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戦闘用AIの僕が異世界に転生したと思ったら、実は魔法使いの杖に接続していました  作者: 時野マモ
戦闘用AIの僕が異世界に転生したと思ったら、宿題を手伝わされました
16/20

AIは少女と飲み会に参加する

「今日は災難だったな」


 すでに、エンケたちと同じテーブルに座り、すでにエールを手にしていたアリアが言った。


「……はい?」


 ノアは一瞬固まった。


 そりゃ、今日は大変だった。もっと言えば昨日も大変だった。


 異世界からの接続者(ぼく)が杖に入ってから、ノアの日常に変化がありまくりだった。


 シングラが現れたのは流石に偶然だと思うが、思い返せば……


 宿題を手伝ってこの正解の術式のレベル超えさせてしまったり、ファイヤボールの術式の改良をしたり。


 クイニーアマンを作ったり――は流石に気にされてないかもしれないが、昨日のシングラの波動を対消滅させたのは目の前で見られていた。


 アリアはノアの変化に気づき――疑っているのかもしれない。


 それが何? なのかはわからなかったが……


「嬢ちゃんの目の前にシングラが現れたんだって? あ、そこに座りな……」


 エンケはすでに今日の出来事をアリアから聞いていたようだった。


 言われるままにノアはアリアの前の席に座る。


「ハレーさん、いいよな? 嬢ちゃんはもう俺らの客人だから、働かなくても」


「もちろんさ。でも、ノアの分ももちろんあんたらが払うんだよ」


「当たり前だろ……で何が飲みたい」


「じゃあ……」


「薄めのエール(やつ)にしておくよ……ノアはこの後宿題もあるんだし」


 ハレーおばさんが、ノアの前に陶器のジョッキを置く。


 日本でなら高校生の年齢でアルコールをのむのかとなるところだが、地球でもヨーロッパなど結構緩い地域もある。この中世風異世界ならば、水よりも安く安全な飲み物として10代が飲んでいてもおかしくない。


 まあ、地球の乃愛(ノア)のように、グデングデンになるまで飲んで遅刻して来るのは辞めてほしいが。


「いただきます……?」


 アリアだけでなく、ノアのことを大人五人がじっとみているようだった。


 緊張して、少し冷や汗をかくノアだったが、


「いやあ、しかし無事で良かったな」


 エンケの言葉と共に全員の緊張が緩んだような気がした。


「いや、普通はシングラと直面したら恐怖で二、三日動けなくなるものなのよ」


 フォンテーヌが優しい笑みを浮かべながら言った。


「そうなんですか……」


 ノアは意外そうに言った。


「大物ですね……僕なんて最初にシングラを見た時は、その場から動けなくなって仲間に大迷惑をかけたのですが……」


 パーカーが感心したような表情でいう。


「俺もな、強がっていたが足が震えていたぜ」


 タットルも驚いているようだ。


「まあ、物を知らないから何が怖いかわからないというのもある……ノア」


 アリアが何かを探るような口調で言った。


「今日は運が良かったな……シングラの攻撃がちょうど(・・・・)消えて」


「あ、はい……助かりました」


「……運が良いんだな」


 その言葉に、ノアの背筋がわずかに強張る。


 運。


 そう言っているが――


 絶対「運」じゃないと思ってそうなアリアだった。


 今日、わざわざノアの下宿までやってきたのは、このことを探りにきたのだろう。


 さすがに(アイビー)の存在に簡単に辿り着けるとは思えないが……


「それは……」


 動揺したノアが挙動不審な感じになって……


 余計なことを喋らなければ良いが、


「しかし、アリアが教師だなんてほんとびっくりだな」


 ちょうど良い助け舟をタットルが出してくれた。


 どうやら彼はアリアと知り合いのようだが、


「え、タットルさん、アリア先生と知り合いなんですか?」


 ノアが驚いていう。


「お、やっぱりアリアは言ってないのか? 宮廷魔術団のこと」


 宮廷魔術団?


「俺らは一緒に、宮廷魔術団(あそこ)で働いていたことがあってな……」


「エンケ、その話は生徒の前でするな」


「いいじゃないか、どんな教師なのかわからないとノアちゃんも不安だろ」み


 エンケはそのまま、このメンバーの過去のつながりを話し始める。


 アリアは教師になる前に2年ほど宮廷魔術団にいたことがあるようだった。


 フォンテーヌとは魔術学院高等部(日本だと大学に当たる場所か)での同級生でもあり、他の三人とも部署が近く交流があったそうだ。


「でも、今はみんな魔術団には……」


「おっと、大人の事情には口挟まない方がよな嬢ちゃん」


 エンケが口に指を当てて言う。


「魔術団のほうでも、戻ってくると言ってもお断りだろうがな」


 アリアの言葉に全員が笑う。


 どこがツボだったのかわからないが、とりあえずノアは愛想笑いをする。


「まあ、こちらもお断りだな……あの頃にもどりたくはないな。ひどかったからな」


 タットルが苦笑しながら言う。


「本当にそうだわ」


「戻りたくないですね」


「なんど死ぬかと思ったな確かに」


 エンケが遠い目になる。


「実際何人か死にかけてたな」


 アリアが頷きながら言う。


「いったい……何があったんですか?」


 ノアが恐る恐る聞く。


 少しの沈黙。


 そのあと、


「指導だな」


 エンケが言った。


「指導……?」


「ああ。非常勤でたまにやってくる先輩にとんでもないのがいてな」


「鬼だったな」


 しみじみとタットル。


「あれは、人間の形してただけでシングラより危険だったわ……」


 フォンテーヌは思い出してゾッとしたような顔。


「だから、シングラ退治の仕事に転職したのか?」


 アリアの問いに、


「まさか、そんなわけないが」


 エンケの笑顔が一瞬消えて、


「……お前も、そう(・・)なんだろ」


「ああ、怖いので学生を育てることにした」


 互いにうなづきあう元同僚達なのであった。


   *


 酒は進む。


 話題は、どうでも良いような馬鹿話ばかりで、アリアもノアに別に話しかけるでもなく、時々……


 僕に――杖に注目しているようだ。


 どうも、他の4人も時々杖を見ているが、


「……?」


 ノアもそれに気づいたようだ。


「祖父からもらった杖だったな」


「はい?」


「いや、なんでもない」


 アリアは何を言いたかったのか。


 ただじっと杖を見ている。


「この杖を見ると思い出すな……」


「?」


 エンケも杖が気になるようだ。


「あ、嬢ちゃんは気にしなくて良い」


「ちょっと見させてもいらって良いかしら」


 フォンテーヌが(ぼく)に手を当てて、何か走査の魔法をかけてくる。


 規則的に魔素が杖の内部を探っているようだ。


 特に魔石の状態を綿密に確認して、


「違うみたい」


 と言った。


「……なるほどな」


 アリアがちょっと安心したような表情で言った。


「じゃあもっちょっと飲むか」


 エンケがハレーおばさんに酒のおかわりを頼むのであった。


   *


 どれくらい時間が経ったのか。


 もうやめよう、もうやめようと言いながらも酒はだいぶ進んでいた。


 ノアは話の内容は、半分も理解できていないように見える。


 だが、ひとつだけ、僕にも、多分ノアにもはっきりわかっていことがある。


 この人たちは、


「ノア」


 アリアが呼ぶ。


「はい」


「……」


 一瞬、間があった。


 アリアは、


「だいたい理解したぞ」


「……え?」


 じっとノアの顔を見る。


「……」


 何を、とは言わない。


 アリアは立ち上がる。


「帰る」


「はい?」


「用は済んだ」


 それだけ言って、店を出ていく。


 残されたノアは、しばらく呆然としていが、


「俺達のことは信用して……頼れ」


 なるほど、それは、エンケの言う通りなのであった。


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