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戦闘用AIの僕が異世界に転生したと思ったら、実は魔法使いの杖に接続していました  作者: 時野マモ
戦闘用AIの僕が異世界に転生したと思ったら、宿題を手伝わされました
13/16

AIは少女とシングラに遭遇する

 午後の最後の授業が終わり、今日もまたノアの学校での1日は終了した。


「つかれた……」


 ノアは大きく伸びをしながら校門へと歩いていく。


 今日も他のクラスメイトは部活や社会貢献などに向かった。


 いつものようにひとりぼっちとなったノアであったが……


 目の前の校庭では、様々な活動がおこなわれていた。


 準備運動。素振り。走り込み。ヨガっぽい体操。


 演劇の発声訓練や、何部だかわからないが大道芸をしている集団もいる。


 路上ライブを始めたチャラそうな男子バンドの周りで黄色い歓声を上げている女生徒もいた。


「みんな元気だなあ……」


 ノアは少しだけ立ち止まって生徒たちの課外活動の様子を眺める。


 ほんの一瞬、ちょっとだけ、羨ましそうな表情が浮かぶが、誰にも気づかれないようになのか、それはすぐに消える。


「……まあ、いいや」


 軽く首を振り、ノアが歩き出そうとした、その時だった。


「――みんな下がれ!」


 鋭い声が空気を裂いた。


 振り返ると……アリアだった。


 授業では一度も見たことがないような焦った顔をしていた。


 明らかに異常事態だった。


「お前ら、後ろに下がれ! 校庭中央から離れろ!」


 ただ事ではない様子だった。


 校庭の生徒たちにざわめきが広がる。


「シングラが出現する」


 その一言で、空気が凍った。


 通常、シングラは事前の魔力の乱れで検知される。


 つまり発生予測が可能だ。


 王都にメッシュ状の監視網が敷かれ、発生予測と同時に専門部隊が出動する仕組みだった。現地での異常が微小で出現する前から、王都に網の目のように密に設置された魔石(センサー)からの情報を解析し、出現兆候を判定する。


 このやり方は、空間異常から特異点(シンギュラリティ)を検知する地球の方法とほぼ同一であった。


 そして、同じように――異常がシングラとして現れる前に異常を収束、もしくは被害が出る前に排除をする……


 はずの……


 この場にシングラ処理班の魔法団はまだ来ていなかった。


「なぜ、検知が遅れた……!」


 アリアが吐き捨てるように言う。


 何らかの理由で検知が遅れ、シングラ出現に対処班は間に合わないようだった。


 なので、専門処理班の到着まではアリアが対処するようだ。


「……来るぞ!」


 アリアの言葉と同時に、杖のセンサーも空間の魔力異常を検知した。


 彼女の前20メートル程で異常な魔力構造パターンが出現した。


 僕はノアに指示を伝えた。


「ぼうっとしていないで後退してください」


「あ……そうだ」


 慌てて走り出すノアだが、


「いや違う……? 止まって!」


 僕は、指示を急遽修正した。


「ポイントが移動した?」


 同じようにシングラの出現位置の変更に気づいたアリアが振り向き走り出す。


 ノアのすぐ目の前の空間が、裂けた。


 校庭の中央で、何もないはずの場所が歪み、黒い裂け目が広がる。


 そこから――


 シングラが現れた。


 昨夜と同じ。


 人の形をしているが輪郭が流動的で、不安定だが……速い。


 シングラは地面を“削りながら”滑るように移動する。


 石と土が、音もなく抉れる。


 キィィィィン――


 耳を刺す、電子音のような異音が響く。


 ノアが逃げるまもなくシングラが近づく。


 僕は、慌てて、対抗する魔力波動の準備にはいるが……


「――私の子供たちに手を出すな」


 空中を踏み、コマ送りのように空間を移動してきたアリアが間に割り込む。


 彼女がシングラと衝突した瞬間に、爆発のような衝撃音が発生した。


 ノアは思わず尻餅をついた。


「……これが噂の新型か?」


 アリアが十メートルほど吹き飛んだシングラに向かって移動しながら言う。


 シングラもアリアを認識しているのか、柔道家のように手を前にだした構えをとりながら、ゆらゆらと揺れていた。


 アリアは高速で詠唱し、連続で光の礫を打ち込む。


 穴だらけになるシングラ。


 だが、断面が揺らぎ……


 元に戻る。


「……まだ因果を断てないか」


 アリアが舌打ちする。


 再び交錯。


 斬撃。


 爆裂。


 圧縮魔力。


 しかし、シングラは崩れては戻る。


 崩壊と再構成を繰り返す。


「厄介だな……」


 アリアが距離を取る。


「そろそろ討伐部隊も到着するだろうが……」


 小さく笑う。


「手柄を持っていかれるのも癪だな」


 呼吸を整える。


「宝剣が効いたということは……原始的な魔法なら通るのか」


 アリアの魔力が収束する。


 深く、重い。


 空気が震える。


「――原初術式展開《Primal Origin Invocation》」


 根源魔法。


 世界の構造そのものに干渉する術。


 その準備に入る。


 しかし、その間、アリアは防御に徹する。


 シングラが、攻める。


 高速。


 連続。


 アリアはそれを、最小動作でいなす。


 だが。


 一瞬。


 ほんの一瞬――


 彼女の防御の隙をシングラは逃さなかった。


 アリアでなく、その守る者(ノア)へ標的を変更。


 シングラの魔素が収束。


 魔力波動が膨れ上がる。


「逃げろ!!」


 アリアが叫ぶ。


 だが、音速で近づく波動を避けるには近すぎる。


 ならば、


「ノア、詠唱を」


「え――」


「今です」


 思考加速。


 演算展開。


 位相反転。


 干渉開始。


 ノアの口が、自然に動く。


 言葉にならない式。


 だが、構造は成立する。


 シングラの放った波動。


 それと逆位相の干渉が杖から放たれる。


 ぶつかる。


 互いに反対に揺れて……


 消滅。


「……!」


 シングラはいがいそうな様子で呆然と一瞬静止する。


 その時。


「――もう遅い」


 アリアの詠唱が完了する。


 魔法陣が展開。


 重層構造。


 因果固定。


 そして、


「断ち切る――絶対零(アブソリュート)


 無数の魔法陣から一点に向けて放たれる魔素の奔流。


 世界の構造ごと因果を断つ一撃でった。


 さすがに――シングラが、歪む。


 崩れる。


 再構成しようとする。


 だが――


 今回は、戻らない。


 なぜなら戻るべき因果は消えた。


 空間ごと戻るべき時空がないのだ。


 シングラは次第に散り散りになり……


 完全に消えた。


 静寂。


 土煙がゆっくりと落ちる。


 誰も、動けない。


 アリアは、校庭の中央に立っていた。


 ゆっくりと息を吐く。


 そして、


 難しい顔をする。


「……なんだこれは」


 その重い一言が、静かな校庭に響き渡るのだった。

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