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カミサマ始めました  作者: /黒
《第五話》『“この”世界の行方』
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2.

 それは、彼らにとっては全く予想だにしなかった出来事だっただろう。

「――――ッ!? 皆の者、身を守れッ!」

 元魔王ドラグリファは、その場で駐屯地に居る者全てに対し声を張り上げた。同時に、可能な限り広域に、防御魔法を展開する。

 彼は兵士達から状況を常に拾い、勝手に独自行動を始めてしまった現魔王辰昭に変わり、適宜指示を出していた最中だった。運び込まれた負傷者への対応。怪我人の処置。状況への対応策。現場を見て、何が必要かを分析し、事態の収拾に当たっている最中だった。

 そんな時、足下より感じた魔力のざわめき。それが、何の前兆だったか。最初、彼には分からなかった。

魔族に残された最後の大地。魔脈により、魔力の流れが色濃く張り巡らされたこの土地。この魔力の流れが、魔族の生命活動や能力、文明の維持にどれだけ役に立っているのか。それを知らぬ彼ではない。

 そんな、種族にとって無くてはならない、魔力の路。最初に立った細波は、ほんの些細なものだった。

 自然的な魔力の流れに敏感な魔族でさえ、その大半はただの気のせいとも済ませてしまいかねないだろう。しかしドラグリファは、その僅かばかりの波紋に直感的な何かを感じ、即座に対応行動を取った。


 破滅が訪れたのは、その直後の出来事だった。


 爆発。そう形容する他無い、足下からの衝撃。いかに魔力を注ぎ込んだ魔法であっても、これほどの爆発が起こるなどという事は無い。個人が一度に魔法に変換できる魔力の量には限界があるからだ。

 しかしこの爆発は、そんな限界を越えた魔力を破壊に変換したものだった。そして奇しくもそれは、ドラグリファが最後の手段として編み出した最大魔法にとても近いものであった。

 それは、魔族領の大地そのものを媒体とし発動する、究極の破壊魔法。

 魔族は、自らの身体の中で魔法を練り、魔力を変換して魔法へと発現させる。人間は、自身の身体ではできない魔力の練りを、杖などに代替させ魔法を操る。

 謂わばこの魔法は、その媒体をこの大地全てとしたものである。個人では操りきれない量の魔力。ならば、人間の扱う杖に倣い、それを広大な大地に肩代わりさせようという発想の元に生まれた。

 しかし、言うは易し。実際には、その大地全てを自らの身体と同じように把握しきっていなければならない。杖程度の大きさならばともかく、この規模ともなると現実的ではない。

 よってそれは、机上の空論のような魔法だった。それに、一度発動すれば、その規模から魔族の大地の全てが吹き飛ぶ事になる。規模があまりにも大きすぎるが故にコントロールできず、魔力の流れに次々と誘因し、直接爆発するような結果に終始する。

 ――そんな、破壊以外何ももたらさぬ大魔法が、突如として発動した。つまりそれは、魔族領の崩壊を意味していた。

「ぐ、く……げほっ、げほっ――」

 爆発の衝撃で粉塵が上がり、まるで霧の中のような景色の中。ドラグリファは血の味が混ざる咳を発する。

 ドラグリファの防御魔法。そこから展開された障壁は極限まで効率化されており、守る対象への衝撃を最小限になるよう力に指定方向――この場合、誰も居ない上空へと受け流す構造になっている。

 だから、その障壁が届く範囲であれば、それがどれだけ強力な魔法であったとしても、対象への衝撃は大幅に抑えられる。

 しかし。それでも、その結果は凄惨たるものだった。

「汝、無事か……!?」

「まおう、さま…………」

 一番傍に倒れて居た魔王軍の兵士の状態を、ドラグリファはうつ伏せのまま、なんとか上体を起こし確認する。

 重傷だった。魔王渾身の防御魔法であっても、完全に守り切るには至らなかった。手足はあらぬ方向へと曲がり、全身が焼け焦げ。意識ははっきりとしない。

「気を、しっかり持て……! 今治療する……ッ」

「――――――――」

「おい……おい……ッ!」

 兵士は、事切れていた。

 半開きの口。薄く開いたままの虚ろな瞳。呼吸は止まり、ドラグリファへの呼びかけに、残る全ての力を使い切ってしまったらしかった。

「くっ……」

 無念に嘆いている時ではない。一刻も早く、状況を確認せねばと。自らのボロボロな肉体に動けるだけの最小限の治療魔法を施し、立ち上がる。

 ドラグリファは、魔力探知を働かせる。それを用い、生存者をまずは探す。

 ――同時に、足下の状況も理解する。この大地の下を流れていた魔力。その大半が枯渇している。

 言うまでも無くそれは、先の大破壊のせいだろう。何かの災害か。あるいは、何者かの仕業か。何れにせよ、地下に流れる魔力の大半が、今の爆発に変換されたといっても過言ではない。

 そして、それは同時に。この大惨事が、今自分が居る場所だけの話ではないという仮説も成り立った。

 この魔法は、指向性を持った魔力が、同じ流れの中にある魔力を爆発のエネルギーに変えていくもの。即ち、魔脈そのものが爆発する魔法なのだ。

 魔族の人々の住まう村が。街が。その全てが、恐らく吹き飛ばされたのだろう。場所によって流れの太さに差はあるものの、その全土に大なり小なりの魔力が流れている。少し揺れただけで済んだ場所は一つも無いに違いない。

 ドラグリファは、それを理解した時、気がおかしくなりそうだった。自分が守ってきた、守ろうとしてきた魔族が、今の一瞬で全て灰と化したかもしれない。ただただ精神の崩壊に身を任せ、叫びたかった。

 だが、自分は仮にも魔族を纏めてきた者。自分だけは、そうなってはならぬと心を強く持ち、無事な者を探す。――この後の事は、考えないことにした。


                   ◆


 カミサマTVにも、アクマTVにも。この世の終わりのような光景が、映し出されていた。

 滅茶苦茶になった大地。土砂に埋もれる全て。流れから外れ溢れる溶岩。天変地異より荒れる天候。人々の住んでいた家屋は地に埋まり、あの雄大な魔王城は大半を崩壊させ、残る部分も傾いた墓標のように見る影もない。

「なにも――」

 俺は立ち上がり、アクマの胸ぐらを掴み上げる。

「おおうっ!?」

「なにもここまでやらなくてもいいだろッ!?」

 どこか陰鬱で、いかにも魔族らしく。しかし、それでも懸命に生きていた彼らの住んでいた場所。それは、ただの一瞬にして死の大地へと変わってしまっていた。

 今ので、一体どれ程の者達が命を落としたのだろう。それを思うと、俺はまともに呼吸もままならないほどに、怒りがこみ上げてくる。

「れーせーに、れーせーになりましょーよ! 女の子の胸ぐらを掴んじゃマズいですって!」

「そんなもの関係あるか! お前、何したか分かってんのか!?」

 対し。飄々とした態度を崩さないアクマ。このような大惨事を引き起こしてなお、普段と大して変わらない彼女の様子に、俺はさらに頭に血を上らせる。

 ――しかしそんな俺を見ても。アクマは態度を変えない。そればかりか、むしろ理不尽に怒られているといった、困惑した表情を見せる。

「分かってますよぉ。ちょっと魔脈に着火して、大半を吹き飛ばしただけですってば」

「“だけ”、だと……? それで大勢死んだんだぞ!? この世界も数ある世界のうちの一つだって、お前言ったよな!?」

「言いましたけど、それがどうしたって言うんですかぁ……!? 死んだって、この世界から他の世界に転生するだけですよぉ……?」

 根本的な精神性の違い、とでもいうのだろうか。アクマは、俺の言ったことをまるで理解している様子がなかった。何が問題なのか、まるで分かっている様子がない。

「だいたい、そもそもが生きているのか死んでいるのか、客観的視点で見れば曖昧なんですよ? それに比べたら、一つの世界での生き死になんて、大した問題じゃないですってば!」

「何……?」

 アクマが、また意味の分からない屁理屈を、こねているのかと思った。そうやって、俺の事を煙に巻こうとしているのかと、そう思った。しかし、俺の手が一瞬緩む。

 しかし、何故だろうか。俺は、何故かそれを、心のどこかにすとんと着地させる事ができた。未だ状況に納得はいっていない。それは間違い無い。その筈なのに。

 ――手元が緩んだ隙に、アクマがそこからするりと抜け出す。

「あー……今のは忘れてください。思わず要らない事言っちゃいました」

「忘れろ、って――要らない事を言ったって、どう言う事だよ……?」

 俺の心理に影がさす。どう聞いても意味不明の世迷い言の類いでしかないのに、妙に引っかかって仕方ない。

 それは――“カミサマ”としての直感に、奇妙な引っかかり方をしていた。

「だーかーらー、忘れてくださいって言ったじゃないですか! それよりほら、すぐに状況がワタシの思惑の方向に動――……うぇえぇっ!?」

 アクマTVへと目をやったアクマが、素っ頓狂な声を上げる。

「い、いきとる……」

 画面に映し出されているのは、三人の人物だった。

 突如発生した、魔脈よりの爆発。彼女らも例外なく巻き込まれ、身体が消し飛ぶような衝撃を、まともに受けたはずであった。

「創世神の杖のおかげか……?」

 いや、そんな筈は無いと、俺は思った。わざわざ周囲の認識をいじくり、ティカに抜かせた、急創の聖剣。それは確かに、強い力を秘めた剣だった。魔を裂く力を持たせた、一種の世界介入の力を持つ剣である。

 しかし、それでもここまでの強力な爆発を、俺は想定してそれを持たせてはいなかった。アクマには隠しておくが、限界の存在する剣の筈である。

 にも、かかわらず。その剣は、輝いていた。そして、その輝きをもって、守っていた。

 三人の少女を。ティカ、リディム、そして、シィ。その三人を。



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