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カミサマ始めました  作者: /黒
《第一話》『アクマとカミサマ』
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4/31

4.

 今更毒など盛るまいと、躊躇せず……それでも無から現れた有に少し気味の悪さを覚えながら食べたボロネーゼ。別に俺は神の舌を持つわけではないが、普通に美味いパスタだった。

 ――パスタを食べながら考える。異世界をまたにかける神様。すなわち、カミサマである今の俺には、それに準じた能力がしっかりとある。

 それは、別の世界から人間――もとい、魂を引っ張ってくる能力だ。

 魂、などというオカルト。普通なら半信半疑であった事だろう。少なくとも、科学の発展した現代社会においてそういうスピリチュアルな話は、暇な時かにっちもさっちも行かず神にでも祈るしかないときに考えるものだ。

 だが、こんな場所に連れられてきて、おかしなモノを見せられている故か、そういう眉唾物の概念もある程度は受け入れられる。

「というか、受け入れざるをえない、というべきか」

 兎にも角にも、俺にはその魂――敢えてオカルトから離れた言い方をするならば意識。それを、世界から世界へ移動させる事ができる。

 それが、何の意味を持つのか。勿論、ただ移動させるだけでは何の意味も無い。

 そもそも、世界から世界への魂の移動は、日常的に起こっているらしい。カミサマになったからか、知覚しようと思えばそれを知覚できる。

 謂わば、それは転生とでも言うべきか。とある世界で死んだ魂は、ランダムで別の世界へと移動し、それまでの記憶を消されて新たに生まれなおす。所謂、循環している状態にあった。

 その転生を、カミサマである俺は自身の権限で操る事ができた。記憶を持ち越すか否かも俺の思い通りにする事ができ、文字通り神の所業を実行することが可能だった。

 では、それに何の意味があるのか。意味なら大ありだった。なぜなら魂には、能力値のようなモノが存在するからだ。

 それは、ざっくり言えば転生モノにありがちなステータスのようなものだが、何も攻撃力だとか防御力だとかいう、いかにもゲームちっくなものではない。

 どちらかというと、職業適性パラメータの方が近いだろうか。あの、神のお告げで勇者が薦められたり遊び人が薦められたりするアレだ。

 人間、というものには、生まれた時から性格傾向が存在する。活発的で他人に対して物怖じする幼児がいたり、それとは逆に人見知りで親の後ろに隠れる幼児がいるなど。人生経験の有無などほとんど無いような子供が発揮する、一種の法則性のようなものだ。

 無論、その二つだけではないが、魂ごとの、そういった行動の行いやすさとでも言えばいいのか。そういったものから抽出された、生まれ持っての性格、それから生まれた環境からシミュレートされる才能が、俺は分かるようになっている。

 つまり何が言いたいのかというと、特定の行動をしてほしいところに、その行動を取ってくれやすい人間を送り込む事ができる。即ち、戦略シミュレーションゲームにおける人材確保じみた事ができる、ということだった。

 それは逆説的に、人を直接操れない以上、そこに展開を頼らざるを得ないという事だった。

 現象をコントロールして特定の行動に持っていこうとする事はできなくもないが、それもまた当人の性格次第。敵が現れたとして、応戦するか逃げるかは、その人物次第だろう。俺はそこでどうして貰うべきなのかを考えて、この転生能力を使う必要がある。

 カミサマアイには、先に言ったパラメータを映すこともできる。最初はその超常的な第三の目のようなものに気分悪くなったものの、少しずつそれに慣れてきた俺がいる。

 何せ、お試し部屋で試しまくったのだ。――アクマの用意した部屋ではあるが。

「誰が適正か……」

 俺は、元々いるこの世界の人間にその運命を託そうとは思っていなかった。

 理由は単純で、アクマもまたこの世界の人間の全てを確認しているであろうからだ。そして、その“人間”にはややこしい話になるが“魔族”も含まれる。彼らも、前世では別の世界で人間を経験した事のある魂である。

 その上で、作戦を練っているであろう事は確実。となれば、その世界内で起こる事象は、どう足掻いてもあちらの戦略、もとい想定を崩せない確率が高いからだ。

 であるならば、別の世界から別の可能性を引っ張ってくるのが常套手段というもの。……アクマも、他の世界の魂を確認している可能性はあるが、世界人口70億の何倍もの数の、全ての世界の魂を把握して戦略に組み込むのはあまりに困難だろう。

 ――そこは、俺の願望が入っている部分も否めないのだが。しかし、勝率を上げようと思うと、最終的にはどこかで希望的観測に縋らねばならない。なぜなら、この盤面はそもそもあちらが用意したものだからだ。

「どーんな風にカミサマはワタシに対抗してくるんですかねー?」

「言っとくが覗くなよ?」

「相手の手札を覗くなんて無粋はしませんよぅ。なんなら、ここからはワタシだけ、ステータス確認を禁止してもいいくらいです?」

「何?」

 それは願ったり叶ったり。なんなら、誰を、どんなヤツを転生させてきたかを確認されないだけで大分こちらはマシになる。もしバレていたら、あちらが一気に戦力を集中させて本命と思しき人物を潰すよう仕向けることだって、やりようによっては可能だろうからだ。

「ハンデです、ハンデ。初心者カミサマには、これくらいあった方が丁度よいでしょう?」

「――後から、やっぱなし、は無しだからな?」

「ええ、勿論。こちら、嘘だった時のヒトジチです……!」

 アクマはそう言って、どこからともなく両手で捧げるように、財布を出して差し出してきた。……見た目が、鰐革の高そうなヤツに見えるんだが。

「……なにこれ」

「ワタシの全財産!」

「お前金なんてどこで使うんだよ……」

 無から有を出せるヤツに金なんてあっても意味は無いだろう。というか、念のため中身を確認してみても、硬化一つ入っていない空っぽ。多分、テキトー言ってるのだろう。

 ――気を取り直し、自分の思い描く作戦にふさわしい人物を、他の世界から探してみる。

 適性だけ見れば、合致する連中は幾らかいる。世の中、そういう立場を得手としている人間というものは、やはり幾らかいるらしい。

 しかし俺が求めているのは、その適性だけではない。その先の、ワールドコアに関わる未来で、俺の望んだ結果を掴む事のできるような人物だ。

「――それで行くと、適正はこいつか」

 その人物は、俺が知るものとよく似た世界に生きている高校生だった。普段はおとなしめだが、負けん気の強いタイプ。しかしながら、この世界においてはどこにでもいる少年である。

「適正以外にも、全体的な傾向は申し分ない……んだがなぁ……」

 俺は、思わず口に出してしまうほどに、苦い感情を覚えてしまう。

「どうしました? あ、こちら食後のドクターペッパーです」

「何でそれを選んで何でティーカップに注いだんだよ。あー……んー……」

 ヤツの非人間的な雰囲気を思い出し、一瞬迷いながらも俺は聞いてみることにする。

「――なあ、特定の人間を、元の世界の周囲に影響なく転生・転移させられる手段はないのか?」

 俺は、期待はあまりせずに聞いた。すると、アクマはあっけらかんと答える。

「ありませんね」

「やっぱりか……」

 お約束といえばお約束。異世界転生・転移ものの定番として、やっぱり主人公は直前に何故かよくトラックに轢かれたり電車に轢かれたりする。無論他のパターンも無いでは無いが、何れにせよ、その人間は周囲の人間からすれば突然いなくなる。

「もしかして、躊躇されてます?」

「しないわけないだろ」

 カミサマ、などと呼ばれても結局俺は人間。人を手にかけることに、何も覚えない筈がない。

 しかもこれは、ゲームとはいいつつも舞台そのものは実際に生きている人々のいるものだ。ゲームのモブや敵キャラみたいにどうにかしてしまう、というのは非常に気が引ける。

 それぞれの生活を垣間覗いてみるが、帰りを待つ家族や仲の良い友人がおり。青春を謳歌していたりする。せめてそんな状況に陥っていないヤツを――と思ったが、そういうヤツに限って魂の移動ができないとなっている。

 ――実は厄介な点として、何故か転生させられない魂が一定数存在する。基準は分からない。ただパターンとして、そういう連中はステータスの確認ができない。その点は既にアクマに聞いているが、『サービス対象外』との事。何かの製品じゃあるまいし。

「いいじゃないですか。死んでも死ぬわけじゃないんですし」

「そいつはホンモノの悪魔の囁きだな……。…………………」

 カミサマならそれくらいの融通利かさせてくれと言いたいが、現状できないものはどうしようもない。あるいは、人生を謳歌して天寿を全うした魂を……。

「ん……?」

 俺はくまなく探して、“彼”に行き着いた。

 その少年は、母親から虐待を受けている8歳の小学生男子だった。滅多に食事も貰えず衰弱しており、タバコの押しつけは日常的。学校に通う事も今ではほぼできていない。

そんな彼は、ボロアパートの一室、部屋の隅で体を丸め、倒れている。その命の灯火は、もう数刻で消える寸前。誰かが何か手を打たない限り、失われてしまうだろう。

「――こういう場面で、丁度良かった、なんてのはあんまり言いたくないんだけどな」

 そうは言いつつも、彼の消失は周囲の人間に与える影響としては、他よりは軽微で済むように俺は思った。顔見知りは少なく、唯一のそんな母の存在は、彼の行方不明を面倒ごとくらいにしか思わないだろう。その世界に、彼の居場所は事実上作られなかったと言える。

 適性を見る。……正直、先ほどまでの候補らと比べれば、あまり期待はできないだろう。

 だが、転生・転移は、記憶を残したまま可能だ。それと周囲の環境を合わせれば、うまく運命を誘導できないだろうか。

「――よし」

 俺は、彼が睡眠に入ったタイミングで転移を始める。――といっても、特別な準備は必要無い。まるで目の前の物体を手で動かすかのごとく、俺はそれを行う事が出来る。

 完了と同時に、ほぼほぼ瞬間移動で、目的の世界のとある場所に少年は移動。ボロアパートの一室からは完全に消失。せいぜい、残っているのは横たわっていた時の体温くらいだろうか。

「(だが、多分これだけじゃ難しいだろうな)」

 一人の人間の存在だけで世界を救えるなどとは、俺は到底思っていない。様子を見つつ、転移、転生を考える必要は出てくるだろう。

 ただその時、今の少年のように状況の合致した者がいるかどうかは定かではない。なぜなら、相変わらず移動できる魂と、できない魂がいるのだ。

 その違いは分からない。ただ一つ確かなのは、場合によっては元の世界での周囲の影響を無視して行使しなければならない可能性がどこかであり得るという事だ。

 ――それなりの頻度で、神様がクソッタレな作品というものは、存在する。ヒトを道具のように扱い、運命を翻弄する連中がそれだ。

 今、俺は凄く“その連中”らしい事をしていると思う。そういう存在にならねば、目的を果たせないのだろうか。

そう思うと、何とも嫌な気分になった。




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