消えた日常
ぽたっ。
冷たい水滴が頬に落ちる。
ゆっくり目を開けると、洞穴の天井から水が滴っていた。
(頭が痛い。)
体中が土まみれだった。
バルドルトは頭から血を流しながら立ち上がる。
「何が……起きた……?」
頭がズキズキする。とりあえず、洞穴から出よう。
彼は痛む頭を抱えながら、ゆっくりと洞穴から出た。
そこで、彼は言葉を失った。
街が、ない…
さっきまでの街の喧騒はどこへ行ったのか。街は黒く焼け焦げ、家々からはごうごうと炎が燃え上がっていた。
煙が立ち上がり、鼻を突く焦げ臭さ。あちこちに転がる瓦礫。
そして
人だったもの。
「…そんな」
足が震え、涙が流れる。
「フェア!みんな!」
彼は必死にフェアたちを探しに、丘の上まで駆け上がった。
燃える林、ばらばらになったベンチ。
そして、そのベンチの横には、一緒にフェアを探していた友達の頭が、燃えながら転がっていた。
「っっっっっっっ!」
彼は嘔吐した。
焦げた街の匂いと燃えた人体の匂い、そして、吐瀉物の匂いが混じり合う。
よろめきながらも空を見上げると、そこには浮遊しながら杖を振る複数人の魔術師らしき人間が見えた。
「もしかして、魔法…?」
理解した瞬間、2発目の爆発が町を飲み込んだ。
轟音。熱風。
そして、彼の日常は、その日を境に跡形もなく消え去った。
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私は騒がしい声で目を覚ました。天井は布でできており、テントのようだ。泣き声や怒号がテント内に響き渡る。
痛む体を起こすと、私の脚には包帯が巻かれていることに気づいた。
隣には別の負傷者を治療する医師。そうか、ここは難民キャンプのようなものなのか。
そう思ったのも束の間、人が焼けるツンとした臭いが鼻を刺す。
「っっっっっっっっっ!」
私は地面に嘔吐した。その音で看護師らしき女性がこちらに寄って来た。
「よかった。何とか意識を取り戻したのね。自分の名前は分かる?」
「えっと、僕の名前は…バルドルトです…」
「バルドルト君ね。ありがとう。吐いたばかりで気分は悪いだろうけど、とりあえず別の場所に移動しようか」
私は看護師に連れられてテントを出ていく。テント内には腕や足、目の無い負傷者であふれており、全身に火傷を負ったまま死んでいる人もいた。
キャンプ内の臭いに気分が悪くなりつつ、私は外へ出た。
外はまったく知らない平原が広がり、灰の混じった雨がぽつぽつと降っていた。遠くを見ると、大きな城壁。その向こうでは黒煙が上がっていた。
看護師は言った。
「何が起きたか分からないだろうけど、今はとにかく別のテントで休んでいてね。あなたのテントは20番だから、この札を持って自分のテントに行きなさい。」
看護師から20と書かれた木の札を受け取った。目の前には53と書かれたテントがあり、左右に多くのテントが広がっていた。
20番テントに入ると、大剣を持った戦士らしき男がいた。
「坊主、木札は持っているか。」
私は何も言わずにそれを渡す。
「名前は何ていうんだ」
「バルドルト・シュタイナーです」
「そうか。ちょっと待てよ」
男は本のようなものを取り出し、私の名前を書いた。
「よし、お前の部屋は突き当りを右だ。今日からそこで生活してもらう」
私は自分の部屋に入った。部屋は狭く、床に置かれた寝袋と小さな籠があった。籠の中にはコップと歯ブラシと白いタオル、そして鉄製の平皿があった。
父親と母親は大丈夫だろうか。父親はともかく、母親は家にいたのだから、無事ではないかもしれない。
母親を探しに行きたい気持ちでいっぱいだが、包帯に巻かれた足が痛む。ふと足を見ると、包帯から血が滲んでいた。これでは探そうにも探しに行けない。私は、痛む足を引きずりながら、先ほどの男に尋ねた。
「ママは、リーベンは無事なんですか!」
「リーベンってのは、坊主の母親か。」
男はいくつかの本を取り出し、名前を調べる。
「少なくとも、1番から25番キャンプには、リーベンって名前の女はいないな。申し訳ないが、他のキャンプの奴にも聞いてみてくれ」
「そうですか。ありあとうございます…」
絶望しながら部屋に戻る。足が痛み、その場に倒れる。痛みなのか絶望なのか、よくわからない涙がこぼれた。
日も暮れ、私の部屋には硬いパンとぬるいスープ、そして水が置かれた。しかし、このような状況で食事などできない。水すら飲まず、私は眠りについた。




