1.
蒼太と、そして長き時間を経て再会した“蓮川 心音”は。お昼時に待ち合わせて、一緒に昼食を食べる事となった。
食堂の丸テーブルで、向かい合って座る二人。蒼太は、ココネに作って貰ったお弁当をバッグから取り出しながら――チラチラと心音を観察する。
「も~、別にフツーに見ればいいじゃん。別に怒ったりしないよ?」
フツーにバレました。
「――何と言うか……凄く変わったな、と思って」
人、の印象などというものは、時間が経てば変わるもの。それが成長著しい幼少期からでは、より顕著になるというものだ。
しかし、今の心音の姿はそれを加味してなお激しい変化をしていると言えた。イメージに重ねて“ココネ”と命名したLSRを思えば、そのビフォー・アフターぶりはよくわかろうというものである。
「アー、まあ、ネ。あはははは……」
そう言って、心音は前髪をいじる。特に変化を強く意識させるのは、何と言ってもその髪色だろう。
記憶の中にある心音の髪の色は、ココネがそうであるようにロングのプラチナブロンド。それは彼女がクォーターである事に由来している。
ところが、今の彼女は黒髪のウルフカットに赤と青のメッシュを入れた、特徴的な髪色をしていた。これで、同一人物だと分かれと言う方が無理というものである。
「ソッチはまあ、思った程変わってないよね?」
ありのまま育ってきた蒼太。それを、心音はじっくりと観察する。
「おしゃれとかあんまり興味ないタチでして……」
「確かに。ポイねぇ」
涙袋のある眼差しが、笑みと共に細められる。派手な美人という風体の、今の心音。昔の無口で儚げな姿からはまるで想像できない姿だ。
「でも、よく気がついたよね? 変わってない、と言っても流石にあの頃と比べると……」
例え心音のようにイメージががらりと変わっていなくても、年月により当時の幼さはほぼ抜けきっているはずである。仮に心音があの時から順当に成長した容姿で目の前に現れたとしても、気がつける自信は蒼太には無かった。
「匂いが同じだったし?」
「匂い……?」
そんなに特徴的な体臭でもしているのかと、蒼太は腕を鼻に近づけて自分の匂いを嗅ぐ。当然、分かるわけもない。
「ジョーダン。ペンケースに書いてある名前がちらっと目に入ってさ。覚えのあるナマエだったから、もしかしたらって思って」
「ペンケース……」
ああ、と、蒼太は納得する。
「――まさか、小学生の時から使ってるものがこんな所で役に立つなんてね」
「小学生の頃から!? マ?? 物持ち良過ぎじゃん!?」
「まあ、特に壊れた事もないから、変える必要も無かったってだけだけどね」
これもある意味、おしゃれ等に興味が無い事の延長線上だろうと、蒼太は思った。いちいち流行など追いかけないタチで、それ故に手持ちの道具を買い換える事は滅多に無いのだ。
今回は、それが功を奏したと言うべきか。
「でも、ゲンキそうでよかった。キミが引っ越して、そのあとどうなったんだろって、ズット気になってたんダヨネ」
「あはは……まあ、色々あってね」
一言ではとても言い表せない事情を適当に誤魔化し、蒼太は弁当を開ける。
二階建てのお弁当箱の中身。上段は卵焼きや焼き鮭、ほうれん草のおひたしといった、ザ・お弁当といういかにもなものがおかずだった。下段のご飯には鶏そぼろがのせられており、これまたベーシックなもの。
しかしそれが、逆に手作り感のあるあたたかみを帯びており、とてもアンドロイドが作ったとは思えぬ程だった。
なんとなく、変化控えめな表情でサムズアップしているココネの姿が蒼太の目に浮かぶ。
「それ、ジブンで作ってきたの? それとも、実家暮らし?」
そう言う心音の前にあるのは学食のコロッケ定食だ。先週までは自分も学食で食べていたものを目の前にするというのは、何とも不思議な気分である。
「ううん、一人暮らし。――いや、違うのかな?」
「ナニナニ? 通い妻でもいる?」
「いないよ……先日購入したLSRが昨日丁度ウチに来て、その娘に作って貰ったんだ」
それを聞き、心音はおー、と感嘆の声を上げた。
「オッカネモチ、じゃん。蒼太クンって、ジツは結構セレブ? 昔はそんなふうには思って無かったけどナー」
「違うよぉ……。型落ちで安くなってるのを、溜まってたお年玉で買っただけだって」
――購入うんぬんの経緯に関しては、詳しく言うまいと蒼太は思った。
「それにしても、心音と再会する事になるなんて……」
「? どゆイミ?」
「ああいや、こっちの話……」
どのような確率なんだと蒼太は思う。かつての想い人が忘れられず、しかしもう二度と巡り会わないだろうとイメージに近いLSRを買って名前をつけたら、近日中奇跡的にその幼馴染みと再会するなど。しかも同じ大学。宝くじでも買うべきかもしれない。
それからは、互いに昼時間が終わるまで雑談をした。蒼太が引っ越した後、それぞれがどこの学校へ通っていただとか、逆に幼稚園の頃何を覚えていて何を覚えていないかだとか。
再会した幼馴染み二人の会話は、意外にもぎこちなさなく、詰まることなく盛り上がった。




