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戦闘用AIの僕が異世界に転生したと思ったら、実は魔法使いの杖に接続していました  作者: 時野マモ
戦闘用AIの僕が異世界に転生したと思ったら、宿題を手伝わされました
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AIは少女と違和感に気づく

 火曜日は、何も変わったことがないように始まった。


 ノアは、いつものように、遅刻ギリギリまで寝ていてパンを咥えて走り出した。


 その姿を見て近所の散歩の老人たちは、


「ああ、もうこんな時間かねえ……」


 と時計がわりのノアを見て家に戻って行ったりした。


 だが……


「セレス、休みかな……」


 ノアが周囲を見回して言う。


 いつもなら、彼女はもう席に座っているはずだった。


「休みらしいぞ」


 パラスが肩を回しながら言う。


「珍しいね」


「体調不良だってさ」


「昨日おかしかったものね……でも……」


 ノアは眉をひそめる。


 あの真面目で責任感の強いセレスが、授業を休む。


 本当に体調が悪いのかもしれないが、それは入学してから初めてのことだった。


「昨日、帰りも少し変だったしな」


「変?」


 確かに思い当たることがあるノア。


「ぼーっとしてたというか……」


「……」


 ノアは黙る。


 確かに昨日、別れ際のセレスは――


 少しだけ、違和感があった。


 なにか、とても不安定な感じがした。


「まあ、たまにはあるだろ、具合が悪いくらい」


 パラスはあっさりと流す。


「……そうだよね」


 ノアは頷いた。


 納得はした。


 ただ、引っかかりは消えなかった。


 休日に一緒に行った王都の貧民街のことが、彼女の具合の悪さに影響していないわけはないと思うと……


 なんとも心が重くなった。


   *


 授業は、いつも通り進んだ。


 ホームルーム。


 魔術式の講義。


 魔素基礎理論。


 王国の歴史。


 錬金術の講義。


「ここ、試験に出るからね」


 プルトー教諭の穏やかな声。


 生徒たちの軽やかな返事。


 板書の音。


 ノアはノートを取りながら、ふと周囲を見る。


 極々普通の日だった。


 誰もが普通に授業を受けている。


 ただ――


 何か不思議な緊張感があった。


 昼休みになっても、その違和感は続いた。


 昼休み食堂に集まるノアたち三人。


 いつもなら笑いながら、とめどもなくおしゃべりをしながらの食事になるのだが……


 セレスがいないというのもあるが、それとは違うなんとなく重い空気があたりに満ちていた。


「今日なんか変じゃない?」


 ベスタが言った。


「やっぱりそう思う?」


 ノアも気づいていたようだ。


「うん。先生たちの様子がね」


「ピリピリしてるな」


「何かあったのかな」


 小さな不安が、言葉になって共有される。


 誰も理由は知らない。


 だが、三人ともが感じている。


 この違和感を。


「まさか、セレスのこと関係してるのかな……」


 ノアがぽつりと言う。


「なんでだ」


「さすが関係ないでしょ」


 ベスタはそう言ったが、その声も少しだけ硬かった。


   *


 一方その頃。


 職員室は、より緊張感にあふれていた。


「異常だ」


 アリアが短く言う。


 机の上には、簡単な報告書。


 セレスの夜間外出。


 発見時の状態。


 そして――


 セレスが部屋を抜け出した時のコレーの状況。


「ありえません」

 

 別の教師が言う。


「あの侍女が気づかないで、寝ているなど……」


「そうですね、あれ……コレーの正体を知っていたら……ありえないとわかります」


「ならば眠らされていたということですかな?」


「そうでしょう」


 アリアは頷きながら言う。


「偶然ではないと思います。それに最も気に食わないのは……」


「?」


「セレスを誘い出したことを隠す気もなく……見せつけるように彼女を置いて行ったことです」


「それが?」


「もう隠す必要がない……バレても構わないということです。それは、つまり、準備ができたと言うことではないでしょうか?」


「何の準備でしょうかね?」


 心配そうな表情を崩さぬまま、アムアが問いかけた。


「さあ……どちらにしても、私は、そいつを許しません」


 アリアは確信を持った目で、アムアを睨み見ながら言った。


「アリア先生怒りを買うなんて、私はそいつ(・・・)に同情しますよ」


「……」


 アリアは、何も答えずに無言で職員室を出るとそのまま校舎裏まで歩いていく。


 昨夜にセレスが倒れていた森の中。


「何かわかった」


「そうね……」


 そこにいたのは王都防衛魔術局第三班のフォンテーヌだった。


「最悪だわ」


 彼女の顔に余裕はなかった。


「何がだ」


「この現場に残っている魔力波動。確実にここにシングラが出現したわ」


「魔術局が気づかないのにか」


「ええ、でも魔術局は、別にシングラの検知をしているわけではないのよ。知ってるでしょ」


「ああ、シングラの発生する魔素のパターンを解析して予報しているだけだ、外すことのない予報だけどな」


「でも、その予報を掻い潜ってシングラが発生した。というか、今までの出現パターンにないシングラが現れ……」


「勝手に消えた?」


「そうかもしれないけど……勝手に(・・・)なのかしら?」


「というと……?」


「ともかく、学園は閉鎖して緊急体制よ。エンケたちもすぐにここに来るように連絡したわ」


「ここにまたシングラが現れるということか?」


「そんな予兆は全くないけれど……これは私のカンね、これは仕組まれているわ、誰かに」


「なるほど、意見が合うな。私もその仕組んだクソ野郎に心当たりがある」


「一緒に行きましょう。私ならその化けの皮を剥げるかもしれなくてよ」


 2人は、急いで学校に、いや職員室に――そこにいるアムアに向かって走る。


 しかし、それは、残念なことに、それは少しだけ間に合わなかったのであった。


   *


「なんだ、あれ?」


 食堂から見える校庭に十数人の少女が集まりつつあった、


 皆幸せそうな表情で、小躍りしながら歩いていた。


「あれ……セレスじゃないのか?」


 パラスが指差した集団の先頭には、今日学校を休んでいるはずのセレスがいた。


「具合が良くなった……わけないよね」


 どこか不自然な多幸感に満ちた、彼女の顔を見ながらベスタが言った。


「なんなんだろ、あれ……」


 校庭の中央で集団は止まった。


 半分くらいはアムア教諭が担任のクラスの生徒だったが、セリアをはじめ、他のクラスの女生徒も混じっていた。


 家が、貴族、商人、軍人……学年もばらばら、普段の接点も無さそうな不思議な集団だった。


 なにより、皆が虚な目をして、まるで何者かに操られてでもいるかのように、同じ動きをしていた。


 そして、全員が揃って礼をした後に、セレスが一歩前に出た。


 空気に、突然、蠱惑的で腐ったような甘い匂いに満ちた。


「私は魔法学院一年セレスティア・グラティア。皆様にはセレスと呼ばれております……」


 彼女は力強い、明るく――しかしどこか浮世離れしたかのような声で話し始めた。


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