↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「婚約破棄ですか? ありがとうございます!」アラフィフ聖女が引退したら、国王陛下が絶叫しました  作者: 姫野ことは(旧名:KOTOHA)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/6

第3話:ディートリヒを呼べええええ!

 翌朝。


 王宮、国王の執務室。


 グスタフ国王は、宰相が差し出した書類を三度読み返した。


「……何だ、これは」


「筆頭聖女オデット・ヴァレンティーヌ様の、退任通知でございます」


「退任?」


「昨夜の夜会にて、ディートリヒ殿下がオデット様との婚約を破棄なさいました」


「…………」


「これに伴い、聖女奉仕契約も終了いたしました。解除書式には両当事者の署名と、書記官の印章がございます」


「…………」


「現在、守護結界の管理責任者は不在です」


 ぱきり、と羽ペンが折れた。


 国王は立ち上がった。


「ディートリヒを呼べええええ!」


 半刻後。


「父上! お聞きください、私は真実の愛を――」


「黙れ!」


 国王は解除書式を机に叩きつけた。


「第三条は読んだか」


「……第三条?」


「読んだのかと聞いている!」


「オデットが何か申しておりましたが、どうせ未練がましい言い訳だろうと……」


 宰相がそっと目をそらした。


「書記官から報告を受けている。あの方は署名の前に、条文を指で示して説明なさった。結界の管理者がいなくなると、はっきりおっしゃった。それをお前は、聞きもしなかった」


「で、ですが父上、結界ならフィオナが――」


「フィオナ嬢は今朝、神殿で倒れた。オデット殿の代わりを務めようと、無理をしたそうだ」


 ディートリヒの顔から、血の気が引いた。


「お前は、あと三年も待てなかったのか!」


「ですが、あの女はもう四十八で――」


「年齢が何だ! お前が生まれる前から、この国を守ってくださっている方だぞ!」


 国王の声が、執務室の窓を震わせた。


「お前が生まれた夜、王都の北に魔獣の群れが押し寄せた。あの方は一晩中、結界を張り直してくださった。お前を最初に抱いたのは、その帰りのあの方だ。泥だらけのまま、よく泣く元気な子だと笑ってな」


 ディートリヒは、何も言えなかった。


「そもそも、七年前の婚約は、あの方を他国や貴族の思惑から守るためのものだった。結婚を強いるものではないと、説明したはずだ!」


「……形式上の婚約だとは、聞いておりました」


「ならば、なぜ!」


「ですが、私は……」


 ディートリヒは言葉を詰まらせた。


「父上が決めた婚約者だと、ずっと思っていました。私の意思など、誰も聞いてくれなかったと……」


 国王は、息を呑んだ。


 七年前。


 自分は確かに、婚約の目的を説明した。


 だが、成人したばかりの息子が何を感じていたのか、尋ねたことはあっただろうか。


 十八の若者に、母親ほども年の離れた婚約者だ。面白いはずがない。


「……それは、私の落ち度だ」


 ディートリヒが顔を上げた。


「だが、それと、お前が昨夜したことは別だ。オデット殿にも、フィオナ嬢にも、何の非もない」


「…………」


「下がれ。沙汰は追って伝える」


 扉が閉まる。


 執務室に、重い沈黙が落ちた。


「……陛下」


「わかっている」


 国王は、椅子に深く沈み込んだ。


「あれを怒鳴りながら、私が何を考えていたと思う」


「王国の行く末を、でございましょう」


「そうだ。結界が、守りが、国が困る、と。……あの方がようやく自由になれた、とは、一度も思わなかった」


 七年前のことを思い出す。


 四十一歳のオデットが差し出した辞表を、国王は受け取らなかった。


 あと十年だけ、と頭を下げた。


 彼女が責任感の強い人だと、知っていながら。


 あのとき、彼女は一つだけ条件を出した。


 ――殿下が本当に好きな方を見つけたとき、私が足枷になりませんように。


 婚約当事者の署名だけで解除できる条項は、そうして生まれた。


「あの条項を入れさせたのは、あの方だった。息子の自由を守るために」


 国王は窓の外を見た。


 王都の空に、うっすらと結界の網目が光っている。


「私は、あの方の自由を一度でも考えたことがあったか。……いや。私も、あれと同じだったのかもしれんな」


 宰相は答えなかった。


 国王は姿勢を正した。


「オデット殿には、王家から正式な褒賞を。退職金と、あの方が好んでおられた温泉街の別荘だ。引き留めの条件は一切つけるな。ディートリヒは公務を停止し、神殿で結界管理を下働きから学ばせよ。そして、オデット殿の引き継ぎ資料を全聖女に共有し、複数人で結界を支える体制を整えるのだ」


「御意に」


「……三十年間、一人に背負わせてきた。それがそもそもの間違いだった。二度と、一人の聖女の人生を国の守りと引き換えにするな」


 宰相は深々と頭を下げた。


 国王は、机の引き出しから新しい便箋を取り出した。


「……陛下、そちらは?」


「詫び状を書く」


「王家の正式な書状でございましょうか」


「いや」


 国王は首を振った。


「王としてではなく、七年前に頭を下げた男としてだ」

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


三十年間、王国を守り続けてきたオデット。


「今度こそ、自分のために幸せになってほしい!」と思っていただけましたら、ぜひ下の☆☆☆☆☆から応援していただけると嬉しいです!


皆様の応援が、作者の大きな励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。