兵器開発
「…次の受験者を」
扉が開く。
試験官たちは、入ってきた私を見て困惑した。
「…君は何歳かね」
「5歳です」
部屋に沈黙が流れる。確かに、候補生学校には小学生ほどの学生もいるが、未就学児が入学する前例はない。試験官が困惑するのもしょうがない。
中央に座る試験官が咳払いをすると、穏やかな口調で尋ねた。
「坊や、ここが何の学校か分かってきたのかね」
「魔術軍人候補生学校です」
「では、君は軍人になりたいと?その年齢で?」
「その通りです」
再び沈黙が流れる。
「では、軍人になりたい理由を教えてもらおうか」
私は、一瞬だけ目を伏せ、静かに答えた。
「私の日常を奪った、敵国であるハスラーン共和国を亡ぼしたいからです」
中央に座る試験官は、にやりと不敵な笑みを浮かべて答えた。
「君ほど憎しみのこもった目をする子は初めて見たよ。君に試験を受験する資格を与えよう」
「しかし、彼はまだ5歳で、前例はありません!」
他の試験官が強い口調で言う。
「だから何だと言うんだね。やる気のある人間は年齢性別問わず受け入れる。使えるものはなんだって使う。それが我が軍の方針ではないのかね」
どうやら、中央に座っている試験官がこの中で一番権力を持っているらしい。
「とりあえず、今週末に入学試験がある。といっても、簡単な体力と魔力検査、そして、知能テストだ。受験する気があるなら、それまで寄宿舎に泊まっていきなさい」
入学試験を受ける資格を手にした私は、寄宿舎へ向かい試験に備えた。
--- 1週間後 ---
私は入学試験を受けた。魔力検査は、父の遺伝もあってかそれなりに良い結果であった。体力検査は、年齢もあってまずまずだったが、特に優れていたのは知能テストの結果であった。私は知能テストで、5歳ながらに歴代最高成績を収めた。
知能テストの内容は、現代日本の簡単な高校数学、物理、化学、に似たものであった。しかし、これでも帝国屈指の難易度であるらしい。数学は簡単な四則演算と図形問題、方程式、そして、参考書の導入にあるような微分積分の問題であった。しかし、ほとんどの受験生は、方程式の部分で解答を辞めてしまうらしい。
というのも、微積分は最近になって発見された計算手法で、この存在を知っている人間は一握りである。表記の仕方に違いはあれど、日本の教育を受けた私にとっては、赤子の手を捻るよりも簡単な問題であった。
試験官の勧めもあり、私は魔術技官のコースに特待生として入学した。
魔術技官コースの1日は、午前6時に起床し1時間のランニング、朝食を摂った後に8時から12時まで座学、午後は魔術の戦闘訓練、それが終わると1時間のランニング、とっいったものだった。なかなかハードではあるが、どれも優秀な結果を取り続けた。
魔術技官コースの年齢層は高く、みな16歳前後であった。そんな中、背の低い5歳の私がいるのだから異様な光景である。
魔術軍人のコースは各地の優秀な子供が集まっているため、技官コースに比べ年齢層は低かった。とはいっても、ほとんどが13歳以上であったが。
この国の士官学校の面白い点は、年齢によって在学する年数が変化することだ。どのコースも、16歳以上が4年の在学、それ以下が5年以上の在学である。若くして入学した人間は士官学校での高度な教育と訓練を受け、より優秀な軍人を育成しようとする姿勢が見えた。
私は年齢もあって、10年の在学となった。
私の父親は魔術軍人コースで教鞭をとっているといっていたが、その姿はなかった。噂によると、戦地に赴いているとのことだ。さすが帝国、使える人間は誰でも使うのだ。
私が士官学校に入学してから7年が過ぎた。私は12歳となり、技官コースでは古株となった。とはいっても、新たに入学してくる学生は皆、私より4つほど年上であるが。
士官学校の規律は厳しく、年齢問わず在学年数が長い学生が上官となる。しかし、魔術技官コースは魔術軍人コースよりも”しごき”といったものは少なく、比較的穏やかであった。
ある日、私は教官室へ呼び出しを受けた。いつものように成績優秀者の表彰かと思っていたが、私の予想は外れた。
そこには、面接を受けた際の試験官がいた。
「バルドルト・シュタイナー曹長、君に話があって来たんだ」
「話というのは?」
「君が入学してから、常に座学の成績優秀者を保ち続けているのはうわさに聞いているよ。そんな君に、早期卒業をさせてはどうかといった話があってね」
これは驚いた。規律に厳しい軍が特例を設けるなんて聞いたことがない。
「早期卒業ですか。とてもありがたいお言葉です。ですが、私はまだ12歳です。未熟な私が戦地に赴くのは許されるのでしょうか」
「いや、君には国境付近にある兵器開発部門に行ってもらおうと思っていてね。そこで、強力な兵器の研究を行ってもらいたいんだ。悪い話ではないと思うが、どうかね」
確かに悪くない話だ。12歳で3等尉となると、給料も変わる。何より、憎き敵国に一泡吹かすチャンスである。
私は2つ返事で早期卒業を了承し、その月に卒業手続きを終え、兵器開発部門へ歩みを進めた。
兵器開発部門では、研究施設での兵器開発がメインだが、戦地での実証実験も行っている。そのため、研究職といえども死と隣り合わせの環境であった。この研究所は国境付近のフェルグラードという平原地帯に場所にあり、国境を接するコル連邦共和国とは日々争いが絶えない。研究所にいても、爆発の音が聞こえるくらいだ。
魔術を用いた戦争では、魔銃といわれる、魔力を圧縮して放出する武器が主に使われている。魔銃には魔力を増幅するクリスタルが装着され、そこに魔力を込めることで、高いエネルギーを得ることができる。そのエネルギーを物質に変換し、それを敵に向け発射する。そのため、銃弾といったものは存在しないのだ。また、それを大型化した魔力大砲、増幅魔力で得たエネルギーによって浮遊する魔力ウイングスーツなど、他にも様々なものが生み出されている。
私の兵器開発部門での最初の仕事は、魔銃の高出力化の研究であった。クリスタルで魔力を増幅するといっても、魔力容量には限界がある。そこで、私は魔力容量の増設を任された。
魔力は電気に似ており、抵抗や電圧、電流のようなものが存在する。私は、魔力タンクの並列化を考えた。これはコンデンサのように、並列に接続することで魔力容量が増えるといった仕組みである。といっても、タンクを並列化すると重量が増すため、タンクの軽量化も同時並行で進めた。タンクの軽量化については、すでにその研究をしている人間の論文を参考にさせてもらった。
現行の魔銃の魔力タンクは、合金鋼のようなものが使われている。確かに、合金鋼は熱に強く強靭で、重量はあるものの、タンクとして適している。しかし、これでは並列化すると重量が増大する。そのため、論文に書かれた、クリスタル合金を用いることにした。
クリスタルは不思議な物質で、高いエネルギーを持つにも関わらず、軽量である。また、熱にも強く、その辺の兵器では破壊できない強靭さも兼ね備えている。そのため、私は合金鋼にクリスタルを混ぜた、クリスタル合金タンクを開発した。
これは、外付けのクリスタルによって増幅された魔力が、タンク内でも増幅される。それが6つ並列化されるのだから、今までとはくらべものにならない高出力を得ることができる。
半年の試行錯誤を経て、ついに新たな魔銃の開発に成功した。その話を聞きつけた上層部は、実践投入実験を命じた。
研究所での実験は必要ないのかと思うこともあったが、上層部からの命令には背けない。
私は、初の戦場へ赴いた。




