1.
学校の、俺が生徒として居る教室に現れたそいつは、ギャルギャルしかった。
「皆さーん! 今日からこの宇宙一超カワイイなワタシをぉ、よろしくお願いしますネェ~!」
そう言って、教壇の前でダブルピースをしてウィンクを決めてみせる、紺のブレザー制服の少女。ポーズを決める様は陽キャのそれ。
長い銀髪をツーサイドアップにした彼女の瞳は、特徴的なブルーグレイ。耳は明らかに校則違反なピアスでトゲトゲしているのに、教師は何も言わず。そもそも認識をしている様子すら無い。
この違和感と、独特のテンション。俺は、凄く覚えがある。
そう。彼女は、この夢――あるいは仮想現実を管理するエデンズ・アーク。その管理AIご本人様である。
「汝の席は、彼の隣だ」
そうして教師が示したのは、俺の隣――いつの間にか空席になっていた席だった。……元の席に座っていた奴は、教室の後ろの方の新しい席に追いやられている。当人さえ、何か思っている様子は無い。初めから彼は、そこに居たことになっているのだろう。
「カミサマ、よろしくお願いしますネっ」
隣に来て、他の誰にも聞こえない小声で、アクマはそう耳打ちする。俺は、呆れた半笑いで返す他無かった。
――転入生として、俺の前に現れたアクマ。そんな彼女の様子は、それこそごく普通の人間とかわりなかった。
可愛らしい女の子として現れ、社交性もあり明るく、優しい。
強いて言うなら、人生に、まるで苦労したことが無いような。これからも苦労することが無いような、順風満帆を約束された人間を体現したそれは、自らの権能を文字通り好きに使った。それを隠す様子も無い姿をしている事だろうか。
しかし、表面上はそうでも中身は結局ヤツなので……。
「ハイハ~イ! 答えは御成敗式目デス!」
「そりは鎌倉時代の法令ですねェ……」
当てられても無いのに自己主張し始めるとおり。
「ありゃ、間違えちまいましたヨお隣さん! ねえねえ!」
「違うに決まってんだろ、数学の定理の問題だぞ……」
絵に描いたような自由人ムーヴをかまし。
「でも似てません? 日本史と数学って」
「何をどう捉えたらそうなる??」
「ほら、教科書使うじゃないですかァ」
ムカツク屁理屈を飛ばし。
「カレーと焼き肉を同じ料理だから似ているってほざくくらい暴論だぞ」
「カレーは煮てますよネ?」
その姿、まさにやべーやつ。
「横道見つける度に入るな! ほら、先生に睨まれてるじゃねーか!」
てな風に。もう、それはそれはやりたいようにやっていらした。
その上やたらと。俺に、構い倒してくる。にもかかわらず容姿が良くて明るく、しかもあざとさも持ち合わせているためか。
「て、転入生ちゃん、やたらそいつと話すけど――好きなの……?」
こんな風に、男子に好かれるパターンも起こる。
「はい、好きですよ?」
「ががーん!?」
脳破壊もお手の物。
「終わりの無い円周率くらい好きデス!」
「よくわかんないけどムカツク……!」
「…………」
本当に、やりたい放題である。
「ワタシ達の出会いは、ある種ウンメー的なものなんですヨ!」
「運命的って、こいつとは今日会ったばかりじゃ……。え、一目惚れってやつ……?」
「例えて言うなら、80億年と旅をしてきたアイボー感といいますか? アナタのお気持ちは嬉しいんですけど、もう少しエンシューリツになって頂かないとちょっと……」
とまあ、こんな感じで。クラスに一波乱、二波乱は巻き起こしつつ。こいつは今の俺と同じ、高校生となった。
「いやぁ、転校初日からモテてますねぇ、ワタシ。ご覧の通り? ワタシ、超カワイイですからネ?」
「どうせその内飽きられるだろうよ」
「ねぇカミサマ、知ってます? データに軽く細工するだけで、人をヒトに対して簡単に恋愛感情を抱くようにできるんですよぉ」
「おい馬鹿野郎アクマ」
――まあ様子を見る限り、“高校生”を今のこいつは楽しんでいるようで、それ自体にはむしろ良かったなという感情を抱く。まあ、不安や不満を抱いていたとしても俺にそれが見抜けるかどうかは分からないのだが。今更こいつも、俺の前でそれを隠しはすまい。
それでも、俺はこいつの素性も悩みも知っているので、それをわざわざ必要以上に隠す理由は無い筈である。なので、少なくとも今は楽しめているのであろう。
朗らかに笑うアクマ。俺は、好きにしろと言った彼女が何をどうしたいと言い出したのか――それを思い出す。




