第7話 超えた先に
「砲撃陣地が…破壊されてる…」
シャーマンを降りた先に、そこには残骸のみがあった。戦闘の痕跡がある上に、破壊された自走砲はまだ熱く、血も鮮明に流れていた。となると、先程まで戦闘が行われていたということだ。
「偵察部隊がやったのか?」
「考えにくいな。偵察部隊とはいえ、高射砲、対空兵器で固められた防御の正面突破は避けたいだろう。だが、足跡は真っ正面から突っ込んでる」
「…先に進もう。何かあるかも」
先程の戦闘で歩兵もかなり削られた。ビッグガンも紛失した上に、マックス曹長のシャーマンは燃料タンクに穴が開いておりガソリンが垂れている。補給を待った方が得策だが、謎が残る限り安堵はできない。
「だが、他の奴らもかなり疲れてやつれている。休憩をした方がいいかもしれんぞ」
「…分かった。君らは一時休憩。僕とイーサンだけ少し前に出て様子を見よう」
「了解だ隊長」
戦闘継続能力はもうないかもしれない。ここで包囲されれば確実に全滅。なら、少しでも逃走経路を探る方針でいこう。
しばらく歩く先には、Ⅲ号突撃砲の残骸と破壊されたトーチカ、そして踏み荒らされた塹壕があった。破れた鉤十字の旗は地面に伏せている。
<レコン見ろ。シャーマンだぞ>
砲弾に撃ち抜かれた跡がある。それは格闘中に破壊されたシャーマンだった。Ⅳ号を押し倒しながら倒れている。ボロボロでクローラーソードは遠くに投げられていた。
そのコクピットには腕だけが出ていた。僕はそのコクピットハッチを剥がし、操縦士のドッグタグを回収しようとした。しかし、それは見てはならないものだった。
「…隊長…?」
入っていたのはアレックス隊長の焼死体だったのだ。悔しげな表情で、そのまま、死んでいた。
<気をつけろ!Ⅳ号のやつが生きてる!>
Ⅳ号のコクピットハッチから出てきたドイツ兵に、僕は強い復讐心を覚えた。シャーマンを動かし、足を近づける。
「Nein! Nein! Nein! War―」(やめろ!やめろ!やめてくれ!待っ)
この巨大な足底でドイツ兵を潰す。血が溢れ出るのが見える。
<レコン…行こう>
「クソッタレのナチ野朗め…」
その日から、僕は変わったのかもしれない。
「隊長!援軍です!」
僕らが通ってきたあの山岳地帯からクルセーダー巡行戦者が向かってきていた。イギリス軍の偵察部隊で間違いない。軽快な足でさらに奥地へと進んで行った。
1943年
10月
ボルトゥルノ線
ボルトゥルノ線。イタリア南部の最北部に敷かれたドイツ軍の防衛線の中で南部に位置する場所である。ここが崩壊すればイタリア北部進軍への鍵にされてしまう。そのため、この防衛線は非常に強固な守りであった。ボルトゥルノ線の先にはバルバラ線、バルバラ線の先にはベルンハルト線、次にアドルフ・ヒトラー線、そして枝分かれをしているカエサルC線、ローマ・スイッチ線と何重にも積み重なった防衛線は連合国軍を阻んだ。実際にこの防衛線は連合国軍を苦戦、足止めさせ、ローマに到着するのは翌年1944年の6月となった。また、ローマ到着後も北部ではドイツ軍とイタリア共和国軍による連合国軍への抵抗が続くこととなる。
「レコン。敵戦者は川の向こう側だぞ」
「おまけにあの徽章…間違いなくSSだね」
Ⅳ号、装甲車の他にもP40といったイタリア車両も混じっている。数では圧倒的に不利だ。
「航空隊と砲撃に合わせて前進する」
「了解」
「全員聞け」
中隊長が注目させる。
「敵からの攻撃は予想以上に激しいだろう。爆撃と砲撃による支援攻撃後に我々は前進し、あの橋を奪取する。戦者から下手に顔は出すなよ」
「「「了解」」」
上空では、対空砲火と空戦を浴びながらB-17の編隊が君臨していた。直掩機のP-51マスタングはドイツ軍のBf109と爆撃機を糸で縫うかのようにドッグファイトを続けている。
「目標地点が見えたぞ!」
「扉を開けろ」
B-17の腹から爆弾が全体を見せた。
照準手がスコープで下を狙い、揺れの中、正確さを求めている。
「今だ!」
「ボムズアウェイ!」
爆弾を一斉投下。他の機体もそれに続き爆弾を投下。爆弾の雨が降り注ぐ。
カラフルな先導機が機体を傾け離脱し、それに爆弾機隊も続く。
一方、アメリカ軍砲兵隊も黙ってはいない。
「定刻です」
「了解。砲撃用意!HE弾装填!」
M101 105mm榴弾砲に兵士が砲弾を装填。硬い閉鎖機を閉める。
「座標、355-189」
ハンドルを回し座標を合わせる。
「撃て!」
拉縄を引っ張り砲弾を発射。複数の榴弾砲が放たれ、榴弾は弧を描き座標に向かっていく。
戦者隊の川の向こう側に爆弾と榴弾が降り注ぎ、SSを壊滅させていく。車両は爆発し、歩兵は吹き飛ばされ、地面が抉れる。
「Kommt rein!」(敵が来るぞ!)
「Auf Gefechtsstellung!(配置につけ!)
「Mama! Mama!」(ママ!ママぁ!)
ドイツ軍は完全に混乱状態だ。今が絶好のチャンス。戦場で取り乱せば立て直しに時間がかかるのは確実だ。今ならナチスを皆殺しにできる。
「行くぞ!」
「シャーマン前進!続け続け続け!」
「怯える奴から先に死ぬぞ!生きたきゃ来い!」
僕らは地獄に再び足を運んだ。もしかすると、ここはさらなる地獄なのかもしれない。戦場は地獄だ。神話や書物で描かれる世界とは全く違う地獄。罪人だけでなく、正しい人が消える世界だ。




