利用されることがあります

:長文ネキ!?

:生きワレェ!



「……と、いうことですね。特別マーケットはオークションみたいに使える期間限定のマーケットで、配信者が出品したものを、リスナーが高確率で落札したり出来るんです」


 例えば、通常のマーケットで人気があるアイテムなどには数万人、下手をすれば数十万人単位で予約が入っている。


 もし仮にそのアイテムをマーケットに流したとしたら、予約している数十万の中からランダム抽選されるため、狙った人に品物を渡すことなんて出来ない。


 しかし、特別マーケットは、開催されるごとに予約がリセットされる。

 たとえ超人気なアイテムでも、開催時の予約数は0。


 しかも、予約は一つの品にしか出来ないから、とりあえず欲しいもの全部に予約して……ということは出来ない。

 数ある商品の中から、一番欲しいものをリアルタイムで予約しないといけないため、どんなに人気のあるアイテムであっても予約数は少なくなるのだ。


(だからって、それを配信に利用する、なんて前世でもなかったけどね)


 同じシステムであっても、時代が変われば利用法も変わる。

 この特別なシステムを利用して、配信者が手に入れたちょっとめずらしいアイテムをリスナーに流したり、逆に推しの配信者に情報を流して配信上で入札チャレンジをしてもらったり、という文化があるそうだ。


 ……ただ、特別マーケットを使うのは、もちろん配信関係者だけじゃない。


 むしろ通常マーケットよりも手数料が低いため、貴重な品物ほど特別マーケットに出品されやすい。


 つまりは――



:ごめんなさい! ライ様の配信見たいけど

 マーケット直前になったら離脱します!

:わ、わたしも……

:M5000 スパチャだけ置いておきます!

:探索者じゃない私、低みの見物

:M5000 かなしみ・・・

:あとでアーカイブ見ますから!

:あー ガチ探索勢には確かにきついか

:そりゃ狙いのレアアイテムがあれば、ねえ



 ――特別マーケットとは、戦争。


 魔物相手にドンパチやるのとはまた違った種類の駆け引き、戦いが、この仮想の市場で繰り広げられることになる。


「大丈夫だよ。むしろ配信見てないで、自分に必要なアイテムを落札してきて。ほかの人たちも、無理にここにいなくていいからねー」


 名残惜しそうなコメント欄に、あえて軽い口調で手を振って応える。

 単純にほかの配信者がやっていたムーブを真似してお祭りが出来ればと思っているだけだったから、そこまで恐縮されるとこっちが申し訳なくなってしまう。


 その空気が伝染したのか、コメントの流れもちょっとだけ曇ったものになって……。


 しかし、そんな空気も直後に投下されたコメントで一瞬で変わった。



:ふふふ! みんな甘いな!

 我が財力でライ様の出品したものは

 私が全て落札してみせよう!

:セシルさま!?

:なんでここにセシルさまが!?

:まあいつもいるけども……

:アンタは一番いちゃダメでしょ!

:なんでトップ冒険者が特別マーケット

 ぶっちしてんのよwww

:ふっ 私ほどのレベルになると欲しい

 アイテムが全然出品されないからな!

 今日はもう遊ぶことにしたのだ!!

:お、おう・・・

:ま、まあトップ冒険者用のアイテムとか

 そうそう出品されないか

:なるほど強者ゆえの孤独!!

:これが、一流のすごみ……!!!

:絶対違う・・・



 有名配信者にしてトップ冒険者のセシルさんが、なぜかまた僕の配信に遊びに来ているらしい。


 コメント欄がまた一気に賑やかになる。


 ほんとこの人大丈夫なのかな、とは思ったけれど、それで場の空気が変わってくれたのはありがたい。

 みんなの意識を引き込むように声を張り上げ、一気に前向きな雰囲気を作っていく。


「前回の大部屋で大勢のモンスターや変異種を倒し、たくさんのアイテムを手に入れました。残念ながら、ほとんどは普通のアイテムでしたけど、その中に二種類だけレアなアイテムが混ざっていたので、今日はそれを特別マーケットに出品しようと思ってます! 皆さんも、気が向いたらぜひ入札してみてください!」



:レアアイテム期待!

:楽しみね!

:ぜったい入札します!

:ハードルあげていくぅ!

:わああああああ!

:絶対取る絶対取る絶対取る絶対取る

:どうしよう今お金ないのにぃ!



 リスナーの反応は上々。

 ただ、



:楽しみだけど、二階層のお宝だよね

:期待はしたいけどランク1は……

:ううー 金欠だからパス!

:アクセまだ出ないから上振れもないのよね

:ランク1ならわたしたちにも買える値段だって

 ポジティブに考えようよ!

:記念品としてはあり、かな?



 一部の冷静なリスナーからは、若干冷めた反応も見えている。


(……でも、その通りではあるんだよね)


 キャラクターだけでなく、ダンジョンの敵にもランクがある。

 ランク1のモンスターから手に入るものは、どんなにめずらしいものであっても限界はある。


 今日出品しようとしているアイテムはレアなのは間違いないが、「これがもっとランクが上のアイテムだったら」と思う心は否定出来ない。


 もし、「これを出品しても誰も見向きもしなかったら」と思うと、戦いの時とはまた違う恐怖がある。


 しかし、そんな空気を変えてくれたのは、またしても「あの人」だった。



:ふふっ 愚かな……

 どんな効果のアイテムか、ではない

 誰が出品したアイテムかに意味があるのだ

:セシル様今日は一段と極まってる

:(ヤケクソになってるだけなのでは?)

:(こら! お下品ですよ!)

:ライさんのアイテム、落札したいです!

:わたしもわたしも!

:そしていずれはライ様ご本人も!

:させませんですわよ!



 明るいコメント欄に救われて、ほっと息を吐く。


 ちらりと時刻を見ると、もうすぐ特別マーケットが始まる時間だ。

 そろそろお披露目する頃合いだろう。


 密かに覚悟を決め、僕は後ろ手に、インベントリから目当てのアイテムを取り出した。


「はい、ちゅうもーく!」


 緊張を悟られないように明るい声を出しながら、


「では、今日の一つ目の商品は、こちら!」


 自分の口で「デデン!」と言いながら、後ろ手に隠していたアイテムを、リスナーに見えるように前に突き出す。


 それは、透明な容器に入ったポーションだ。

 自然のものではありえない七色の液体が、容器の中で波打っている。



:ぽーしょん?

:なんか虹色してるけど

:体に悪そう

:え? 見たことないけど

:でもランク1のアイテムなんでしょ?

:いやこれ……えっ違うよね?

:!?!?!?!?!!!!!?

:ちょ、ちょっと待ってくださいまし!?

:待て!待て待て待て待て!



「お、知っている人もいるみたいですね! はい、これは――」


 早速ノリのいい反応で配信を盛り上げようとしてくれている一部のリスナーさんたちに内心で感謝しながら、元気よくその正体を口にする。




「――使うだけでスキルポイントが増える、〈初級スキルポーション〉です!!」




祭りの始まり!!

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― 新着の感想 ―
スキルポイントが増える、の? でも初級って事はなんらかの制限があるのかなあ?
スキルポイントの貴重さは変わらんからこれがとんでもないものなのはわかって出すんだろうけど、二個あるうちの初手がこれって二個目はどれほどの爆弾なんだ……?www
また阿鼻叫喚。 「M5000 お通し」そんな飲み屋があったら行きたい。
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