第40話 Sランクソーサラーのスキル講座
「では、始めましょうか。第二回、ジョブ勉強会ー!」
「わ、わあー!」
ノリノリな母さんの言葉に、僕はぎこちなく歓声をあげる。
「うんうん。流石レイくん、いいお返事ね!」
母さんはご満悦といった様子で褒めてくれるが……うん。
正直、人生二周目の身からすると、このノリはちょっときつい。
ただ、母さんはこういう時に乗ってあげないと悲しそうな眼をしてくるからしょうがない。
外では最強のSランクソーサラー様であっても、家での母さんはちょっと子供っぽいところのある人なのだ。
「……さて。それじゃあ今日は探索者学校への予習として、〈ソーサラー〉のスキルについて話すわね」
「お願いします!」
表情を改めた母さんに、僕は元気よく頭を下げた。
これについてはノリだけではなく、現役の探索者である母さんへの敬意を込めている。
(確かに僕は、アドサガのシステムについてなら、この世界の誰よりも詳しい自信がある)
でもそれは、あくまでも前世でやった「ゲームとしてのアドサガ」だ。
こっちの世界でのアドサガは前世とは似ても似つかない大人気ゲームということになっているし、この世界に魔法で再現される過程で変化した部分も数多くある。
実際、以前の母さんの言葉から学びを得て、僕は「二つのスキルの同時発動」の可能性に気付き、変異種を倒すことが出来た。
現役探索者である母さんの話は、決して軽視していいものじゃない。
(それに、いくらアドサガに詳しいって言っても、マイナー職だった〈ソーサラー〉については専門家って訳じゃないんだよね)
学校では〈ソーサラー〉として過ごさなくてはならない以上、〈ソーサラー〉の知識は必須。
ただ、アドサガはジョブとキャラが紐づいている昔ながらのMMOシステムのため、別のジョブを遊ぼうと思ったらわざわざサブキャラを作って育成しなくてはいけない仕様だった。
前世では一応〈ソーサラー〉のサブキャラも作ったものの、あまりしっくりこなくてすぐにやめてしまった記憶がある。
現役の〈ソーサラー〉である母さんから直接生きた知識がもらえるなら、これ以上のことはないのだ。
だから、ね、母さん。
「――んんんんんー! どうしましょう! うちの子がいい子すぎてやばいわ!!」
僕が頭を下げただけで、身もだえしないでね。
話、進まないから。
「……ごほん。今日のテーマは〈ソーサラー〉のスキルビルドよ。あ、ビルドって分かるかしら。元はゲーム用語で、どう成長させるか、ということね」
「うん。そういうのは大丈夫。ちゃんと勉強してあるよ」
というか、そういう用語に関しては母さんよりも百倍詳しい事情がある。
「うんうん。さっすがレイくんね! 勉強熱心で偉いわ! ご褒美にハグを……」
「そ、それで! スキルビルドについて詳しく教えてくれるんだよね!」
また脱線しようとする母さんを遮って続きを促すと、母さんは「もう、照れ屋さんなんだから」と頬をふくらませたのち、話し始める。
「じゃあ、レイくんがちゃんと分かっているかどうか、確認しながらやっていくわね。まずそれぞれのジョブは、たくさんの習得可能スキルを持っているわ。でも、スキルポイントは有限で、全部のスキルを取ることは出来ない。だからどのスキルを取って、どのスキルを取らないか。それを選ぶことが大事で、その選択こそが『スキルビルド』なの。ここまではいい?」
「うん、大丈夫」
僕の迷いのないうなずきに、母さんも安心したようだ。
「じゃあ、もう少し具体的な話をするわね。例えば〈魔法研究〉のスキルレベルを上げると、どんどん強い魔法を習得出来る。でも、一つの項目にスキルポイントを集中させることは出来ないの。どうしてか分かる?」
「それは、レベルによって、取得出来るスキルのランクが決まっているからだよね」
僕の答えに、母さんは嬉しそうに破顔する。
「正解! レベルとランクについては、こんな感じになっているわ」
そうして母さんが見せてくれたのは、「キャラクターランク表」と書かれたメモ。
レベル 1~ 9 ランク1(初心者)
レベル10~19 ランク2(中級者)
レベル20~29 ランク3(一人前)
レベル30~39 ランク4(熟練者)
レベル40~49 ランク5(上級者)
これが、アドサガのスキルシステムの肝だ。
――キャラランクと同じ数字までしか、スキルレベルを上げられない制約。
例えば僕はまだレベル9で、ランクは当然1。
だから、どのスキルもスキルレベル1、つまり一段階しか取得出来ない。
逆に言えば、レベルがあと1上がって10になれば、ランクが上がって〈刀装備〉などのスキルを2に上げられるので、一気に戦術の幅が広がることになる。
「スキルは色んなものを散らして取るよりも、一つの項目を高いレベルにした方が強い、とされているの。だから、基本的には習得するスキルを絞って、それが現在の上限レベルになるように、集中してポイントを使っていくことになるわね」
これもまた、当たり前の話だ。
例えば、サムライは防具を〈甲冑装備〉と〈道着装備〉のどちらかから選べるが、両方のスキルレベルを上げても同時に二つは装備出来ない。
だったら甲冑と道着両方をスキルレベル2にするより、どちらか片方をレベル4にした方が強いのは道理。
そうなると必然、上げていく項目は絞られてくる。
「スキルポイントは偶数レベルに上がった時に1ポイント。それから例外的に、レベルが10の大台に乗って、ランクが上がる時に2ポイントもらえるの。だから基本的には、2、4、6、8で4ポイント、10の時に2ポイントで、1ランクで手に入る合計ポイントは6ポイントになるわ。そして……」
そこで母さんは言葉を切ると、新しいメモをそっとテーブルに滑らす。
そこに置かれたのは、ある意味で、〈ソーサラー〉の全て。
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●スキル一覧
【武器装備】
短剣装備 高度な短剣を取り扱うことが出来るようになる
ロッド装備 高度なロッドを取り扱うことが出来るようになる
【防具装備】
服装備 高度な服を取り扱うことが出来るようになる
ローブ装備 高度なローブを取り扱うことが出来るようになる
【流派選択】
投射魔法研究 任意の方向に飛ばす系統の魔法スキルを習得する
補助魔法研究 味方の能力を上げる魔法スキルを習得する
魔道具使い 魔法武器や魔力武器の扱いが上手くなる
二杖流 利き腕ではない手の武器の扱いが上手くなる
【技術強化】
マジックストック 詠唱したスキルを保存して任意に発動出来る
マジックコントロール 一度放った投射系のスキルを操作することが出来る
マジックエンハンス MPを多く注ぎ込んでスキル威力を拡大出来る
マジックセーブ スキルの消費MPを削減する
マジックアクセル スキルの詠唱時間を短縮する
マジックエクステンド スキルの射程距離と範囲を拡張する
マジックサステイン スキルの効果時間を延長する
【武器修練】
武器修練 武器全般の扱いが上手くなる
杖修練 杖全般の扱いが上手くなる
ロッド修練 ロッドの扱いが上手くなる
刃物修練 刃物全般の扱いが上手くなる
短剣修練 短剣の扱いが上手くなる
【技能習得】
魔力必殺 あらゆるダメージスキルにクリティカルのチャンスが生まれる
魔力反撃 瀕死時に専用スロットにセットしているスキルを自動で発動
魔力障壁 MPを消費して攻撃を防ぐバリアを展開する
魔力感知 周囲の魔力の流れを感知し、隠れた敵や罠を見破る
魔力狂乱 狂乱して物理攻撃力が激増するが、発動中は強制沈黙状態になる
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その大海のごとき情報量に圧倒される僕に、母さんはテーブルに身を乗り出すようにして、言った。
「――その6ポイントでどのスキルを取るか。そこに、〈ソーサラー〉の無限の可能性が詰まっているのよ!」
そう口にする母さんの目は、子供のようにきらきらと輝いていた。
スキルビルド沼!!




