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初任務


搬送用シャッターが軋む音を立てて持ち上がる。

地下の乾いた空気とは違う、少しだけ湿った匂いが流れ込んできた。


「これが初任務の入口だ。規模は小さい。だが油断すんな」


黒川が淡々と言う。


「はいはい、油断しません。そんな余裕はないですよ、今のところ」


「軽口叩けるうちは余裕ある証拠だ」


鳴海が肩越しに振り返る。

いつもの軽い調子だが、目だけは周囲を細かく見ている。


「外の空気、久しぶりすぎて逆に落ち着くわ。あっちのほうが静かでさ」


「ずっと外にいたんだっけ」


「うん。だから多分——」


鳴海は自分の胸元を軽く叩いた。


「エーテルの耐性はある。検査の数値も普通に高めだったらしい」


黒川が短く頷く。


「羨ましいことだ。サポート役。無理はするな」


「了解、班長」


三人で薄暗い建物の中へ足を踏み入れる。


内部は元は商業施設だったらしい。

剥がれたポスター、半分落ちた案内板。

蛍光灯がところどころ点滅している。


平成の空気がそのまま腐ったみたいな光景だった。


無言で歩みを進めるうち、奥の通路の影が、ゆっくりと揺れた。


黒川が即座に手を上げる。

全員停止。


音はない。

だが確かに“いる”。


それは人型だった。


だが関節の位置が微妙にずれている。

腕が長く、首が不自然に前へ突き出ている。

皮膚の色は灰色に近く、表面が乾いてひび割れていた。


呼吸音はない。

ただ、壁に触れながらゆっくりとこちらへ向きを変える。


「……なんかさ」


鳴海が小声で言う。


「音しない系はやだよな」


「同意だ」


黒川が短く答える。


怪物が一歩踏み出した瞬間、

床の埃がわずかに舞った。


ユウは手斧を握り直す。

体が自然に前へ出る。


訓練の通り。

距離、間合い、重心。


「鳴海」


「了解」


鳴海が片手を軽く振る。

空気が歪み、目に見えない圧がクリーチャーの足元を払った。


体勢が崩れる。


「今!」


ユウが踏み込む。


強化された脚力が床を蹴り、

一瞬で距離を詰める。


斧が肩口に食い込み、

鈍い音が通路に響いた。


クリーチャーは抵抗らしい抵抗もなく崩れ落ちる。

まるで中身が空洞だったみたいに。


静寂が戻る。


「……軽いな」


ユウが呟く。


「見た目のわりに中身スカスカなんだよな、こういうの」


鳴海がしゃがんで死骸をつつく。


「外にも似たのいた?」


「いたけど、もっと動き速かった。これはまだ浅い層のやつっぽい」


黒川が周囲を確認しながら言う。


「初任務としては上出来だ。連携も問題ない」


鳴海が立ち上がり、軽く肩を回す。


「いやー、やっぱ人と組むと楽だわ。外だと基本ソロだったし」


「ゴブリンと組んでたって言ってなかったか」


「言ったけどさ。あれは連携っていうか、なんとなく同じ敵殴ってただけだから」


「雑すぎるだろ」


ユウが苦笑する。


通路の奥はまだ暗い。

だが足取りはさっきより軽かった。


初めての実戦。

初めての手応え。


そして確信がひとつ。


このコンビネーションは、

ちゃんと戦える。


黒川が前を向いたまま言う。


「このまま奥まで行く。回収ポイントはもう少し先だ」


鳴海が小さく笑う。


「了解。じゃあ今日の目標は——」


ユウが続ける。


「無傷で帰る、だな」


「当然よ。できたら甘いものもな」


三人の足音が、

静かな建物の奥へと消えていった。

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