第41話 Sランクソーサラーのスキルビルド
「――ここにあるスキルの組み合わせで、本当に色んなことが出来るようになるの。同じ〈ソーサラー〉でも戦い方や運用法が全く違ってくるのよ」
目の前の「スキル一覧」を前にそう言葉を結ぶ母さんは、穏やかな口調ながらどこか楽しそうだった。
(母さんもやっぱり、探索者なんだなぁ……)
と思うと同時に、ちょっと〈ソーサラー〉という職の多彩さに羨ましさのような感情を覚えてしまう。
(いやまあ、羨ましがる筋合いは全然ないんだけど、やっぱり〈サムライ〉基準で考えちゃうんだよね)
ゲームでも〈ソーサラー〉は不人気職でこそあったが、熱狂的な愛好家が多いジョブとしても知られていた。
その理由の一つが、スキルビルドの幅による、圧倒的なカスタマイズ性の高さ。
(それに比べて〈サムライ〉は、ビルド幅狭すぎたからね……)
いや、ビルドの幅が極端に狭いということはなかったのだが、〈刀気解放〉があまりにも強すぎて、ガチ寄りビルドにするなら絶対に〈刀気解放〉主軸になってしまうため、全員似たビルドしかやらなかった、というのが正確かもしれない。
と、そんなことを思って黄昏ていると、
「あ、いきなり情報が多すぎてびっくりしちゃうわよね。でも大丈夫。別にこれを覚える必要はないのよ。初めのうちはそんなに難しく考えずに、ただ一つのカテゴリーから一つずつ、何を選ぶか考えながら取っていけばいいだけだから」
僕が情報量の多さにフリーズしていると思ったのか、慌てて母さんが補足する。
「それに、ビルドが千差万別と言っても全部が違うものになる訳じゃないわ。例えば〈ソーサラー〉なら、1ランクで使える6ポイントのうち、実質的には四つまではほぼ固定なの」
母さんは新しいメモを持ってくると、そこにペンを走らせる。
「まず武器、防具カテゴリでは、魔法メインなら短剣よりも〈ロッド〉、服よりも〈ローブ〉で安定。そうしたら武器修練も当然〈ロッド〉になるでしょ。最後に、魔法で戦うにはまず魔法を覚えないと話にならないから、流派は魔法習得に関わる〈投射魔法研究〉で確定。……こんな感じね」
解説しながら項目を埋めていくと、以下の二つが残った。
武器装備:ロッド装備
武器修練:ロッド修練
防具装備:ローブ装備
流派選択:投射魔法研究
技術強化:???
技能習得:???
「自分で選ぶのは、この二つだけ。そう考えると簡単でしょう?」
実に合理的な話だった。
でも、そうなってくると、〈ソーサラー〉のビルドに幅があるというのはなんだったのか、という疑問も出てきてしまう。
「四つが固定として、残り二つ違うだけでそんなに変わるの?」
僕が思わず尋ねると、母さんはにんまりとした笑顔を見せて言う。
「かなり変わるわよー。例えば安定は〈マジックストック〉と〈魔力障壁〉で、戦闘開始で障壁を張ると同時にストックしておいた魔法を放って攻防を両立させるスタイルって言われているけど、これを〈マジックコントロール〉と〈魔力感知〉にすれば障害物の向こうから狙う奇襲型になるし、〈マジックアクセル〉と〈二杖流〉にすると両手に構えた杖からマシンガンみたいに魔法を撃ちまくる型になったり、〈マジックエクステンド〉と〈マジックサステイン〉を重ねて遠距離狙撃型とか……」
「お、おおー!」
母さんの熱い語り口に、自然と感嘆の声が出た。
確かに話を聞いていると、それだけでずいぶんとプレイスタイルに幅が出そうだ。
参考になるなぁと思いながらも、そうなってくると俄然気になってくるのが、Sランクの探索者だという母さん自身のスタイル。
「母さんはどういうビルドにしてるの? やっぱり安定型、とか?」
僕が尋ねると、母さんの顔が待ってましたとばかりに輝く。
そうして、母さんの手がメモ帳に描いたのは……。
武器装備:ロッド装備
武器修練:ロッド修練
流派選択:投射魔法研究
技術強化:マジックエンハンス
技術強化:マジックストック
技術強化:マジックコントロール
「これが母さんのビルド! 『エンハンス』で極限強化した魔法を複数『ストック』して、接敵時に全て『コントロール』して余すことなく魔物に叩き込む最強火力構成! 〈久利須 彩花スペシャル〉よ!」
さっきまで話していた前提を完全に無視した、あまりにも自由な変態構成だった。
「い、いや、母さん。これ……大丈夫なの?」
防御の要であるはずのローブ装備を外している上に、セオリー無視の〈技術強化〉三積みだ。
いくらなんでも尖りすぎなんじゃないかと震えていると、母さんは笑って答えた。
「大丈夫、問題ないわ。あくまでこれが基本構成なだけで防御スキルもちょこちょこ取っているし、〈ソーサラー〉のビルドの中には、安定構成要素を一個も入れずに両手の短剣と服だけで敵に飛び込んで暴れまわるバーサーカーみたいなスタイルもあるのよ。それに比べたら大人しいものよ」
平然と言っているけれど、それって比較対象がアレなだけじゃないだろうか。
意外と破天荒な母さんにちょっと呆れながらも、
(……でもまあ、楽しそうではあるよね)
前世時代、アドサガのスキルビルドに頭を悩ませていた時のワクワクが蘇ってくるような気がして、僕も思わず笑顔になっていた。
ただ、まあ……。
(――僕がこのビルド群を試す機会は、たぶん一生来ないんだけどね!)
いくら面白そうでも、それはそれ、これはこれ。
母さんにはこれだけ熱く語ってもらっておいて申し訳ないけど、前世ジョブになっちゃったからには、もう、ね。
などと、僕がクールダウンしたことで、母さんもようやく興奮がおさまったようだった。
照れ臭そうに笑ったあと、幾分か落ち着いた口調で会話を再開する。
「ごめんね、レイくん。母さんもちょっと楽しくなって、話しすぎちゃったわね。でも、これでなんとなく、〈ソーサラー〉がどんなスキルを持っているかイメージ出来たんじゃないかしら」
「う、うん。参考になったよ」
僕が若干ひきつった顔で答えると、母さんはほっと胸をなでおろした。
「よかった。じゃあこれから、実際にレイくんが習得する二つのスキルを考えてもらおうと思うのだけど……」
「え? 二つ?」
だがそこで、僕は反射的に聞き返してしまった。
「か、母さん? 僕はレベル1だから、スキルポイントは一つしかないんだけど……」
アドサガではレベル1の時の初期スキルポイントは「1」だ。
実際に僕がこの世界で確かめたから間違いない。
男はダンジョンに入れず、レベルを上げられないはずなので、僕の使えるスキルポイントは表向きには一つだけ……の、はずだ。
しかし、
「……え?」
母さんもまた、そこで僕に負けず劣らずに驚いたような顔で、首をかしげる。
「……?」
「……?」
母さんと二人、まるで鏡合わせのように疑問符を浮かべ合う。
――何かが、食い違っている予感。
だがそこで母さんは、突然「あっ」と何かに気付いたような顔をして口を開くと、
「もしかして、レイくん。まだ〈シリアルコード〉入れてないの?」
「………………はぇ?」
僕の知らない要素を口にしたのだった。




