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幼馴染みと同じ名前のセクサロイド  作者: /黒
《第二話》『アンドロイドとの生活から幕を開ける新たなる日常』
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5.

 そうして蒼太とココネは通学用のバッグを選んでから、それも加えて代金を払い、採寸直しをカウンターで依頼してから店を後にする。

「現在時刻は11時43分よ。昼食の時間が近いわね。どうするのかしら?」

「それじゃあ、フードコートで何か食べていこうかな?」

「フードコートは一階ね。最寄りのエスカレーターから降りたら左手側にあるわ」

 まるでプロの案内人のようにそう告げたココネと、再び手を繋ぎながら一階へ。お昼時という事もあり、席は大勢で賑わっていた。

「座れるかな……」

「――左。10時の方向に二人がけの席が空いているわね」

「またデータを?」

「そんなものまでここは管理してないわ。見回したら見つけただけよ」

 流石のアンドロイドも、何から何までネットワークに頼らないらしい。一度席の確保と確認のために二人でその場所へと向かう。

「えっと、それじゃあ何食べようかな……」

 荷物を置き、蒼太は辺りを見回す。時間が時間なので、どこもそれなりに時間がかかるように思えた。

「現在の店舗ごとの待機予測時間をダウンロードしたから、あなたのホログに送るわ」

「えっ」

 ホログへの通知。見ると、彼女の言ったとおりLINK経由で待ち時間が店ごとに送られてきていた。口頭で言わないのは、閲覧しながら選択しやすいようにという配慮だろう。

「なるほどこれはすっごく分かりやすい……ありがとうココネ」

「どういたしまして」

「それで、ココネは何か食べる?」

「そうね……」

 ココネは、顎に手をやり考える仕草。アンドロイドでありながら飲食が必要というのは、人によってはデメリットかもしれないが、蒼太にとっては共同体意識を刺激されるメリットだった。やはり、誰かと共にする食事はよいものだ。

 ――それはそれとして。こういう時にココネが、何を選ぶかはちょっと気になった。

「“美味い和”と言う店舗の焼き魚定食、小にするわ」

「ちなみに、どうしてそれを選んだの?」

「? 生体機能の維持に必要な栄養素を効率良く取れるからよ?」

 らしいと言えばらしい理由に、思わずおかしくなって蒼太は笑いを漏らす。ココネが首を傾げるので、『何でも無い』と彼は返した。

「じゃあ折角だし、俺も美味い和の和食にしようかな……メニューは――あ、タップしたら表示された」

 先ほどの待ち時間画面を触ると、画面が切り替わる。蒼太はスクロールし、いくつかの商品を見て注文を決める。

「じゃあ俺はとんかつ定食にしようかな」

「分かったわ。じゃあ注文するわね」

 外見的には何も変わらないが、ココネは今通信してやり取りをしているのだろう。段取りよく進むのが何だか心地よくて、蒼太は通じ合っている雰囲気になるのが嬉しかった。

 それから、雑談を交わして時間を潰す。内容はスーパーのエリアで何を買うかに始まり、間食や今の昼食に選んだものの栄養バランスへのLSRとしての指摘といった事が主。偶にセクサロイド的お誘い。

 そうしているウチに、ココネが何かに反応したように顔を上げる。

「あなたのとんかつ定食ができたみたいね」

「あれ? ココネの方が早くできそうなのに」

「ワタシは別に急いで食べなくてもいいけど、人間は空腹に耐えるのは厳しいんでしょ?」

「中世の貧しい子供じゃないよ俺は……。じゃあ取ってくるから、荷物お願いね」

 そうして蒼太が自分のとんかつ定食を取りに行って戻ると、入れ替わりでココネが席を立ち、焼き魚定食(小)を取りに行く。先に食べていてもいいと言われたが、どうせならと、ココネが戻って来るまで待った。

 ――とんかつ定食を選び、それを食べる蒼太。だがふと、ココネの方に視線をやる。

 普段家で出てくる魚は切り身だが、彼女の注文した焼き魚定食は小さめの鰯が一匹。どう食べるのかとみていると、それはもうお手本のような美しい所作で魚を箸で解体していた。

「――上手だね」

「アンドロイドだもの」

 解体し、バランス良く定食を食すココネ。家でもそうだが、彼女の食べ方はとても綺麗だ。栄養補給のための行為とは、とても思えぬ程に。

「おいしい?」

「――それはどういう視点かにもよるわね」

「おいしいに視点がそんなにあるの……?」

「あるわよ。まだ情報不足ではあるけれど、あなたの食の好みからすると物足りなく感じる味、と言えるかしら。ワタシの視点からすると、必要な栄養素を補填できるからおいしい、と言えるわね。後、40代前後くらいの平均的な暮らしの人間から見た場合、充分味としての水準を満たしていると言えるわ」

「引き出しが多いよぉ!」

 そういう所は、生活サポート機能がメインのアンドロイドらしいなと蒼太は思った。この手の事に関して言えば、彼女は人間のプロにも引けを取らないだろう。

「それじゃあ、そろそろ行こうか」

 二人とも食事を終え、食器を店に返し、蒼太はそう促す。――が、一方でココネはある一点を見つめていた。その視線の先にあるのは、クレープ屋だ。

「どうしたの?」

 意外な興味先に、思わず蒼太はそう訪ねる。ココネはそう言ったものに、あまり関心を示さないと思っていた。自分がこれ以上食べると糖分過多だ、などと言ったりして。

「カップル限定メニュー、ですって」

「えっ」

「男女間のデートと言えば、ああいった催し物は定番どころだと思うのだけど、どうする?」

 そう言えば、喜ぶだろうと思って“デート”と言い出したと、ココネは先ほど言っていた。

 ――彼女自身は他にどう思いながら、そういった発言をしたのだろうと、蒼太は思う。

「――じゃあ、注文してみようかな?」

「分かったわ。――あそこはネットワークからの注文はできないみたい。店頭でのみのやりとりを受け付けているようね」

 との事なので、ココネと一緒に手を繋ぎながら、カップル限定メニューを注文しに行く。

 そのメニューは通常よりも大きめの、ジャンボサイズクレープと言えるメニューだった。イチゴとチョコをメインに使用したもので、二人で分けて食べると言う形になっている。

 ちなみに、ココネは一切アンドロイドだとは思われなかった。それどころか、店頭のアンドロイドに『かわいい彼女さん、大事にしなよ』言われてしまう。――漫画でそう言うシーンを見たことはあるが、自分が言われる日が来るとは、蒼太は思わなかった。

「――ちなみに、君的には食べ過ぎの部類に当たるんじゃないの? 分け合ったとしても」

「多少の過多なくらいなら、内部処理でどうとでもできるわ。流石に何度も重なると不具合の原因になるけど」

 つまり、心配ご無用らしい。要らぬ憂慮だったようだ。

 そうして二人で近くのベンチに腰掛け、クレープを分け合う。できたてのぬくもりが残る生地。きめ細やかなホイップクリームと濃厚なチョコの甘み。それをイチゴの酸味とみずみずしさが引き締めてくれる。カラーシュガーのプチプチ感も、よいアクセントになっていた。

「あ、これおいしい」

「――食べ過ぎれば人体に悪影響をもたらすというのがよく分かる糖分量ね」

「夢もへったくれも無い感想だぁ……!」

 しかし、なんとなく想像していた事もあり、その通り過ぎてちょっと面白いと蒼太は思った。こういうシュールなところは、間違い無くココネのチャームポイントだ。

 だがまだ、そんな彼女の愛おしく感じるところは終わらない。

「でも――」

「でも?」

「こういった味や食感に、人は一時の幸福感を覚えるのね」

 機械的、無機質的表現でありながらも哲学的なその感想に、蒼太はある種の“尊さ”を覚えた。ココネは人間とはまるで感じ方が異なるのに、彼女なりに理解しようとしている。その姿が、何とも神秘的なのだ。

「あ、ココネの鼻にホイップがついてる」

「あら?」

「取ってあげるね」

 蒼太は、ココネの鼻先についたホイップを指先ですくい取る。――取って、どうするか考える。考えて、恥ずかしさから迷ったものの、そのまま食べることにした。

「――指で拭き取りきるのは困難ではないかしら?」

「えぇ……?」

 当然と言うべきか、ココネはまるで恥ずかしがる様子を見せることも無くそう言った。そればかりか、

「指先に唾液を付着させる事にもなるわね。今、ウェットティッシュを出すわ」

「ははは……」

 何とも生活支援アンドロイドらしい事を言われてしまい、蒼太は思わず乾いた笑いを漏らしてしまった。

 でも、それもまたどこか、楽しい気持ちにさせられるものだとも思った。ココネは人間ではない。人間とは考え方の異なる箇所も多い。けれども、それもまた魅力的なのだ、と。



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