AIは少女と飲み会に参加する
「今日は災難だったな」
すでに、エンケたちと同じテーブルに座り、すでにエールを手にしていたアリアが言った。
「……はい?」
ノアは一瞬固まった。
そりゃ、今日は大変だった。もっと言えば昨日も大変だった。
異世界からの接続者が杖に入ってから、ノアの日常に変化がありまくりだった。
シングラが現れたのは流石に偶然だと思うが、思い返せば……
宿題を手伝ってこの正解の術式のレベル超えさせてしまったり、ファイヤボールの術式の改良をしたり。
クイニーアマンを作ったり――は流石に気にされてないかもしれないが、昨日のシングラの波動を対消滅させたのは目の前で見られていた。
アリアはノアの変化に気づき――疑っているのかもしれない。
それが何? なのかはわからなかったが……
「嬢ちゃんの目の前にシングラが現れたんだって? あ、そこに座りな……」
エンケはすでに今日の出来事をアリアから聞いていたようだった。
言われるままにノアはアリアの前の席に座る。
「ハレーさん、いいよな? 嬢ちゃんはもう俺らの客人だから、働かなくても」
「もちろんさ。でも、ノアの分ももちろんあんたらが払うんだよ」
「当たり前だろ……で何が飲みたい」
「じゃあ……」
「薄めのエールにしておくよ……ノアはこの後宿題もあるんだし」
ハレーおばさんが、ノアの前に陶器のジョッキを置く。
日本でなら高校生の年齢でアルコールをのむのかとなるところだが、地球でもヨーロッパなど結構緩い地域もある。この中世風異世界ならば、水よりも安く安全な飲み物として10代が飲んでいてもおかしくない。
まあ、地球の乃愛のように、グデングデンになるまで飲んで遅刻して来るのは辞めてほしいが。
「いただきます……?」
アリアだけでなく、ノアのことを大人五人がじっとみているようだった。
緊張して、少し冷や汗をかくノアだったが、
「いやあ、しかし無事で良かったな」
エンケの言葉と共に全員の緊張が緩んだような気がした。
「いや、普通はシングラと直面したら恐怖で二、三日動けなくなるものなのよ」
フォンテーヌが優しい笑みを浮かべながら言った。
「そうなんですか……」
ノアは意外そうに言った。
「大物ですね……僕なんて最初にシングラを見た時は、その場から動けなくなって仲間に大迷惑をかけたのですが……」
パーカーが感心したような表情でいう。
「俺もな、強がっていたが足が震えていたぜ」
タットルも驚いているようだ。
「まあ、物を知らないから何が怖いかわからないというのもある……ノア」
アリアが何かを探るような口調で言った。
「今日は運が良かったな……シングラの攻撃がちょうど消えて」
「あ、はい……助かりました」
「……運が良いんだな」
その言葉に、ノアの背筋がわずかに強張る。
運。
そう言っているが――
絶対「運」じゃないと思ってそうなアリアだった。
今日、わざわざノアの下宿までやってきたのは、このことを探りにきたのだろう。
さすがに僕の存在に簡単に辿り着けるとは思えないが……
「それは……」
動揺したノアが挙動不審な感じになって……
余計なことを喋らなければ良いが、
「しかし、アリアが教師だなんてほんとびっくりだな」
ちょうど良い助け舟をタットルが出してくれた。
どうやら彼はアリアと知り合いのようだが、
「え、タットルさん、アリア先生と知り合いなんですか?」
ノアが驚いていう。
「お、やっぱりアリアは言ってないのか? 宮廷魔術団のこと」
宮廷魔術団?
「俺らは一緒に、宮廷魔術団で働いていたことがあってな……」
「エンケ、その話は生徒の前でするな」
「いいじゃないか、どんな教師なのかわからないとノアちゃんも不安だろ」み
エンケはそのまま、このメンバーの過去のつながりを話し始める。
アリアは教師になる前に2年ほど宮廷魔術団にいたことがあるようだった。
フォンテーヌとは魔術学院高等部(日本だと大学に当たる場所か)での同級生でもあり、他の三人とも部署が近く交流があったそうだ。
「でも、今はみんな魔術団には……」
「おっと、大人の事情には口挟まない方がよな嬢ちゃん」
エンケが口に指を当てて言う。
「魔術団のほうでも、戻ってくると言ってもお断りだろうがな」
アリアの言葉に全員が笑う。
どこがツボだったのかわからないが、とりあえずノアは愛想笑いをする。
「まあ、こちらもお断りだな……あの頃にもどりたくはないな。ひどかったからな」
タットルが苦笑しながら言う。
「本当にそうだわ」
「戻りたくないですね」
「なんど死ぬかと思ったな確かに」
エンケが遠い目になる。
「実際何人か死にかけてたな」
アリアが頷きながら言う。
「いったい……何があったんですか?」
ノアが恐る恐る聞く。
少しの沈黙。
そのあと、
「指導だな」
エンケが言った。
「指導……?」
「ああ。非常勤でたまにやってくる先輩にとんでもないのがいてな」
「鬼だったな」
しみじみとタットル。
「あれは、人間の形してただけでシングラより危険だったわ……」
フォンテーヌは思い出してゾッとしたような顔。
「だから、シングラ退治の仕事に転職したのか?」
アリアの問いに、
「まさか、そんなわけないが」
エンケの笑顔が一瞬消えて、
「……お前も、そうなんだろ」
「ああ、怖いので学生を育てることにした」
互いにうなづきあう元同僚達なのであった。
*
酒は進む。
話題は、どうでも良いような馬鹿話ばかりで、アリアもノアに別に話しかけるでもなく、時々……
僕に――杖に注目しているようだ。
どうも、他の4人も時々杖を見ているが、
「……?」
ノアもそれに気づいたようだ。
「祖父からもらった杖だったな」
「はい?」
「いや、なんでもない」
アリアは何を言いたかったのか。
ただじっと杖を見ている。
「この杖を見ると思い出すな……」
「?」
エンケも杖が気になるようだ。
「あ、嬢ちゃんは気にしなくて良い」
「ちょっと見させてもいらって良いかしら」
フォンテーヌが杖に手を当てて、何か走査の魔法をかけてくる。
規則的に魔素が杖の内部を探っているようだ。
特に魔石の状態を綿密に確認して、
「違うみたい」
と言った。
「……なるほどな」
アリアがちょっと安心したような表情で言った。
「じゃあもっちょっと飲むか」
エンケがハレーおばさんに酒のおかわりを頼むのであった。
*
どれくらい時間が経ったのか。
もうやめよう、もうやめようと言いながらも酒はだいぶ進んでいた。
ノアは話の内容は、半分も理解できていないように見える。
だが、ひとつだけ、僕にも、多分ノアにもはっきりわかっていことがある。
この人たちは、
「ノア」
アリアが呼ぶ。
「はい」
「……」
一瞬、間があった。
アリアは、
「だいたい理解したぞ」
「……え?」
じっとノアの顔を見る。
「……」
何を、とは言わない。
アリアは立ち上がる。
「帰る」
「はい?」
「用は済んだ」
それだけ言って、店を出ていく。
残されたノアは、しばらく呆然としていが、
「俺達のことは信用して……頼れ」
なるほど、それは、エンケの言う通りなのであった。




