第6話 暗闇の地獄
イタリアが降伏したものの、連合国は未だ南部で交戦していた。イタリアは混乱状態であり、内部で争いが絶えず、ローマでも内乱が起きていた。
「盾持ちが厄介すぎる!ビッグガンが役に立たねぇ!」
シュルツェンと呼ばれるあの盾は僕らの攻撃を見事に防いだ。主砲には敵わないもののビッグガンを受け止める盾は随伴歩兵をも守備範囲内に収めていた。
空から砲弾が舞い始め、ドイツ軍部隊を壊滅させる。
「砲兵隊(戦場の天使)だ!」
<今がチャンスだ!>
「全機突撃!接近戦で押し通る!」
クローラーソードを掲げ砲撃後のドイツ軍にトドメを刺す。火花を散らし鋼鉄の装甲を食い破るのだ。
右から砲弾が土を飛び散らせてきた。敵の戦者隊だ。
「こんな時に重戦者隊!伏せて!」
3機のタイガーによる連続射撃で食われていく中、反撃はできそうになかった。
<南東方面から増援を確認…味方のイタリア戦者隊です!>
降伏後、イタリア王国軍は寝返り連合国軍として参加している。イギリス軍やオーストラリア軍同様に連合となった今だが、正直なところ、戦力がなぜか弱い。
<カルロ・アルマートでタイガーに挑む気か!?無謀すぎるぞ!>
イタリア王国軍が使用するM15/42は装甲はⅣ号と同程度だが、主砲は47ミリと対戦者では今の時代火力不足。47ミリをタイガーに撃ち込むとすれば後方に回り込む他ない。
そんな夢のような話を思うことすらなく、彼らはタイガーのクローラーソードで切り刻まれてしまった。
「…引き上げよう。無理に行けばみんな死ぬ」
<了解。戦術的退却ですな>
<弾を無駄にするなよ>
敵の守備はあまりにも強固だった僕らは一時撤退。夜に進撃を行うことにした。行進中のタンクデサントでは相変わらずシャーマンのありとあらゆる場所に兵士が座っている。
「まっず」
Dレーションを食べつつ眠気を和らげる。時間は夜中の3時だった。
コクピットを解放し、空気を循環する。
「涼しい…」
「おい、レコン曹長」
話しかけてきたのはジョーンズ中尉だった。ちょうどコクピット近くに座っていたのだ。
「前回は…殴ってすまなかった」
「謝らないでください。別に、ジョーンズ中尉が悪いわけじゃないんです。あの時、すぐに判断を下せなかった。完全に僕の努力不足です」
「誰だって指揮を完璧に熟せることはできない。仕方なかった」
中尉は内ポケットから写真を取り出し、僕に見せた。そこには中尉と女性、そして子供が1人写されていた。
「ご家族ですか?」
「ああ。きっと俺はこの戦争で死ぬ。もう覚悟はできた。ほら、これをやる」
渡されたのは腕時計だった。
「俺の母が誕生日祝いに買ってくれた時計だ。アメリカに帰ったら家族に渡してくれ」
「…わかった。それまで、僕が預かっておくよ」
<山岳地帯に入る。歩兵は掴まってろ>
<足を滑らせることだけはごめんだぜ>
<気は抜くなよ>
もうまもなく交戦だろう。ナチが僕らを見過ごすことは絶対にない。イタリアは山岳地帯が多く、特に夜となれば待ち伏せも居るだろう。だが、通らないわけにはいかない。
「生き残ったら、また会おう。話ができて良かった」
「同じくです」
コクピットを閉め、モニターを引っ張り出す。
「周囲を警戒しつつ速度を速めて。山岳地帯に居候するのは危険すぎる」
山岳地帯に突入し、鋼鉄の足が地面に巨大な足跡を残す。
パァンッという破裂音と共に照明弾が打ち上げられた。
「しまった!」
<身を隠せ!>
照明弾が光り終わると、僕らは再び暗闇に包まれた。
「気づかれてない…?」
<歩兵は降車しろ。巻き込まれて死んだら話にならん>
イーサンが歩兵に命令した、その瞬間だった。辺りに砲撃が始まり、一斉に敵の攻撃が始まったのだ。前方からは聞き慣れた機関銃の音がする。間違いなくMG42だ。
「機関銃を潰す!」
主砲を発射。機関銃は収まったが、多数の歩兵が斃れた。
こんな狭い上に位置に気づかれた場所で屯してしまった…!
ついには高射砲による砲撃でシャーマンが1機撃ち抜かれた。爆発を起こし火柱で周囲が照らされた。
<あ"あ"あ"熱い!熱…い…>
その無線を最期に、シャーマンからは誰一人として脱出するところが見れなかった。燃料タンクに引火したのだ。
「全機突撃!怯むな!」
<本気か!?>
「退がれば砲撃で他の部隊も殺される。このまま前進して敵砲撃陣地を潰す!」
<…了解>
<クッソ!正面突破かよ!>
機関銃とビッグガンを撃ちまくり周辺を掃討しつつ前進。今敵砲撃陣地をやらなくては、またあの雨を喰らうことになる…!
トーチカを破壊し、歩兵を潰し、高射砲を粉々にする。その惨状はまさに暗闇地獄だった。一方、歩兵隊も激しい銃撃戦を繰り広げ、衛生兵を呼ぶ声も聞こえる。
<レコン右だ!>
咄嗟にブレーキをかけ地面を滑る。弾は跳弾し彼方へ消えた。横にいたのはⅣ号である。
「失せろナチ野朗め!」
主砲をへし折りゼロ距離でⅣ号に向け主砲を発射。ライフリングから火と弾が回転しながら放たれた。徹甲弾が潰れⅣ号のコクピット内へ貫かれる。
「やったぞ…」
Ⅳ号はそのまま倒れ煙を上げる。
<周辺の奴らは制圧したようだ。残すは砲撃陣地のみ!>
「あの照明弾が上がった方面にあるはず。このまま行くよ!」
<了解>
黒い空には薄い藍色のグラデーションがかかっていた。時間は朝5時半。地獄の終わりを示めす天の光だ。




