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029俺は一応、男子である。


029俺は一応、男子である。



 以前実験した。

 水蒸気は黄金化できる。

 能力によるものなのか、圧縮されて気圧が下がるからなのか、水滴がどんどん集まってきて、黄金が成長していく。

 

 雲は水蒸気と変わらない。

 

 あのドラゴンゾンビの巨体を潰せる程の水を魔法で発生させるのは無理だった。

 ならば、自然にあるものを使う。

 

 高すぎて現実感が無かった。

 思ったよりも恐怖を感じない。

 女騎士や兵士に抱えられて何度も飛んでたから慣れたんだろうか。

 

 雲に衝突した瞬間、俺は『ゴールドフィンガー』を発動させた。

 

 

 □

 

 

 正直、ここまでやる必要は無いと思う。

 ほっといてもドラゴンゾンビは死ぬ。

 最終的にはとんでもなく厄介になるし、毒ガスでかなり広範囲の動物、濃度によっては植物もダメにしまくるけど、それによって色々問題が起こるけども、それでも、放置しておけば勝手に朽ちる。


 別に手を出さなくてもいいんじゃないのか?


 どういうわけか、人が多いところを嗅ぎつけ、そこへ向かう。

 街に近寄られれば人間は逃げても畑がダメになるし、食糧難でひどい目に遭う。

 それで餓死する人間もいるかもしれない。

 汚物や通った後も問題だ。疫病が発生がするらしい。それで多くの人間が命を落とす。

 

 だけど、果たして、異世界から来た俺が、命を賭ける理由があるんだろうか。

 

 俺はこっちきてすぐに女まみれの贅沢三昧を体験した。楽しかった。

 チート主人公なら勝手に気ままに楽しく生きて当たり前という話をよく読んだし、力や金があればなぁとため息をついていた。

 それを実現したのだ。

 王様が言った通り、戦死扱いにしてもらって、どこかで幸せに酒池肉林生活をしていても良かった。

 

 だいたい、世界が終わるというレベルの問題でもない。

 俺が引っ込んでいても、勝手に決着が付く問題だ。

 

 

 

 

 だけど、俺にはできる事がある。

 

 

 俺は一応男の子だ。

 男の子にはやらなきゃいけない時があると思う。

 

 どんなに馬鹿だと言われても、やらなきゃいけない時がある。

 男子ならば。

 

 □

 

「うおおおおおおおおおおお!!」

 特に意味は無いのだが、叫んだ。

 

 下に向けた掌に発生した金粒がどんどん巨大になっていく。

 強い風が吹き荒れ、掌に集中している。

 

 あっという間に俺の体よりも大きくなり、風の抵抗で俺の手に黄金が押し付けられた。

 さらに能力を伝達していく。

 黄金をさらに黄金化するという奇妙な感覚だが、末端に届いたそれは表面に付く水滴を全て黄金に変えて飲み込んでいった。

 

 □

 

 地上の者達は、2人の乗ったワイバーンが雲に突っ込んでいくのを見上げていた。

 黄金の皿の上でウゾウゾと動くドラゴンゾンビは放置されている。

 雲が凄まじいスピードで小さくなっていくのに気付き、兵士長が声を上げた。

「……退避! 退避ーーーー!!」


 100人程の兵士達、そして王様が城壁外に降り、走った。

 

 □

 

 着地点のことを考えて無かった。

 外れたらどうしよう。

 だが、それほど心配はしていない。


 当たる気がした。

 

 □

 

 雨が止んでいる。

 

 夕暮れの空に輝く物があった。

 赤い太陽に照らされて、ギラギラと輝くいびつなそれは、黄金だった。

 

 積乱雲がもっている水分量は数百万トン

 最低でも1500mの上空からそれが落ちてくる。

 

 

 □

 

「うおおおおおおお!!」

 俺は走っていた。

 体が軽いが踏ん張りも効かず、転びそうになりながら走った。

 いびつな黄金の塊の上を走り、

「こっちだ! 早くしろ!」

 という女騎士の元へ。

 下が見えないから高度が分からん。

 俺は黄金の塊の端から飛び、女騎士にキャッチされた。

 この人もう片手でワイバーン操ってるよ。

 でもこの世界ってステータスやスキルがあるから、騎乗スキルあったら何でも乗れるんじゃないんだろうか。

 

 俺は女騎士の背中にしがみついた。

 

 空気が震えている。

 こんな巨大なものが加速して落ちていく。

 やりすぎた感があるが、もう考えてもしょうがない。

 

 いびつな形だが、俺はこの黄金塊の上部中央から端まで走って、だいたい100m以上はあると感じたが、それでもコレがどんな大きさなのか全然想像つかなかった。多分、考えるのを放棄していた。

 

 考えるのも馬鹿馬鹿しい大きさの黄金が落ちていく。

 

 

 ワイバーンが翼を広げて減速した。

 相対的に黄金は加速して落ちていく。

 

 あっという間に小さくなった黄金は、王都に落ちていった。

 

 

 □

 

 

 王都周辺の街を地震が襲った。

 

 既に街に到着していた兵士たちは、すわドラゴンゾンビの襲来かと皆身構えたが、ドラゴンゾンビは襲ってこなかった。

 

 

 


 □


 一夜明けた翌日午前。


「これは…… どうしたものか……」

 王様が元王都を見て呟いた。

 

 もう城壁も何も残っていない。

 クレーターになっていた。

 川の水は巻き上がった土砂でせき止められていたが、それでも隙間をちょろちょろと流れ落ちてくる水でクレーターの下の方は既に池になっている。

 

 クレーター中央には午前の気持ちいい陽光を浴びてギラギラと輝く黄金のオブジェ。

 水没している底部は溶けた後固まったみたいで平たく広がっている。水面の反射と水底の黄金の反射でやたら眩しい。

 衝撃で変形して伸びた部分は黄金の噴水の様にアーチ型で固まっていた。

 

 王都が消滅して、得体が知れない黄金のオブジェが誕生した。

 

 ドラゴンゾンビなんて文字通り跡形も無い。

 黄金の皿の上で数百トンの黄金に押しつぶされて消滅した。

 

 □

 

 退避した100人程の兵士達と王様は、既に王都からかなりの距離離れていたが、それでも強烈な爆風に襲われ、岩陰と盾と防御魔法でなんとか凌いだらしい。

 俺たちが合流したのは暗くなってからだ。

 ワイバーンはそのまま放した。

 女騎士は名残惜しそうにしていたが。

「また捕まえればいいか」

 と、ワイバーンをいたく気に入った様子だ。

 

 朝になっても誰も動く気が起きなかった。

 王都があったはずの場所にやたら輝いているものが見えて、どうしたものかと考えている内に時間が過ぎた。

 少し太陽が昇ってから、しょうがないと腰を上げて墜落現場に歩いて行った。

 

 そこには黄金の塊が鎮座していた。

 

 □

 

 

 

 皆無言でこの黄金のオブジェを見ていたが、 

「これ狙って他国が侵攻してくるかもしれんな」

 と王様が言った。

  

 そして再び皆黙ってしまった。


 

 

 ◯

 

 

 

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