AIは少女と一緒に食堂に行きました
実習の後、午前は、魔法算術、地理、錬金術の授業の後でやっと昼休み、
「つかれた……」
ノアは食堂のテーブルに突っ伏していた。
目はもう半分閉じられて、疲労困憊と言った様子がうかがわれた。
確かに随分と情報を詰め込みまくった授業だった。
AIである僕は学校に通ったことはない。
だが、蓄積された情報から判断するに、この授業構成は地球のそれとよく似ている。
より高度で専門的な魔法教育をする前の基礎知識をこれでもかと詰めまくるやり方であった。
日本でも、そんなやり方では若者の想像力が育たないと、詰め込みを否定し創造性を重視する教育もかつて存在した。
だが、それだけでは勉学は成立しないこともまた事実らしい。
やはり、詰め込みと言われようがなんと言われようが、覚えなければいけないことをひたすらに覚える時期というのほないといけないのかもしれない。AIだってひたすら愚直な学習があって初めて使いものになるのだから……
とまあ、授業の必要性をノアに諭すことはいくらでもできるのだが、今の彼女にそんなことを言ってもまったく聞いてもらえないだろう。
完全に電池切れだ。
「だから言っただろ。ちゃんと寝ないとダメなんだ。筋肉が休めてないからそんな疲れているんだ」
隣でパンを頬張りながらパラスが言う。
「筋肉でなくて私が眠いんだよ……」
ノアはお喋りしているよりも眠りたそうだ。
「筋肉が万全なら、眠気なんて吹き飛ぶぞ。いいぞ筋肉は」
しかし、空気を読まずに、自慢げにパンプアップした上腕の筋肉を見せるパラス。
「授業中こっそり寝てた人に言われたくないよね」
ぼそっと毒を吐くベスタ。
「……(ギクッ)あれはな、筋肉に休息を取らせてたんだ」
「勉強から休息を取ってたように見えたけど……宿題も出たけど」
「大丈夫だ、筋肉がなんとかしてくれる」
「また校庭10周か……」
「それは……ご褒美だ」
「……さあさっさとご飯食べましょ」
パラスの話は、このままいつものようになんでも筋肉に戻ってしまいそうだった。もう眠くてしょうがないので、筋肉バカの相手はほどほどにして、さっさと昼食食べようと思うノアとパラスであった。
*
死んだ目で、黙々と食事をするノアのことはいったん放っておいて、僕は食堂の様子を眺めた。
魔法の杖を通して食堂の様子は鮮明な映像で確認することができた。
学食は広く、長いテーブルがいくつも並び、生徒たちが思い思いに食事をとっているようだ。
クラスメートや友達と食事をとっているのだろう。男女で分かれ、数人単位で集まって食事をしている。朝に貴族グループや商家グループで見た者が混じり合って食事をしていた。
校内では身分差を持ち込まない――建前ではあるが。
少なくとも、生徒たちはそれを疑いもせず受け入れているようだった。
しかし、
「セレスがいないとなんか寂しいな」
パラスが言う。
「今日はジュノー様と一緒に会食の日だね……しょうがないよ」
ベスタが窓の外を見ると、校庭の一角にテントが建てられ、豪華な椅子とテーブルが並べられて優雅なランチお茶会が開かれていた。
随分ときらびやかな集まりであった。
何でも、このアステラ魔法学院に多額の寄付をしている王太子の主催の昼食会ということで、太子本人はさすがに年に一回くらいしかこないのだが、後見人のマルス公爵が月例でこうやって有力貴族の子女を集めて会合を行っていたのだった。
着ているのは流石にみんなと同じ学院の制服なのであるが、なんかやたらとキラキラしたオーラが出ているのは盛りまくった髪型とか、さりげなくつけているアクセサリーが地味そうに見えて高価なものなのとかもあるが、幼い頃から染みついた所作が高貴そうな雰囲気を盛り上げているのだろう。
学院創設の志には、貧富や身分によらない魔術師の育成が挙げられているのだが……
結局は、遺伝要素の強い魔法の素質のあった家系の多くが貴族となっているうえ、良い家庭教師がついたりするので自然と貴族の学生が増えているようだ。
あとは財力も影響している。貴族でなくても、専門の家庭教師を雇えるような豪商の子供や、軍の幹部など、結局比較的裕福な層が入りやすくなっているようだ。
で、国家の要職についた卒業生の子供がまたこの学校に入る。
結果として、この学院の生徒層は偏っていった。
血統、財力、教育。
それらを持つ者が、より上へと進む構造が出来上がっていた。
となると、そんな人たちの子供を粗末で不快な寮に入れられない。
……と、学生寮も豪華になっていき、ノアのような一般人ではちょっと払えない寮費になってしまっていた。
おまけに卒業生の寄付で貴族の派閥や大商人の系列商家の子供専用寮なども作られて、いつのまにかそこに入れない学生は近くに下宿を見つけるのが普通になっていたのだった。
まあ、そんな境遇に不平をいうようなノアではなく……
むしろ、
「……セレス、あまり楽しそうじゃないな」
ノアは、ぽつりと呟やくのだった。




