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戦闘用AIの僕が異世界に転生したと思ったら、実は魔法使いの杖に接続していました  作者: 時野マモ
戦闘用AIの僕が異世界に転生したと思ったら、宿題を手伝わされました
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AIは少女と水をつくる

 あっという間の休日も終わり月曜日。


 昼食後の眠気が教室に満ちていた。


 食事の後は体を休めるようにと、人間の体にホルモンが分泌されるのはこの異世界でも同じようだ。


 寝不足なのに炭水化物(パスタ)をドカ食いしたりして血糖値が乱高下なんかしたら、寝落ちまっしぐらである。


 ノアのことなのだが。


「……」


 なんとか起きていようとする努力は認めよう。


 今にも机に突っ伏しそうになりながらも、中途半端なところで停止して、なんとか姿勢を保っていた。


 ただ、このままだと、ほどなく、机にだらしなく頭を押し付けて涎を垂らすことになってしまいそうであったが。


「……では、5時限目の授業は終わりにします。次の時間は実習なのでみなさん遅れないようにね」


 錬金術(アルケミー)担当のプルトー教諭の言葉でハッとなるノア。


「お。遅れません!」


 静かな教室に妙にテンションの高いノアの声が鳴り響く。


 今起きたことを知っているクラスメートたちから苦笑が漏れる。


 プルトー教諭は優しい笑みを投げかけながら、


「良い返事だねノアくん。……みんなも、よろしく頼むよ。君たちが遅れたら僕がアリア先生から文句言われるからね」


 もうちょっと生徒に厳しくても良いが「地獄に仏のプルトー先生」と生徒たちから言われている人格者は、教材をまとめると、目下の生徒にも一礼をしてから教室を出た。


 生徒たちは、最後の実習授業に移動しようと、騒がしくも整然と移動を始める。


「おい、ノア、実習だぞ。移動するぞ」


「あ……」


 パラスに言われてやっと今の自分の状態に気づき、顔を真っ赤にするノアなのであった。


   *


 今日の実習場は、校舎裏のちょっとした台地の上にあった。


 ここは元は小さな山があったのだが、生徒たちの実習の場所を作るために削られて作られた場所とのことであった。


 なので裏山実習上と呼ばれているとか……


 校舎の2階からつながる渡り廊下を通って、生徒たちは指定の区画に向かう。


 そこには、鬼が金棒を持って待っていた。


 ――ではなくて、アリアが魔法の杖をもってたっていたのだが、


「本日の課題は、水の生成クリエイト・ウォーターだ」


 担任にギロリと睨まれたら、生徒たちに騒ぐものはひとりとしていない。ノアの眠気もすっかり吹っ飛んだようだ。


「各自、いっぱいに水を溜めるまで演習を続けることとする。終わらないやつは帰れないと思え」


 生徒は各自1リットルくらいの小さめの桶を渡される。これいっぱいに水を溜めたら演習は終了ということのようだ。


 すると、結構きつい演習っぽいな。


 すでに、このクリエイト・ウォーターと呼ばれる魔法の解析を済ませていた僕は、この演習で消費される魔力と体力の値を正確に算定していた。


 これは――10キロくらい走るのと同じくらい疲れそうだ。


「各自位置につけ!」


 ともかく、演習開始だ。


 アリアの前につまれた桶を受け取った生徒たちは、互いに二十メートルくらいの間隔をとって、広い演習場いっぱいに広がっていった。


「始め!」


 生徒たちは一斉に実行形式に変換(コンパイル)済みの詠唱(コード実行)を開始する。


 魔法陣が桶の上に現れて、輝き、そこから……


「……少ない」


 水が数滴しかでなかった男子生徒が落胆したような表情で言う。


「こんなちょっと……」


 それよりは多いが、10mlくらいしか出なかった女子生徒が言う。


「はは、こんなの楽勝だぞ」


 悲壮な雰囲気の生徒たち中、ひとりだけ元気いっぱいなのはパラス。


 確かに、彼女は一回で50mlくらいの水を作り出している。


 これなら20回くらいで、桶をいっぱいにできる計算であるが……


「はあ……はあ……」


 6回目で、息をきらし、辛そうになるパラス。


 校庭何十周してもケロリとしている彼女でも、このへんが限界のようだ。


「良いか。クリエイト・ウォーターは力尽くでやるんじゃない。いかに魔力のスムーズな流れを作るかが肝心だ。見ろ!」


 アリアがお手本の詠唱をする。


 連続で何度も何度も行い、その度に魔法陣から水が流れ続ける。


 なるほど……


 僕はアリア教諭の魔法の解析を行い、彼女が何をやっているのかを確定する。


 そもそもクリエイトウォーターと言うのは、極々単純に言うのなら、空気中の水蒸気を結露させて水にする魔法だ。


 生徒たちは、空間の魔素に自身の魔力を注ぎ込み、現象に介入し、水への相転移をおこすというものだ。


 この制御には結構な魔力と精神力を使うため、少量の水なら簡単な魔法だが、多くの水を生成するのは、地味な割に難易度が高いもののようだ。


 アリアは単に力尽くで、現象に一回一回介入しているのではない。


 どうも魔素には、物質でいう慣性質量のような、力を、魔力を与えても動きにくい性質があるようだ。


 生徒たちは一回一回、魔法で現象に介入するため、魔素をゼロから動かしている。


 これでは魔力もすぐに尽き果てて、体力も疲労のため動けなくなる。


 しかし、アリアは、同じ詠唱をしているだけなのに、絶妙な魔力制御とタイミングにより、動き始めた魔素を止めないように渦巻を起こし、少量の魔力で大量の水を作り出していたのだった。


「どうしようアイビー。実は私、これ苦手なんだ」


 まだ詠唱を始めていないノアは不安そうに呟いた。 


 確かに――


 ノアは、魔力の容量が大きいわけでも、魔法を発動するための体力に優れているわけでもない。


 力技で無理やり魔素を動かしている現在のスキルでは、クリエイト・ウォーターとは相性が悪そうだ。


 でも、きっとこれは魔法の制御を学ぶための基礎訓練なのだろう。地道に魔素の制御を繰り返すうちに、アリアのような連続制御が意識せずともやれるようになるのを目指しているのだろう。


 ノアも魔術師を目指すならば、この訓練は辛くても言われた通りにやるべきなのだろう。


 でも……


「ノア。ちょっと僕の言う通りにやってももらえる」


「はい?」


 僕はキョトンとした様子のノアに指示をした。


「杖を空に向けて。狙うのは、あの低い雲だ」


「なにそれ?」


 今日はよく晴れた乾燥した日だったので、地表付近は結構乾燥していた。


 だから水蒸気も少ない。


 ゆえに、クリエイト・ウォーターで得られる水も少ない。


 でも、


「雲の中の水をもらってしまおおう」


「え、そんなのあり?」


 アリアがそう思うかどうか確かめてみよう。


「……詠唱開始して」


「もう知らないよ」


 僕はノアの詠唱により励起状態となった魔素を指向性の強いビーム状にして雲に向けて飛ばす。


 雲に到達した時に程よく広がっている魔素は、たっぷりと周りにある水蒸気に干渉して、水滴が次から次へとつくられて……


 そして魔法陣ともつれ状態にある魔素の起こした事象は、魔法陣に向かって戻ってきて……


「なんだ!」


 パラスの驚きの声と共に、ノアのバケツには、溢れてもさらに水が注がれ続けるのだった。


「……」


 それを見たアリアは難しい表情になると、


「禁止してなかった私が悪いか。まったくあの爺さんは孫に甘いのか……こんなずる教えやがって」


 と小さな声でつぶやくのだった。


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