AIは少女と級友の姿に驚く
朝……というかもうそろそろ昼も近くなってきた頃、
「ノア! 起きてるのかい」
下の階からハレーおばさんが呼ぶ声がする。
だが――
「……すう」
昨日の夕方から眠り続けているノアはピクリともしない。
もう15時間くらい寝ているのでは。
いや……もっと寝てるかな。
「いいよ……直接行って起こしちゃいな」
「はい」
そんな会話が聞こえた後に階段を誰かがのぼる音。
ノアの部屋の前で止まり、ノックする音。
「ノア」
「……ん」
ノアの薄目が開く、
「起きてますか」
「セレス? あっ」
ベットから飛び起きるノア。
枕元の目覚魔示時計を見る。
1時間前に鳴ったベルを、ノアは無意識に止めていた。
「こんな時間……待って、すぐ支度する!」
そのままうたた寝しているうちに、一緒に街に行く約束したセレスがもう着いてしまったのだった。
慌ててパジャマから着替えを始めるノア。
「何で……」
恨めしそうな顔で、起こしてくれなかったことを咎めるように杖の事を見るノアであったが……
まあ、僕は目覚まし時計ではないし、起こすように頼まれたわけでないし……
それに、ノアは目覚まし時計を自分で止めたのだ。
つまり、純粋に本人の意思である。
その上、目覚ましを止めた後には、観測の結果、非常に質の良い睡眠状態に移行していた。
ならば、二度寝はノア本人の合理的な選択か? そうだ。
なので僕も介入を控えたというわけであったが、
「ノア? 大丈夫?」
「あ、大丈夫。今出るから」
その結果がこのバタバタであった。
「アイビー、今後私寝坊しそうなら必ず起こしてね。私がなんと言っても、起きなかったら失敗だと思って」
まあ、そう言われてしまえば、今後は起こさざるを得ないが、
「ノア? なんか言いましたでしょうか?」
「いえ、違って……もうちょっとだから……すぐ出るよ」
と言っているうちに着替えがすんだノアは、鏡で服装のチェックをした。
今日は街歩きなので制服ではなく青いシャツに白いスカート、それに実は結構貴重な魔獣の皮のジャケット。
おじいさんから、街に住むならこれを着とけば良いと行って渡された仕立ても随分と良い服であった。
派手すぎずちゃちにも見えない絶妙なセレクトであった。森の中の世捨て人にしては随分センスが良い。これなら今日の街の散策でも可愛らしい少女がきちんとした格好で歩いていると思ってもらえそうだ。
ノア的にこれでよしと判断したのかドアに向かい、
「セレス、ごめんね。寝坊してて……え?」
部屋の前にいる、街で悪目立ちしそうなギャルファッションの少女に唖然としてして言葉を失うのであった。
*
伝統ある子爵家のご令嬢セレス。
その姿は、いつもの彼女とはまるで違っていた。
帽子を深くかぶり、特徴的な縦ロールは完全に隠されている。
でも無理やり押し込めたのか、ところどころ不自然に膨らんでいて、妙なパンパンなシルエットになっている。というか、飛び出た髪のカール具合もあり、レゲエの人っぽい感じだ。
この世界にレゲエはないと思うが。
着ているのも、貴族の着るようなドレスではなくて庶民風のシャツとスカートだが、何をどう間違えたのか蛍光色の布地に、キラキラの金のラインが入っている、派手派手な服だ。ただ、布地や縫製ががどうにも上質で、服のシルエットもフォーマルっぽい。
ギャルにしては上品すぎる。
いやこの世界にギャルがいるのかまだ学習できていないが……
なにより、派手なアイシャドウと金ラメで飾った顔が、真面目で実直そうなセレスに壊滅的にチグハグだ。
「……ノアさん、ごきげんよう」
口調だけは、いつも通りのお嬢様だった。
「……」
ドアを開けたまま固まるノア。
「あ、この格好でしょうか?」
「……(うんうん)」
激しく頷くノア。
「今日は街に出ますと言いましたら、貴族とわかる格好で行ったら街で浮きますよと、コレーに言われて」
「コレーさんが選んで……この格好になったの?」
「はい?」
コレーとはセレスの侍女のようだ。
侍女として優秀かどうかについて、僕は情報をもたないが、
「……ちょっと、中に入って。着替えよう」
侍女のファッションセンスにはかなり問題がありそうであった。




