閃光と轟音
私は母親から、父親の昔話を聞いた。とはいっても、私は2歳なので、父親の戦争での活躍についてが主であった。敵国の旅団を一人で壊滅させた話、傭兵ながらに国から勲章を貰った話、大規模な干ばつの際に、魔術で雨を降らして飢饉を救った話など、もっと簡単な言葉で説明されたが、大まかにまとめるとこんな感じだ。
母親から父親の話を聞いていると、玄関の扉が開いた。父親が帰ってきたのだ。私たちは父親を笑顔で出迎える。
父親は笑顔で立っていた。しかし、彼の眼の奥はあまり笑っていなかった。
母親はそれに気づいていないのか、いつものように夕食の準備をした。父親が風呂から出たあと、皆で食卓を囲んだ。いつもより父親の口数が少なかった。さすがに母親も何かに気づいたのか、何があったのかやんわりと聞いた。
「なにかあったの?」
「特に何もないさ。ただ、軍から手紙が届いたんだ。よかったら魔術士官として勤務しないかってね。」
「…それは、戦争に行くわけではないの?」
母親が恐る恐る聞いた。
「ああ、魔術士官候補生学校で士官として働くだけさ。新兵教育だね」
「それならよかった。それで、お誘いには乗るの?」
「まあ、せっかくの誘いだし、士官としてなら安全な後方勤務だから、受けてもいいかなって思っているよ」
親は少し考えたのち、口を開いた。
「…ケガだけはしないでね。この子もまだまだ小さいんだから」
父親は何も言わず、笑顔でうなずいた。
---数日後---
父親は学校へ出発した。ここから歩いて3日ほどかかるところに学校は存在しており、なかなか家には帰ってこれないらしい。帰ってきても、月に1日程度である。私と母親は、彼の背中が見えなくなるまで手を振っていた。
父親が出発してから3年が過ぎた。私はこの世界の言葉にも慣れ、魔術という非科学的な存在にも適応し、とてもおしゃべりな子になっていた。思考は24歳だが、体は5歳児であるため、年相応の遊びが楽しく感じた。やはり脳は5歳児なのだ。
最近は公園でフェアたちと遊んでいる。フェアは私と同じ5歳だが、簡単な魔術なら使えるのだ。なんでも、父親が教育熱心で、夜はいつも魔術の特訓をしているらしい。
「フェアってどんな魔術が使えるの?」
「んー、風魔術と水魔術は使えるよ。パパに教えてもらったんだ」
「いいなー、僕も教えてもらいたいよ」
「全然よくないよ。だって僕のパパ、怒ると怖いんだもん。こんな簡単な魔術も使えないのか―って、すっごい大きな声で怒るんだ」
なるほど、フェアの父親は結構な教育パパなのか。それもちょっと嫌だな。
そんなことを考えていると、フェアが言った。
「あ!もうそろそろ帰らないといけない時間だ!今日もみんなでかけっこして帰ろうよ!」
私たちは毎日かけっこをして家に帰るのだが、フェアはズルをして、風魔術を使い一人だけ早く走って帰るのだ。ただでさえ足の速いフェアなのに、魔術を使われては勝ち目がない。私は必死に食らいつこうとしたが、全く追いつけなかった。
「フェア、明日は絶対負けないからねー!」
「僕こそ負けないさ!」
私とフェアは市場の近くの噴水前で別れた。
家に帰り、今日起きたことを母親に話す。母親は笑いながら私の話を聞いてくれた。
「ママ!今日もフェアにかけっこで勝てなかった!」
「そっかー、今日も負けちゃったのか。明日は勝たないとね」
「絶対勝てっこないよ。だってフェアってずるいんだよ。一人だけ魔術を使って走るんだ。ねえママ、僕にも魔術を教えてくれない?」
私もフェアのように魔術を使ってみたいと思っていた。しかし母は言った。
「バルドにはまだ早いわよ。もっと大きくなって、優しい子になったら教えてあげるかな」
「えー、僕とママとの約束だよ!」
そんな会話をしていると、手紙が届いた。差出人は父からであった。
父親の魔術学校での仕事は忙しいらしく、なかなか家に帰ってこれていない。その代わりなのだろうか、毎週父親から手紙が届くのだ。手紙は、妻と子供への愛の言葉から始まり、最近の父親の生活が書かれていた。最近はひげを剃る暇がないらしく、次会うときに見せてくれるらしい。どれだけ長くなっているのか楽しみだ。
父親に会えないのは寂しいが、毎日は充実していた。こんな毎日が一生続くといいなと思いながら、眠りについた。
次の日も昼過ぎに公園へ行った。今日はどうやってかけっこに勝とうか、足でもひっかけてやろうかな、など浅ましいことを考えていると、私と同じように公園へ行くフェアと他の友達の姿が見えた。私は彼らのもとへはしいて行く。
「今日は何する?」
私はフェアに言った。
「じゃあ今日はかくれんぼをしようよ。みんなで僕を探して、僕を見つけることができたら魔術を使わずにかけっこしてあげる」
なんて生意気なやつだ。だが、フェアに勝てるチャンスだ。今日こそは絶対に勝ちたい。他のみんなもそんな思いだったのか、フェアだけが隠れる ”逆かくれんぼ” に賛成した。
私たちが30秒ほど数えている間にフェアは隠れた。15分ほど探してみたものの、フェアは見つからない。
「もうわからないから降参しようよー!」
誰かがそう叫んだとき、私は丘を少し下った先に、洞穴のようなものを見つけた。
私以外の友達は、まだ公園の林を探している。そんな中で、暗い洞穴に一人で入るのは少し怖い。でも、今日はフェアに勝ちたい。
その一心で、私は勇気を出して洞穴に入った。
「フェアー、ここにいるんでしょー?」
洞穴の中で叫んでみるが返事がない。奥に進んでみたが、誰もいなかった。
「あーあ、今日も僕たちの負けじゃん」
そう呟いて、後ろを振り向いた。その瞬間、強い光が洞窟を照らした。
っっっっっっっっっっ!!
眩しくて目が開けられない。それになんだか熱い。
光に続いて、耳が張り裂けるような轟音が鳴り響いた。
風が洞穴に吹き付け、私は奥にある岩まで吹き飛ばされた。
(何…これ…)
何が起きたのかわからないまま、私は意識を失った。




