第9話 レコンの戦い
巨大な爆発で歩兵が薙ぎ払われた。サムが囮として出るほんの数秒前だった。
「なんだ!?」
土は堀下がり、石は吹き飛び、壁は存在ごと消え凹んでしまった。普通の兵器の火力ではない。重砲でもないだろう。
「敵はⅢ号…だけじゃない!」
<偵察兵を前に>
生き残りの偵察兵を匍匐で進ませ、双眼鏡を覗く。僕はコクピットを開け兵士と話した。
「どう?」
「デカい奴が1機!だがよく見えん!」
「こうなったら直接見るしかない」
<俺が見る>
カメラだけが見えるよう頭を少しだけ出して先を見た。見えるのは同じ固定砲塔の色を持つ機体だ。だが、車高の高さも主砲も違う。そして何よりかなりの大型だ。
<なんじゃあありゃあ!?>
ドゴォンと轟音を放ち、サムのシャーマンの頭部を破裂させた。サムからの返事はなく、そのままは倒れてしまっている。さらには僕のシャーマンの砲旋回装置と砲身もイカれてしまった。
「大口径だ!」
1つ思い出した。こちら側で噂をされていた新型の突撃砲の名前を。
「ブルムベア…」
Ⅳ号突撃戦者ブルムベア。1943年、東部戦線において市街地戦突破用として開発された機体である。150ミリ砲を搭載し、正面は100ミリの傾斜装甲で守られている。なお、ブルムベアという名称は正式名称ではなく連合国軍がつけた渾名である。名称については様々な説あり。
迂回するのがベストな手段だが、この被害で迂回しても、このブルムベアらをさらに奥へ連れ込ませるだけだろう。
1つ、アイデアが閃いた。
「…サムをコクピットから出して」
無人となったシャーマンを僕は持ち上げ、助走をつけシャーマンを投げつけた。シャーマンのエンジンからオイルが垂れている。空中に舞うシャーマンは分解されつつも森の木々を分け転がった。
「今だ!撃ちまくれ!」
歩兵の機関銃から放たれる曳光弾が、投げられたシャーマンから漏れたオイルに触れ引火。森は火に包まれ視界を妨害した。同時にブルムベアから砲弾が発射される。
「逃げろ!」
巨大な爆発にレコンの部隊は巻き込まれるが、直前の回避行動で怪我人はある程度抑えられた。だが、レコンのシャーマンは故障していた。ビッグガンは無くし、右腕は鉄骨やコードが見えている。しかしながら、レコンはこう発す。
「今のうちに進もう」
「待ってくれ!怪我人が多すぎる。これ以上は進めない!」
その言葉に虫唾が走った。
「1人でもナチスを殺すんだよ!あのブルムベアなんて脅威の中の脅威だ!」
「理解はできるが仲間の命が最優先だ!中隊長は帰投を命じている!」
「…なら、僕1人で行く」
「お、おい!」
操縦レバーを動かし、僕はそのまま奥へ向かった。
「中隊長…どうしますか?」
「勝手にさせておけ。司令官にも話すんじゃないぞ。俺に責任が回ってくる」
「戦死判定にさせると?」
「戦場で個人の感情とモラルを出せば死ぬ。生きるには自分を殺せ」
進み続けた先には、エンジンから煙を吐いて停止していたブルムベアが居た。故障し放棄したのだろう。
「まだ先にドイツ兵がいるはずだ…」
緊急事のコクピット射撃に切り替えるために、コクピット内部の天井扉を開き、梯子を伝い、頭部に搭載されている副武装であるM2重機関銃を慎重に持って中に入った。内部に繋がれた銃架に吊り下げ、薬莢キャッチャーを排莢口に繋ぐ。コクピットハッチを開け、視界を確保。これが緊急事に行うコクピット射撃と呼ばれる技だ。だが、開放したことで体は晒されてしまう。その上、僕は孤立状態。ある程度は自分で偵察をしなくてはならない。
燃やされた森に姿を隠し、シャーマンから降りた僕は、しばらく先に歩き続けた。その先に待ち受けていたのはドイツ兵士たち。ざっと200人以上。中隊規模だ。対戦車砲を搭載した装甲車までもついていた。
「Gloria, Gloria. Sieg Heil. Sieg Heil. Viktoria. Sieg Heil. Viktoria」
軍歌を口遊みながら行進し、シャーマンの方へ向かっている。
即急にコクピットに戻りシャーマンを動かす。
「皆殺しだ…殺してやる!」
木々を破壊しドイツ兵の目の前に登場。装甲車を踏み潰し、機関銃を撃ちまくる。
パンツァーファウストの弾頭が左肩に命中。さらには胴体にも命中し火花が散った。
「今度はこっちか!」
激しい弾丸とロケット弾頭が飛び交いつつも動くことはやめない。あまりの多さに気が狂いそうになる…わけではない。むしろ、レコンは歓喜をあげていた。1人でも多くのナチスを殺してやると。窮地だろう止めることは知らずに戦い続け、人が消える頃には太陽は夕日へ走っていた。
「…やっと終えた…」
シャーマンは限界に近かった。動けないわけではないが、武装は尽きかけている状態で、M2重機関銃も弾切れ寸前。唯一残っているのはクローラーソードのみだ。そして、レコンからは少ないものの血が止まらない。ついにレコンはドイツ軍の死体を漁り手当てをしつつ、薬物を使用してしまう。
「…まだ進める…進まなきゃ…」
バルバラ線
ドイツ軍前哨基地
同 倉庫
「どうだ!直せそうか!」
1人の将校が整備兵に尋ねた。
「主砲はPak 40に変更しました。他の箇所は壊れた機体から集めたパーツを修理して使います。後は試運転だけかと」
「試運転は要らない」
「ですが…」
「こう見えても25年前はルノーFT乗りだぞ。そう騒ぐな。それに、司令部からは持ち堪えろという台詞ばかり。少しでも戦って時間を稼いで死ねというわけだからな」
「野戦憲兵に見つかったら即決裁判行きですよ…下手なこと言わないでください」
整備中の戦者を見て彼は唸る。この戦者ほどトラウマと麗しい外見を併せ持つものはなかったからだった。
彼が見ているのは、迷彩柄に塗装され、鉄十字が付けられた機体。
シャーマンだった。




