まごうことなきデートです9
映画の内容は半分程度しか入って来なかった。余命数ヶ月の女の子と男の子の感動ストーリーだったが、倒れそうな女の子より、横でポップコーンをひたすら頬張る女の子の方が魅力的だったからかもしれない。
恵茉は何を思ってこれをチョイスしたのだろうか。
後半は思わず見入ってしまった。目まぐるしく変わる息を飲む展開に、これだけの集客は案外少ないんじゃないかって思うほどの出来だった。これから邦画もチェックしていかなければならない。
2時間弱のドラマが終わってスタッフロールが流れ出した。
「高瀬君」
耳元で恵茉の声。意識外からの攻撃に思わず声がでそうになった。
「高瀬君はエンドロール見る派ですか?」
「俺は明るくなるまでいるけど」
ふーん、と恵茉が考え込む。恵茉は画面ではなく周囲を見渡して、誰も席を立ってないことを確認して、
「分かりました。じゃぁ明るくなるまでいましょうか」
俺の耳元で囁いた。それがこそばゆくて、体を少しのけぞらせる。
「普段はすぐ帰るの?」
「いや、そんなことはありませんけど……」
画面のせいで青白くなった恵茉の顔を見た。恵茉と視線は合わない。瞳に流れていたスタッフロールが止まった。
館内が明るくなって、あちらこちらから話し声が聞こえる。
「行きましょう」
「あぁ、うん」
急かされるように立たされて、不注意のまま通路に飛び出してしまった。
「あ」
ちょうど、反対側の席に座っていた男の人も出てくるところで、俺はその人とぶつかってしまった。トレーに乗っていたポップコーンが宙を舞って派手な音を立てて落ちた。
館内の注目がこっちに集まって、直ぐに消える。
「すみません、俺の不注意で」
「あ、いやこちらこそ。大丈夫ですか?」
「すいません、大丈夫っす。自分で片づけるんで」
男性客は俺と後ろの恵茉に軽く頭を下げると、階段を下っていった。
ちらばったポップコーンは思ったより少なくて、横の女の子がほとんど食べていたことを物語る。
焦りながらかき集めて、普段なら手伝ってくれるはずなのだが、恵茉から何も言われないことが気になった。振り向くと、恵茉が座席ではなく、座席の通路にへたり込み体を小さくしている。
派手な音を立てたことが恥ずかしくて注目を避けるように。
「手伝ってよ」
「……恵茉のミスじゃないです。高瀬君のミスです」
「そうだけどさ」
ストローに口をつけてズゴゴ、と音が鳴り終わるまで吸い込んでいた。




