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戦闘用AIの僕が異世界に転生したと思ったら、実は魔法使いの杖に接続していました  作者: 時野マモ
戦闘用AIの僕が異世界に転生したと思ったら、宿題を手伝わされました
20/35

AIは少女と市場に行く

 セレスには、着てきた偽ギャルファッションからノアの私服に着替えてもらった。


 ふわっとした麺素材の白いワンピースの上に薄手のセーターを羽織る。


 派手ではないが街歩きには十分に上品な様子だ。


 問題の縦ロールの髪についてはポニーテールにまとめてから帽子を被ればかなり目立たなくなった。


 着替えさせたノアは満足げだ。


「……おお。やっぱセレス何きても綺麗だね」


「そんな、私など優雅さのかけらもない田舎貴族で……」


「いやいや……」


 服装は普通になっても、セレスに普通人と違うオーラが出ているのはどうしようもない。


 これでも街で相当目立つのでは思われる……


 が、さっきのギャルファッションよりは百万倍マシであった。


 もちろん、もっと良いコーディネイトはないかまだまだ悩むことはできるが、


「まあ、これで良しとして、じゃあ、出発しますか」


 と、危うく大惨事になりかけたセレスの街歩きは、無事にスタートすることができたのだった。


 そして、2人はキャッキャいいながら、酒場オールトから歩き始めるのだが、


「……(ジー)」


 僕は、彼女達の後ろで物陰に隠れて、こっそり恨めしそうなジト目で見つめるメイド姿の女性に気づいていた。


 ああ、あれが侍女のコレーなのかな?


 このまま2人をつけてくる気のようだが、別にそれでも問題ないだろうから、放っておくことにしよう……


   *


 酒場オールトがある通りから王都の繁華街までは、歩いて20分ほどだった。


 途中は住宅地や商家の本店が多いビジネス街、王城を中心とした行政区などを抜けて、少し雑多で猥雑であるがエネルギーに満ちた王都の中央市場に至る。


 石畳の上を行き交う人々。


 荷車の軋む音。


 行商人の呼び声。


 屋台から漂ってくる、焼けた肉の匂いと、香辛料の刺激的な香り。


 街の躍動が感じられる場所であった。


 王都の中心で脈うち、人々を引き寄せ、送り出す。


 まさしく心臓部というにふさわしい場所であった。


「……」


 セレスは、そのすべてを見逃さないようにするかのように、視線を動かしていた。


 人の表情。歩き方。


 店の並び。商品の配置。


 一つ一つを、まるで頭の中に刻み込むかのように観察している。


「セレス、そんなにキョロキョロしてると怪しいよ」


「そ、そうでしょうか……」


 ぴたりと動きが止まる。


「もう少し自然に……」


「自然……」


 難しい顔になる。何が自然かと言われても、自然なのが自然としか言いようがないので、考えれば考えるほどわからなくなってしまうようだ。


「まあ、慣れだよ。私も森から出てきた時は王都に面食らったけど……なんか慣れた気がする」


「はい、私も一年以上いますのに……努力いたします」


 いや、努力というより本当に慣れなのだと思うが、根が真面目なセレスはなかなか力を抜けない。


 それでなくても目立ちそうな少女2人なのに、ぎこちなく動くセレスが余計に注目を浴びている。


「もうちょと奥に行ってみようよ」


「はい」


 その場から逃げるように先に進む2人なのであった。


   *


 市場の奥に行くと、あたりの熱気はさらに増した。


 肉屋の前には赤い塊が並び、魚屋では氷の上に銀色の魚が光っている。野菜の山、果物の籠、香辛料の袋。


 様々な色彩が目の前を流れていった。


 セレスはそんなあたりの様子をますます真剣に見ているのだが、


「お、ノアちゃんじゃないか」


「あ、ジャコおじさん」


 呼ぶ声にノアが振り返れば、後ろの屋台の串焼き屋の男性がにこやかに笑っている。


「今日は買い出しじゃなさそうだね……横はお友達かい?」


「はい、学校の同級生です」


「なら、魔法学院の生徒か。頭良いんだな……将来偉くなったらおじさんのこと思い出してくれよ」


「はい……?」


「おじさん、セレスは偉くなってもエコ贔屓なんかしないんだよ。すごい良い子なんだから」


「おお。ノアちゃんがそんあ信頼する子なら、ますます有望だな……はい、これ先行投資の牛串。賄賂だよ」


 と言いながらジャコおじさんは2人に大きな串焼きを手渡してくる。


「ええ……」


「はは、冗談だよ。気にしないで、それあげるから食べながら市場見てまわりな」


「ありがとうジャコおじさん。オールトにきたらサービスするようにハレーおばさんに言っておくね」


「おお。ありがとうな。じゃあ、気をつけてな」


「うん」


 一礼して、受け取った串焼きをセレスに渡してから、ノアは屋台に向いて手を振る。


「美味しい」


 早速串焼きを食べてみたセレスがびっくりして言う。


「そうでしょ。おじさん良く売れ残った串焼きを(オールト)に持ってきてくれるんだけど……ああ、やっぱり出来立ての方が美味しいな」


「……晩餐会とかでも出てこない味です」


「それはそうだよ。さすがに貴族が食べるような味では……」


「いや、美味しいですよ。びっくりしました。晩餐会では見栄えばっかり気にしてスカスカの料理が多いのですが、これはジューシーでふっくらとして……」


「なるほどセレスは意外なもの食べたことないのかな? じゃああれはどうかな」


 ノアが指差した先にはジェラート屋の看板が。


「氷菓ですか? デザートにはまだ早いのではないですか」


「デザートとか考えずに、ちょこっとづづ食べ歩くんだよ」


「そうなんですか……」


 なんとなく釈然としていない様子のセレスであったが、ノアに連れられてジェラートを買って、


「美味しい!」


 飛び上がらんばかりに喜ぶ。


「濃厚でしょ。この店は量もすごいし」


「はい、食べ切れるのでしょうか?」


「たぶん余計な心配だと思うけど……」


 ノアの言う通り、セレスは一心不乱に食べ始め、


「え?」


 あっという間にジェラートをコーンごと食べ切ってしまうセレス。


「あら、ノアちゃん」


 後ろからまたノアを呼ぶ声。


「シューさん、こんにちは」


「今日は買い出しかい? 良いのあるよ」


 ずらりと魚を並べた店の奥から白髪のお爺さんが声をかけてくる。


「あ、違うんです。今日は街にぶらぶらしにきていて」


「ん? そうなの……あ、そちらお友達かい」


「ごきげんよう。シュー様。私はセレスといいます」


「ごきげんよう……? もしかしてお嬢様かい。あ、魔術学院の生徒か」


「私もそうなんだけど」


「ああ、そうだったねノアちゃん。でも、ノアちゃんはお嬢様というより……」


「あら、ノアちゃん」


 シューという老人と話し込んでいるところに、


「ボレリーおばさん」


 ノアが振り向いて言う。


「寝坊助のノアちゃんにしては随分早く市場に来たね」


「それは……」


 ちらりとセレスを見るノア。


「友達に起こされたのかな?」


「私だっていつも遅いわけじゃないんだよ」


「つまりたまにしか早起きしないと……」


「テンペルさん」


「ノアちゃんおはよう……じゃないなこんにちわ。そろそろ新しい皿がいるころじゃないかってハレーおばさんに言っといてな……」


「はい」


「じゃあな」


 ノアににっこりと微笑むと、たまたま通りすがりだったらしいテンペルさんはそのまま市場のさらに奥に歩いていく。


 手を振ったノアが振り返ると、


「はい、ノアちゃん。まだお腹の余裕があるよね」


 ポレリーおばさんが茶色い紙に包んだミートパイを渡してくる。


「ありがとう、これ大好物なんだ、セリアも一緒に食べよう……あ」


「もちろん2個包んでおいたよ」


 にっこりと笑うおばさんに、


「「ご厚意、まことにありがたく存じ……あ、ありがとうございました」


 慌てて貴族口調を取り繕うセリアに気にしないでと首を振ってから、


「お口に合うと良いけど……じゃあね、ノア」


 ポレリーおばさんは近くの屋台まで戻るのだった。


 その後も……


 ノアが何もせずとも、次々に集まってくる市場の人たち。


 いつもハレーおばさんのつかいで市場への買い出しをしていたり、酒場の常連になっていてくれたりする人が多いのものあるが、やはりノアの人柄ゆえなのではないだろうか。


 そんなふうに思える周りの人々の笑顔であった。


 笑顔がが笑顔を呼び騒がしい市場の中に、とても……


「あたたかい……」


「ん、そうかな、でも冷えても美味しいよねこのパイ」


 何か深く感銘を受けているようなセレスと、まずは食欲に負けて他のことを考えられないでいるノアなのであった。


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