過ぎたる力
多層に連なった魔法陣が展開され、眩い閃光が走る。戦車は轟音を轟かせ、立つのがやっとのような風が吹く。
閃光により白飛びしていた視界が徐々に見えるようになる。土煙が消え、そこに広がっていたのは、魔弾により赤くなった地面と、直径30メートル、深さ5メートルほどの大きなクレーターであった。
私は興奮し、歓声を上げた。しかし、周りの研究者達は呆然としていた。
実験の後、私は報告書を書き、上層部へ送付した。返事が返ってきたのは2日後であった。そこには、
『明日、参謀副部長を研究所へ派遣する』
の文字だけであった。
なぜだ?あれほど高威力の戦車を完成させたというのに、労いの言葉の一つもない。
参謀副部長がわざわざ研究所へ来るということは、何か重大な問題でもあったのだろうか。
……まさか、予算を使いすぎたことを咎められるのか。
そんなことを考えながら翌日を迎えた。
研究所へ現れた参謀副部長は、実験場に残る巨大なクレーターを一瞥すると、小さくため息をついた。
「少尉」
「はい」
「貴官には、機動力を向上させるもの開発しろと命じたはずだ」
「そのとおりです」
「では、このクレーターを見て何か思わないのか。」
私は言葉に詰まった。
「……攻撃力は十分かと」
副部長は首を横に振る。
「十分ではない。過剰だ。」
彼はクレーターの縁に立ち、静かに続けた。
「貴官は戦車を作ったのではない」
「戦場の常識を破壊する兵器を作ったのだ」
「もし敵がこれを鹵獲したらどうなる」
「もし量産されたら、戦争はどう変わる」
「……その先まで、考えたことはあるか」
私は何も言えなかった。兵器の高威力化を求める余り、戦場を考えることを忘れていた。
副部長は言った。
「貴官の開発したヘキサ・マギー・パンツァー零式は、現時点での配備を認めない」
私は思わず顔を上げた。
「……なぜでしょうか。」
「理由は単純だ。強力すぎる」
参謀副部長は机上の報告書を軽く叩いた。
「この一両は、敵陣地を突破する兵器ではない。都市一つを焦土と化しかねない戦略兵器だ。このような兵器を平時から前線へ配備すれば、敵国は必ず同等以上の兵器を開発する。軍拡競争の引き金となり、戦争はさらに激化するだろう」
「よって、本車両の配備は、帝国が存亡の危機に瀕した場合に限り許可する」
私は複雑な思いで敬礼した。
「……はっ」
「その代わりだ」
副部長は別の書類を差し出した。
「以前、貴官が提出した試作車両については、量産型として採用する」
「これより、参謀本部と協力し、制式配備の準備を進めよ」
副部長が去った後、私は深く息を吐いた。
首の皮一枚、繋がった。
も
し開発計画が却下されていれば、私は軍技術者としての立場を失っていただろう。それだけでは済まない。軍の機密情報を知る者として、生涯を監視下に置かれるか、最悪の場合、口封じのために消されてもおかしくはない。
……確かに、私はやりすぎた。
この世界には、まだ産業革命すら訪れていない。蒸気機関さえ実用化されていないというのに、私は内燃機関を搭載した戦車を生み出してしまった。
本来なら、この時代の技術では実現できるはずのない兵器だ。魔術による精錬技術という、この世界ならではの恩恵がなければ完成は不可能だっただろう。
技術は、一足飛びに進歩させるものではない。
世界には、その技術を受け入れるだけの土台が必要だ。
これからは兵器だけではない。人々の暮らしを豊かにする技術にも力を注ごう。
魔術が支配するこの世界に、科学という新たな可能性を根付かせるために。
私は、そう心に誓った。




