第十一話
「黙って聞いてりゃ何遍も何遍も言いやがって、クソッタレの唐変木ども!」
抜刀。ひと筋の銀閃が走った。
ザグッ!
持っていた金属の棒ごと右腕が両断され、吹っ飛んで床にボトンと転がった。
「ぎゃあああああああああああ!」
斬られた男子の絶叫が響き渡り、身体がくの字に折れ曲がった。そこへ村瀬が前方に刀を構えた状態で突進した。
ドスッ!
刀身が男子の身体を貫通する。だが村瀬の勢いは止まらず、その状態のまま体当たりするように男子を壁へと叩きつけた。
ダンッ!
磔刑。村瀬の刀が薄い小屋の壁板を軽々と突き抜けた。
瞬間的に起きた仲間の斬殺。長谷川も残りの男子も何が起きたのか全く分かっておらず、完全に固まっていた。
そこへ唐突に入り口の扉が開いた。絶叫と音を聞きつけて外にいた見張りの男子が飛び込んで来たのだ。目の前の光景に度肝を抜かれてはいるが、斬られる瞬間を見ていない見張り役男子は仲間たちのように固まることはなかった。
「おい、何してんだお前!」
「くっ」
力を込めて村瀬が刀を引くが、壁と男子の身体を貫通した刀身はなかなか抜けてくれない。
まずいっ。
あーしは小屋の壁から離れて助走をつけると、腕を交差させて身体の前で構え、窓ガラスに向かって飛び込んだ。
バリィィイイイィン!
破砕音と共に窓ガラスが砕け散った。
突然の第三者の乱入に、村瀬に飛びかかろうとしていた男子の動きが止まる。小屋の内部にいた全員の視線があーしへと集まった。
「中等部一年道山鈴蘭……」
着地と同時に名乗る。
「参る」
剣閃抜刀、――不退転。心の中で唱え刀を抜く。
見張り役男子があーしの方を向いた。その行為は急所をわざわざどうぞと差し出すような自殺的行為。トーシロもいいとこだ。
手首が返り袈裟懸けに刀を振り下ろす。わずかひと呼吸も必要ない。
「うっ」
悲鳴にもならない声が一瞬。
ばったりと倒れた男子はそれきりピクリとも動かなくなった。じわじわと真っ赤な血液が身体の下に広がってゆく。
「ズーラン?! なんで!」
刀をようやく引っこ抜いた村瀬が隣に並んだ。
「あんたは左の奴。あーしは右な!」
「うっさい、命令すんな!」
飛び出したのは同時だった。口では悪態を吐くが、不思議と息が合っていた。
あーしは目の前の男子の胴を真横に薙ぎ、村瀬は真上から唐竹にもうひとりを斬り伏せる。
全てほんの一分ほどの出来事だった。
男子たちの圧倒的優位は一瞬にして覆された。長谷川は小上がりに座った格好のまま、身動きひとつ取れないでいる。
出来立てホカホカの死体が四つ。返り血を盛大に浴びた剣徒が二人。
「さてと、長谷川さん。言い残すことがあるなら聞こうか。最後に一句詠むくらいの時間ならあるよ。もちろん辞世の句ってやつな」
あーしの言葉に長谷川が蒼白になる。大量の脂汗が額に浮かぶ。
「ま、待て。待て待て待て。松野のことだったら謝る。ほら、この通りだ」
小上がりから下りて土間に膝を付くと、額をこすりつけるように長谷川が土下座した。
こいつ見え透いた手を使いやがって。
「松野に謝れって言うんなら謝る。賠償もする。だから命だけはどうか! どうか! お願いします! お願いしますぅぅぅぅ!」
「うっせぇえええええぇえ!」
村瀬の怒声が小屋中に鳴り響いた。耳を塞ぎたくなるほどの大絶叫だった。思わずうるさいのはお前だと言いかけたほどだ。
「松野なんてどうでもいいんだよ! 知るかそんな奴!」
真上から突き下ろした村瀬の刀の切っ先が、土間に付いた長谷川の手の甲を貫いた。
「ぎぃぃぃいやぁああああ!」
「許さない許さない許さない許さない! 絶対に許さない!」
グリグリと柄を抉るようにして、更なる激痛を長谷川に与える。
「や、やめ……!」
「よくもよくもよくもよくも! 私の計画をぶち壊しにしてくれたな!」
計画?
「おい村瀬、何言ってんだ。計画って何よ」
「決まってんでしょうがぁ! 素敵な彼氏を作ってあんたに吠え面かかせるための計画だよ!」
は?
「士峰館女子部の剣徒はみーんな剣に生き、剣に懸けてる。だけど厳しくも志高い現実のその裏で、みーんな素敵な白馬の王子様を夢見てんだよ! あんたもそうでしょ!」
「え、いや、別にあーしは……」
「そこはそうだって言っときゃいいのよ! 空気読めやぁ!」
「あ、うん。そだね」
まぁ村瀬の言うことも分からんじゃない。実際長谷川の甘い言葉に誘惑された松野かおりって前例があるわけだし。けどみんながみんなそうかと言われると、どうだろう……?
「こんなクズを彼氏にしたって、あんたに勝ったことにならないじゃない! それどころかこんな奴を連れ歩いてもし悪事がバレた日には、私の人格が疑われるでしょうが!」
「あんた、もしかしてあーしにマウント取るためだけに彼氏作ろうとしてたの?!」
「彼氏が欲しいのはほんと! それとは別にあんたの悔しがる顔が見れれば尚よし!」
「ってことはあのおかしなキャラは全部私を油断させるための演技ってこと?! こいつらとやってること同じようなもんじゃねぇか!」
「一緒にすんな! もう少しで彼氏が出来そう、あんたの悔しがる顔が拝める。そう思ったら勝者の余裕でああもなるでしょうよ!」
「なるか! こっちはどんだけキモい思いしてたと思ってんだ!」
「キモいとは何よ!」
長谷川を彼氏にするとか関係なく、すでにあーしはあんたの人格を疑ってるよ。
「ったく呆れたよ。まったくなんなんだよあんた」
そう言いつつも、ふふっと不思議と変な笑いがこぼれた。
「なに笑ってんの」
「……いいじゃん」
「いい?」
「面白いよ、あんた」
「あ? なにが」
「いや。後は気の済むようにしなよ」
私は刀を収めると死体をひょいと跳び越えて、小屋の外へと向かう。
「ま、いいや。さぁーて、では長谷川さぁん」
村瀬の不気味な猫撫で声が響く。
「初対面の時に言ってた怒りに任せた乱暴な剣ってのを自分で受けてみましょうか。今後成長した私の姿を見せられないのが、ほーんと残念」
「お、おい、待て。待ってくれ。そこのお前、こいつと二人きりにしないでくれ」
長谷川が泣きながらあーしを見た。肩を竦めるしかやることがない。
「もし言うことが嘘だったら確か斬っていいとも言ってたっけ。さっき自分で嘘だって宣言してたから、斬ってもいいって事だよね」
「なぁ待って。こいつを止めてくれ。頼む、頼むーーー!」
あーしは長谷川を無視して小屋を出る。
「お疲れ」
最後にそう声を掛けると、開きっ放しだった安っぽい扉をパタンと閉めたのだった。




