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戦闘用AIの僕が異世界に転生したと思ったら、実は魔法使いの杖に接続していました  作者: 時野マモ
戦闘用AIの僕が異世界に転生したと思ったら、宿題を手伝わされました
9/17

AIは少女とお菓子を作りました

 ノアたちの当番も終わり……


 放課後。


 学生たちは、それぞれが、それぞれの場所へ散っていく。


 セレスは奉仕活動へ。パラスはレスリング部へ。ベスタは吹奏楽部へ。


 日本の高校生活と同じように、生徒たちは授業が終わった後も、何らかの課外活動を行うことが多いようだ。


 しかしノアは、ゆっくりと校門を出て、下宿へと向かっていた。


 眠い。

 とにかく眠い。


 誰に聞かせるでもなくブツブツとつぶやいていた。


 どうやら疲れが限界のようだった。


 昨夜の騒動に加え、朝からの詰め込み授業。


 今にも、歩きながら寝てしまいそうであった。


 だが、ノアには帰宅後の仕事があった。


 下宿先の酒場での手伝いだった。酒場で仕込みの手伝いや給仕をして、その代わりに、下宿の食費を免除してもらっていたのだった。


 だって、ノアの家は金が無い。


 森に住む、世捨て人みたいな祖父に学費を出してもらっているのだ。これ以上迷惑はかけられない。


 だから、進学にあたって、食費がタダになるというこの下宿を選んだのだが、


「……今日はちょっとだけ寝てからでもいいよね。ハレーおばさんに頼んみよう」


 半分目を閉じながら、ノアは酒場の入口をくぐる。


 すると、


「ご、ごめんなさい……! 本当にごめんなさい……!」


 青ざめた顔で頭を下げている少女がいた。


 ラーラだった。酒場に食料品を卸しているネビュラ商店で働いているノアと同い年の少女だ。


 多分、今日は、何か食材を配達してきたのだろう。


 彼女の前には、山のように積まれた――


 バター。


 それが詰められた木箱が、天井に届きそうなくらいまでになっていた。


「……どこの王宮の晩餐会だよ」


 ハレーおばさんが呆れたように言う。


「こんな量、半年でも使い切れないよ」


「わ、私……注文量を、聞き間違えて……すみません……」


 ラーラの声は震えている。


「すみません、すみません……私が悪いんです……でも……このままだと……クビに……それで……その……」


 言葉が詰まる。


「……田舎に戻されて……売られて……このままでは私のシティライフが終わってしまいます……! ああああ」


 切実なのか冗談なのか判断に困るような悲鳴だった。


 どうやら、少女は、おばさんの注文を間違えて、大量のバターを納入してしまったようで、ハレーおばさんは余計なバターを返品できるようだ。


 でも、そうしたら「売られる」がそのままの意味なのかは不明であるが、この少女はクビになり、この街にはいられれなくなるようだ。


 もちろん、ラーラの失敗なのだから、酒場に方ではそんなことを気にする必要は無いのであるが……


 ハレーおばさんは、ため息をついた後、


「……いいよ。全部置いてきな」


「え……?」


「困ったときはお互い様だろ」


 ラーラの目に涙が浮かぶ。


「ありがとうございます。ありがとうございます……」


 何度も頭が地面にぶつかりそうなくらい深いお辞儀を何度もしながらお礼を言う。


「しかしまあ……これどうするかね」


 ラーラは助かったにしても、おばさんの問題は解決していない。


 山のようなバター。


 小さな酒場では、使う前にほとんど腐ってしまうだろう。


「……どうするの、これ」


 ノアが呆然と呟いた。


「お客さんにサービスであげても……まだほとんどあまりそうだねえ……」


 ハレーおばさんも困り果てているようだった。


 なるほど……


 僕はノアだけに聞こえるような小さな声で言った。


「この問題、解決可能です」


「え!」


「ん……どうかしたかね?」


「あ、いえ、何でも無くて……どうしたのよアイビー」


 後半、声をぐっと小さくしながらノアが言った。


「レシピを表示します」


 過剰在庫。


 脂質。


 糖質。


 小麦。


 組み合わせ。


 僕は詳しい解を表示する。


「この状況を鑑みた、最適なバター利用方法です」


 ノアは眼の前に浮かび上がった光で書かれたレシピを見る。


 地球における類似事例。バター過多の地域で生まれた菓子。資源に応じて構造を変えた結果。


 それは――


「クイニーアマン?」


 ノアはじっとレシピを眺めたあとに、


「……やってみる」


 と言うと、バターをひとつ持って調理場に向かった。


「ノア、どうしたのさいきなり」


「おばさん、試してみたいのがあるの」


 その後は無言で調理が始まった。


 ハレーおばさんとラーラは何が始まったかわからないままじっとその様子を眺める。


 ノアは、手際良くバターを練り込む。


 折り込む。


 焼く。


 さらに焼く。


「……何してるのあんた」


 信じられないくらいバターを生地に練り込んでいるのを見て、耐えきれずにおばさんが言った。


「正気かい?」


 ハレーとラーラがドン引きしている。


 だが、やがて……


 甘く、香ばしい香りが広がった。


「……え?」


 一口。


 サクッ。


 ジュワ。


 甘さと塩気と脂質。


 すべてが最適化されている。


「……なにこれ」


「……うまいです」


 貪るようにクイニーアマンを食べた二人。


 もう一つ食べて、何か考え込んで……


 さらにもう1個。


 そして、ハレーおばさんが言った。


「これは……いける」


 ラーラも続けて、


「こんなの……王宮でも……いえ」


 一瞬言いかけて、


「……きっと、王宮とかでも、誰も食べたこと無いと思います」


 頷きながらハレーが笑う。


「これは大儲けの匂いがするよ!」


 数分後。


 大量生産が始まった。


 責任を感じていたラーラも手伝わされる。


 どうやらクイニーアマンは大好評のようだった。


 もともとフランスで牛乳がやたらと取れたが、小麦がさっぱり取れないという異常な年に生まれた異常なお菓子である。


 正気ならこんなお菓子作らないなというバターたっぷりのレシピは、悪魔的な魅力でこの後に王都で大流行となるのだが、それは後の話。


 ノアは、厨房をそっと離れ、ラーラに大声で指示するハレーおばさんの声を聞きながら屋根裏部屋に戻ると、


「……2時間で起こして」

 

 そう言って、ベッドにダイブするのであった。


 まあ4時間も寝てしまって、また深夜まで宿題をすることになるんだけどね……

 

 とりあえず幸せなそうな寝顔を見守りながら、僕は今日起きた様々な出来事を再評価する。


 ああ、色々あったが、概ねこの世界は平和に見える……


 このまま、ノアとの日常を過ごしながら、ゆっくりと状況を把握していけば良いのかと思った。


 しかし……


 この後にに僕は知ることになる。


 僕の作られた理由、特異点(シングラ)がこの世界にも出現する(いる)ことを。


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