まごうことなきデートです8
始まる前にトイレに行く。鏡の前で顔を整えて、無駄に気合を入れていると、俺よりもやや若いぐらいの男性客が入ってきた。
見覚えの有るような顔をしている気がしたが、勘違いだろう。男性客は俺の顔を見ると、避けるかのように足早で個室へと入っていく。ぼそぼそと個室から呟くような声が聞こえた気がしたが、意識はそんなところに引っ張られるわけにはいかない。
なんてたって、デートはまだ始まったばかりなのだ。
半券を握りしめながら席へ向かう。一番後ろの一番端っこ。いわゆるカップルシートのような、そんな席。
恵茉は座席に深く座り下向きでストローを口にくわえている。その姿勢だとスクリーンは見えないだろう。
「見づらくない?」
「そうですか?恵茉的には全然見やすいというか今日はココなんですよ。絶対に」
「あ、そう」
シアター内を見渡す。さっきの館内の混み具合が嘘のように空いていた。中央寄りの席もかなり空きが合って空席がないわけではなさそうだ。
半分以上席が空いたまま暗くなった。
手を握るタイミングなんて考えることもできない。恵茉の手元に収まったポップコーンを取ることも今の俺にはでき無そうだった。
ギリギリのタイミングでまた別の男性客と俺らと同じぐらいのカップル客が入ってきた。男性客は俺らの列、一番後ろの真ん中に。カップルは俺らと同じように端の2席に座った。
なるほど、映画デートと言うのは映画を見るわけでは無くて、映画を見るという行為をしに行くのだろう。その点では恵茉の方が正しかったと言える、なんて興味のない予告編を眺めながら考えていた。
他にもっと考えるべきことがあったのかもしれない。




