魔道戦車
参謀本部からの命令が出て5カ月が過ぎた。なんとか戦車の設計は終わったのだが、自分が満足できる結果ではなかった。
戦車の駆動には、発散型クリスタルと呼ばれるクリスタル燃料を用いた。砲塔部分は、魔銃を大型化したものだ。もちろん、試作機での性能は十分なものであった。しかし、私の中では納得の行く出来ではなかった。
もっと軽く、もっと丈夫で、もっと威力のある戦車を作りたい。しかし、今の私の知識ではこれが限界だった。
「最近は思い詰め過ぎているな。たまには息抜きでもするか」
私は研究所の近くにある平原へ足を運んだ。
そこは2年前まで魔弾の飛び交う戦地であったが、キリングベルグの占領以降、草花の生い茂る平原となっていた。
こんなに穏やかな陽を感じたのは、まだ小さい頃、フェア達と公園で遊んでいた時以来だ。
私は芝生の上に寝転がり、流れ行く雲を眺めながら考える。
(フェアたちは、苦しまずに死ねたのだろうか)
公園で遊んでいたみんなは、あの時の襲撃で体が四方八方に飛び散っていた。その中でもフェアは、跡形もなく消えていたのだ。
私は兵器の開発をしているが、やはり人の苦しむ姿を見るのは辛い。もし死ぬのなら、苦しまずに楽に死にたい。誰もがそう考えるはずだ。
(どうせ死ぬなら楽な死を。これをスローガンに、兵器開発に尽力したいものだ)
そんなことを考えていると、うっすらと眠くなってきた。
最近は外に出ることもなく、常に研究をしている。そのため、この陽気に当てられて、うとうとしてきた。私は気を失うように眠ってしまった。
『ブーン…』
私は何かの羽音で目を覚ました。陽は傾き、きれいな夕焼け空である。
鼻には、働き疲れたミツバチが休むように止まっていた。
(そういえば、こっちの世界に来てからハチミツを食べていないな…)
そんなことを考えていると、強い風が吹いた。
ミツバチが風と去った瞬間、閃いた。
「そうだ、ハニカム構造だ」
風が吹き抜けるように、そのアイデアは鮮やかに頭をよぎった。
研究所に戻った私は、戦車の図面と魔法陣の図面を開いた。
多層魔法陣は、4層目から魔力漏れが生じる。これは、1層に1つの魔法陣が描かれているからであり、3層目で増幅された強大な魔力は、4層目の魔法陣では支えきれずに崩壊し、発散してしまうのだ。勿論、複数の魔法陣を1層に集約するのは考えていが、どの案も増幅された魔力を支えることはできなかった。
だが、複数の魔法陣を全て正六角形とし、ハニカム構造の魔法陣を作れば、各魔法陣に加わる力を周囲に分散でき、魔法陣の崩壊は避けられる。
そして、このハニカム構造を戦車全体に用いるのだ。
車体フレームには正六角形を切り出した軽量合金を用い、駆動エンジンと魔力タンクには、ハニカム型多層魔法陣を設置する。
これにより、高い防御性能と馬力を手に入れ、高出力な魔弾を射出することができるはずだ。
この閃きから1ヶ月後、毎日の睡眠時間を削り、急ピッチで試作機を製作した。異例のスピードであったため、軍需工場の職員には相当恨まれているだろう。本当に申し訳ない。
私は、この魔道戦車を、
『ヘキサ・マギー・パンツァー零式』
と名付けた。単純ではあるが、かっこいい名だ。
今日は研究所での公開実験の日である。私は歩兵と一緒に戦車に入り、魔道エンジンを駆動した。
ギュルギュルとエンジンの音が鳴り響く。
魔道エンジンは、魔力を燃料とした内燃機関である。魔力を注入するシリンダには、魔力を燃焼させ気化させる特殊クリスタルを装着してある。これは一般的なガソリン内燃機関でいう、点火プラグのようなものだ。
私はアクセルを踏み込み、ハンドルを切る。
ガタガタと揺れながら、研究所の敷地内を走る戦車。他の研究者たちは歓声を上げながらその様子を見守っている。
敷地内に設置された攻撃目標を見つけ、戦車を停め、目標に標準を合わせた。
弾道を計算し、魔力を込める。魔力タンク内に、魔法陣が魔力を増幅する音が響く。
魔力の充填が完了し、私は戦車から出て、エンジン音にかき消されないよう、大きな声で言う。
「諸君!本日は、私が開発した『ヘキサ・マギー・パンツァー零式戦車』の公開実験にお集まりいただき、感謝する!前置きは不要だろう!諸君が最も知りたいのは、その性能だ!」
周りからは歓声が上がる。私は続けた。
「これより、攻撃性能試験を開始する!」
戦車に乗り込み、歩兵へ指示を出す。
「よーーーい…て!」
合図と同時に歩兵が発射のレバーを引いた。
砲身の先には、複数の魔法陣が層をなして広がり、少し遅れて魔弾が発射された。
「なんてことだ…」
ある研究者は、目の前に広がる景色を見て、そう呟いた。




