AIは少女と授業を受ける
朝。ノアは、昨日ほどではないが、やはりぎりぎりで登校した。
違いがあるとすれば、パンではなくクイニーアマンをくわえて走っていたことくらいだ。
ちなみにクイニーアマンは酒場で大好評だった。
飲みに来ていた親父たちが土産に買って帰っただけでなく、ラーラの働くネビュラ商店の口利きで、商店や食堂にも卸されることになった。
ラーラは首になるどころか、逆に褒賞が出るかもしれないらしい。
まあ、それはともかく、無事に学校にたどり着いたノアは、1時限目、2時限目、3時限目と眠気に襲われることもなく持ちこたえ……
四時限目。
アリア・アレグロの授業が始まった。
「今日は魔法理学についての続きだ」
彼女が人睨みしただけで、休み時間の喧騒を引きずっていた教室は、またたく間に静かになった。
「まず確認しておくが、魔法とは何だ? なるべくシンプルに答えてみろ」
アリアの問いに、数人の手が上がる。
指名されたエルミスが立ち上がった。
「空間に満ちる魔素が、物質や現象に干渉する現象のことです」
「そうだ。少し付け加えて言うならば、規則的で再現性のある干渉だな」
アリアは黒板に円と線で簡潔な図を描く。
「では魔術とはなんだ」
先程より少ないが、数名の生徒の手が上がる。
今度はセレスが指名された。
「魔素の基本性質を理解して、論理的に、構造的にそれを組み立てて、魔法を制御する術を作ることです」
「なるほど……それで全部か……魔法使いは新しい魔法作り出す時には、みんなそうやって作り出すのか?」
「それは……」
自信なさそうに黙ってしまうセレス。
「いや、まだ答えられなくても良い……というよりも、この問題は専門の研究者たたちのあいだでも結論が出ていない問題なのだ。ただしひとつ言えることは……」
アリアが黒板に大きく文字を書く。
「反証可能性――自分の理論が間違っていると証明できる余地を残しておくことだ。魔術で、それを捨ててはいけない」
なるほど、と僕は理解する。
科学と魔術は違う。
だが、どちらも自然を理解し、その力を利用するために体系化された方法なのだ。
どちらも自然を理解する方法として発達した科学と魔術。
魔法のある世界とない世界で、その方法に違いが出たが、どちらも自然を理解してその力を利用するために大家づけられたもののようだ。
ならば、科学と同じように、完全に論理的進んでいるわけではないが、理論が間違った時にはその間違いがわかる方法で理論を構築する「反証可能性」が、魔術でも欠くべからざるものとなっているようだった。
「おまえたちは、これから王国を支える魔術師として成長していくだろう。その時には今日の授業の内容なんて覚えていないかもしれない。しかしな……」
アリアはニヤリと笑いながら言う。
「脳が覚えていなくても、身体が忘れられないくらいにこの基本を叩き込んでやる。覚悟しろ……」
その口調とは裏腹に、彼女の表情はとても慈愛に満ちたものであった。
さて、授業はそのまま滞りなく進み、空間の魔法構造、そして、その特異点の話になる。
「シングラというのは魔術の満ちるこの空間の特異点だ。つまり我々の理解する魔術というもので理解できないものだ。その発生から消滅のあいだ何が起きているのかは全くわかっていないと言っても良い。その対処は長年の中でわかっているとはいえ、その過去を超えたシングラも稀に発生する……」
アリアは一度言葉を切ると、自分にも言い聞かせるかのように言う。
「……ただし、わからないからといって、それで考えるのをやめてはいけない」
アリアは静かに言った。
「最後まで理解するのを諦めるな。魔術の矜持を捨てるな」
そして、教室を見渡す。
「君らは、呪術師ではない……それを忘れるな……」
アリアは話したりなさそうだったが、ここでチャイムが鳴って、授業は終わったのであった。




