外へ
地下の鉄扉が大きく開き、朝霧ユウは久しぶりに外気に触れた。
コンクリートの匂いと、湿った空気の混ざった匂いの向こうに、薄暗い夕暮れが見える。
空かる降る光とやらは、見えない。
目を細めると、廃ビルや倒れた看板が点在する光景。地上はすでに人が生活できる場所ではないらしい。
「うわ……地上、思った以上に……」
ユウは肩までジャケットを羽織り、胸のプロテクターを確かめた。
軽く腕を振ると、自分の身体能力の異常さを改めて実感する。
「さて、初任務だな」
黒川先輩が横で腕組みして言う。
「今日の目標は旧ホームセンター。ランク2。資源を回収して、安全に戻る」
「ランク1はすっとばすのね?デビュー戦にはきつかったりするんじゃないの?」
ユウは肩に手斧をかける。
黒川が眉を上げた。
「ランクってのはな、ただの目安だ。内部の変質状況、怪物の種類、ボスの存在で危険度は全然変わる。あとな、回収は基本一回だけじゃ意味がない。ボスを倒さないとダンジョンは再生成しない。再生成されないと資源も増えない」
「へえ、なるほどな」
ユウはうなずきつつ、空になった通路を見渡す。
「じゃあボスを倒すと資源がまた手に入るってことか」
「その通り」黒川。
「だが油断するな。ボスはたいてい弱くないし、強さも階層によって変わる」
「……ここにはゴブリンってのがいるんだって?」ユウが手斧を握り直す。
黒川が小さく笑う。
「ああ、いる。毛のない猿みたいなやつだ。誰かが勝手に“ゴブリン”って呼んだだけで、実際は人間型の変異種だ」
「ああ、ファンタジーな感じじゃないんだ」
「ここにはいないがミノタウロスなんてのもいるぞ。名前だけで牛要素ゼロだ。角があるだけだ」
黒川は肩をすくめる。
「名前に惑わされるな。見た目がすべてだ」
ユウは口元を歪めた。
「適当すぎて笑えるだろ? でも、危険度はマジだ」
「今回は君の身体能力の確認がメインで、俺たちはサポートに回る」
「任せろ」ユウは肩をすくめてにやりと笑う。
地下生活と監禁で慣れたせいか、初めて見る地上でも、恐怖より好奇心が勝っていた。
ユウは胸のプロテクターを叩きながら、肩をすくめる。
「面白くなってきたじゃん」
廃ホームセンターの屋根に、薄暗い夕陽が差し込み、影が微妙に歪んで見える。
奥に進むと、内部はすでにダンジョン化していることを示す微妙な歪みが目につく。棚の通路が無秩序に伸び、文字化けしたパッケージがちらつく。
静かだが、緊張感のある空気。
「準備はいいか、ユウ」
黒川が背後で言う。
ユウは手斧を握り、肩のプロテクターを確認した。
「ああ、あとは実戦だけだな」
足音が響き、廃ビルの中に静かな緊張が広がる。
物語は、初のダンジョン突入、そして資源回収の序章を静かに告げていた




