装備と先輩の手ほどき
地下広場の片隅に、簡易的な回収班の拠点があった。
ユウは広場に降り立つと、すでに数人の回収班メンバーが準備をしていた。
「朝霧ユウか。初めまして、俺は回収班の先輩、黒川」
背の高い男が腕組みで立っている。
黒いショートジャケットに、手斧を二つ腰に下げていた。
目つきは鋭いが、どこか陽気な雰囲気もある。
「よろしく、先輩……って、あれ、手斧二つ?」
「うん。片方は投げる用。片方は殴る用」
「ざっくりすぎだろ」
黒川は笑った。
「さ、まず装備を渡す。ホームセンターで揃うやつばかりだ」
ユウの前に並べられたのは――
手斧×2
皮のライダースジャケットとパンツ
胸、腕、脚部のプロテクター
「……防具、結構しっかりしてるな」
「地下でも油断できないからな。軽くて動きやすいのが基本だ」
ユウは手斧を握る。
意外に手に馴染む感覚。
振ると筋肉の収縮が自然に手を伝わる。
「さて、ここで回収班のシステムを説明する」
黒川は拠点の端にあるボードを指差す。
簡単な図と文字が並ぶ。
「ダンジョン回収班は基本的にランク制。危険度ランクに応じて報酬と人数が決まる」
「人数って?」
「少人数でも入るけど、危険度が高い場合は複数で挑む。あとは装備次第」
ユウは手斧を握り直す。
「で、俺は何やるんだ?」
「お前は物資回収担当。耐性があるからダンジョンに入れる」
「なるほど。ここからは一人で、とかないよな?」
「注意点としては――」
「一人で行けとかないよね?」
黒川は真面目な顔に戻った。
「身体強化以外の能力の発現はないな?」
ユウは首をかしげる。
「いや、なにそれ」
「つまり、エーテルにさらされて変な能力が突然出ることがあるが、今のところないかって確認だ」
「……火でも吹くってのか?」
「実際、あの白い光に当たると近いことができるようになることがあるんだ。感覚が鋭くなったり、夜目がきいたり」
ユウは胸元のプロテクターを軽く叩く。
「俺、もう充分強化されてると思うけどな」
「うーん、それは見てみないとわからん」
黒川は手斧を軽く振る。
「まずは基本。手斧の使い方、動き方、プロテクターの着こなし、ダンジョン内での立ち回り。順番にやる」
「順番にって、ざっくりすぎるだろ」
「大事なのは慣れること。まずは装備を着て動け」
ユウはジャケットを羽織る。
革が硬く、腕を曲げると筋肉が自然に引き締まる感覚。
パンツとプロテクターも装着。
自分の体がさらに強靭になったことを実感する。
「うわ……動きやすい。軽いのに硬い」
「地下街で走るなら、これくらいがちょうどいい」
黒川は手斧を一つユウに渡す。
「まずは斧の振り方だ。これを持って、壁や木材で練習しろ」
ユウは振る。
筋肉の伸縮が自然すぎて、斧がまるで自分の腕の一部のように感じる。
「……手斧、思ったより強力だな」
「その調子だ。次は投げ方」
「基本の動作なのね」
「危険な場所で距離を取ることもある」
ユウは斧を握り、軽く振りかぶった。
それでも筋肉の反応が速すぎて、斧が振り切る。
思わず笑う。
「……俺、これだけでダンジョン攻略できそうな気がする」
黒川は眉を上げた。
「慢心するな。耐性があるからって油断するなよ」
「分かってる。……ところで、他にも俺みたいなの、いるの?」
「耐性持ちの話か?少数いる」
「少数って?」
「この辺には数人だな。回収班はうまくいけば稼げるから、もれなく有名人だ」
ユウは胸元のプロテクターを叩きながら、にやりと笑う。
「……面白くなってきたじゃん」
黒川は無言でうなずき、腕を組む。
「さあ、次は実際に動いてみるぞ。まずは回収班訓練。俺についてこい」
地下街の通路に、軽い足音が響く。
ユウの手斧が、軽く振られるたびに金属の感触を伝えた。
物語は、いよいよダンジョン突入の準備段階へと動き出す。




