表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
15/18

新人

「次の班員候補だ」


その人物が、ゆっくりとこちらを向いた。


部屋には若い女性が一人。

裸電球が机の上の紙束と、その横顔を平たく照らしている。


制服ではない。

けれど、どこか学生の雰囲気が残っていた。


背筋がすっと伸びていて、手元の端末を閉じる仕草が妙にきっちりしている。


そして。


「……あ」


彼女は一瞬だけ目を見開いた。


ユウと、鳴海を順番に見て。


「……やっぱり」


小さく、そう呟いた。


鳴海が眉を上げる。


「おや。知り合い?」


彼女は首を横に振る。


「いえ。知り合いではないです」


少しだけ、口元に皮肉っぽい笑みが浮かんだ。


「でも、たぶん——あの時ホームにいた人ですよね?」


ユウの頭の奥で、何かが引っかかった。


夕方とも夜ともつかない、色の薄い時間。

ホーム。

電車の風。


真面目そうな女子高生。


「……あ」


思い出すまで、数秒かかった。


「……あの時の」


彼女は軽く会釈した。


「はい。たぶん、あの時のです」


言い方が妙に丁寧で、でも少しだけ距離がある。


「一ノ瀬栞です」


黒川が腕を組んだ。


「同じ転移者だ。耐性持ち」


それだけ言うと、さらに続ける。


「能力はエーテル操作。治療が可能」


鳴海が口笛を吹きそうな顔になる。


「ほう」


「地下街が手放したくない人材じゃ?」


栞は肩をすくめた。


「そんな言い方されると、ちょっと物みたいですね」


でも否定はしない。


ユウは少しだけ眉をひそめる。


「それで……なんで俺たちに?」


黒川が答える。


「本人の希望だ」


栞が静かに続けた。


「探索班に入りたいんです」


その言葉に、鳴海が笑った。


「ほう。危険なほうへ行きたいと」


「ええ」


栞はあっさり言った。


「ここにいると安全なのは分かってます」


少しだけ間を置く。


「でも」


彼女の視線が、ユウに向く。


「帰れる可能性があるなら、外に出ない理由がないですよね」


その言葉は、妙に真っ直ぐだった。


ユウは少しだけ視線を逸らす。


帰る。


その言葉は、最近あまり考えないようにしていた。


地下での生活は、もう日常になっている。

訓練して、潜って、食って、寝る。


正直に言えば——


前の生活より、分かりやすい。


だけど。


将来があるわけでもない。


「俺もなぁ……甘いもの、食いたいし」


気づくと、そんなことを口にしていた。


栞が一瞬きょとんとする。


「……甘いもの?」


「ケーキとか」


ユウは肩をすくめた。


「コンビニスイーツでもいい」


「地下にはないですよね」


鳴海が横から笑う。


「ないんだよ。悲しいほどに」


栞は少し考えてから言った。


「それは……」


真面目な顔で。


「確かに帰る理由になりますね」


鳴海が吹き出した。


「いいね君。嫌いじゃない」


そして、ユウを見て言う。


「まあ俺はこっちのほうが楽しいけどね。命が軽くて、単純だ」


栞が少しだけ呆れた顔をする。


「楽しいって言う人、初めて見ました」


「君は?」


鳴海が聞く。


栞は少しだけ考えてから言った。


「正直に言うと」


「怖いです」


でも。


「家には帰りたいです」


それだけは、迷いがなかった。


黒川が壁にもたれていた体を起こす。


「話は終わりか」


そして三人を見る。


そして最後に言った。


「次の探索班は四人編成にする」


「ユウ」


「鳴海」


「俺」


「それと——」


栞が静かに背筋を伸ばす。


「一ノ瀬栞」


鳴海が笑った。


「さて」


「面白くなってきたね」


地下の蛍光灯が、また一度だけチカチカと瞬いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ