戦闘訓練
地下の訓練区画は、やけに明るいのにどこかくすんで見えた。
天井に並ぶのは、白くちらつく蛍光灯と、ところどころに吊られた水銀灯。
点灯音がかすかに響いて、空気が少しだけ古い。
床は使い込まれた樹脂タイル。
壁際には折りたたみ式のパイプ椅子が積まれていて、
「訓練使用後は元の位置へ」とラミネートされた紙が貼られている。
端のほうには、年季の入った大型扇風機が回っていた。
「……なんか体育館の倉庫みたいだな」
ユウが呟くと、
「落ち着くだろ、こういうの。
俺わりと好きなんだよな、昭和と平成が混ざってる感じ」
鳴海はそう言って、ぶら下がっているスイッチ紐を指で揺らした。
中央には人型の訓練用ダミーが並んでいる。
樹脂と金属骨格でできた、重量のある標的だ。
黒川が腕を組む。
「今日は連携の型を作る。
鳴海が崩して、ユウが仕留める。シンプルにそれだけだ」
「俺フィニッシャー確定なんだ」
「お前が一番安定して壊せるからな」
「わかるけどさあ、汚れそうで痛そうで嫌だ。」
ユウが肩を回していると、
鳴海が少しだけ声のトーンを落とした。
「まあ、俺のは便利寄りだからな。
倒しきるってより、盤面を整えるタイプ」
「ゲームのみたいに言うなよ。失敗すれば俺が怪我すんだよ」
「いや、実際そうだろ。
ゴブリンの時も、最初に動き止めるの俺だったし」
その言い方は軽いのに、経験の重さだけは妙に自然だった。
1本目
「じゃ、軽く行くか」
鳴海が手を前に出す。
空気がわずかに揺れて、ダミーの足元に横から風が走った。
ガン、とバランスを崩す人形。
「今」
「言われなくても!」
ユウが踏み込み、肩口に拳を叩き込む。
衝撃が骨格に伝わり、ダミーが後方に倒れた。
黒川が頷く。
「悪くない。そう簡単には倒れないもんだ。
ぜいたくを言うなら、崩しが半拍早いな」
鳴海が首をかしげる。
「力抜きすぎたか。
つい加減しちゃうんだよな、壊れたら後で怒られそうで」
「ターゲット人形壊して弁償はないだろ」
「分かってる分かってる。
でもさ、物って雑に扱うとクセになるだろ?」
ユウは少しだけ笑った。
「変なところで常識出すな」
「お兄さんだからな、一応」
「自己申告制かよ」
鳴海が指を鳴らす。
小さな火が空気に生まれて、ダミーの視界を遮るように揺れる。
「視線切り。
こうすると反応遅れるんだよ、あいつら」
「人形に視線も何もないだろ」
「型の話だって。
現場想定、現場想定」
火が消える瞬間、
ユウが斜めに踏み込み、腰の回転で打ち抜く。
木剣が胴を打ち抜く鈍い音。
ダミーが大きく揺れる。
黒川が口を開く。
「いいな。
視覚便りの相手には効くと思うぞ。これを基本にする」
小休止
壁際に座り込むと、
蛍光灯の微かな唸りが耳に残る。
鳴海がペットボトルの水を揺らしながら言った。
「いやー、こういう訓練ってさ、
ちゃんと人とやってる感あっていいな」
「前は何とやってたんだよ」
「基本ゴブリン。犬みたいなのもいた。
あいつら意外と空気読むんだぜ、
俺が手振るとちゃんと横回るし」
「……何が相手だった?」
「狩り意外だと、頭のない、巨人みたいなやつとか。毛もないくせに無駄に筋肉あってさ。俺が風で足削って、あいつらが横から噛みつく。火で追い込んで、最後は数で押す」
「ゴブリンも大変なのね」
鳴海は笑いながら、少しだけ真面目な声になる。
「でもまあ、あの時の連携と似てるよ。
俺が隙作って、誰かが決める。
あの形、わりと好きなんだ」
ユウは天井の水銀灯を見上げた。
白く、少しだけ青みがかった光。
「……分担が分かりやすいのは助かる」
「だろ?
無理に全部やろうとするとさ、だいたい崩れる」
少しだけ間が空く。
「で、どうよ。やりやすい?」
ユウは短く息を吐いた。
「まあ、悪くない。
タイミングさえ合えば、かなり楽に倒せる」
鳴海が満足そうに頷く。
「じゃあ決まりだな。
俺が場を整えて、最後は任せる」
「責任重い言い方すんな」
「信頼って言葉に変換しとけ」
ユウは苦笑した。
「都合のいい翻訳だな」
「大人のスキルだよ」
黒川が手を叩く。
「休憩終わり。次は動きながらやる」
ユウが立ち上がると、
蛍光灯が一瞬だけちらついた。




